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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1049/1117

1049 初出動

 沿岸州の街道が戦争によって通行が出来なくなって、交易や商売人にとって商売上がったりの状態で、旅人も国に帰る事が出来なくなって必要以上の旅費の工面に悩まされ、それは沿岸州だけの問題ではなく、北方、南方の交易をしている国に対しても被害を及ぼしていて、連合四国に対して早期の対応を求める書簡が届けられていた。

 ベストラ、ディストレアは戦争を止めるように会合を行ってはいたのだが、両国は相手側から仕掛けてきたのだから賠償すれば許してやるとの責任の押し付け合いの収拾の付かない状態が続いていた。

 小さな地域の争いは多くの国を巻き込んだ問題へと波及した戦争は、ケルテ軍が有利に攻撃を続けていた。

 ムーベで被害を出したケルテ軍だったが、それ以降は対策を講じ大きくした盾を持ち編成したムーベ突撃部隊が町に入ると、街道と坂上の二手に別れて弓兵を数日かけて安全になるまで撃退していった。

 ムングロ軍は何度も通用しないのに諦めずに作戦を変えなかった事が敗因で、攻め込んでくるケルテ軍を押し返せも出来ずムーベの町を失うという結果になった。

「ムーベが落ちました」

 国王に入ってくる連絡に大臣一同が動揺する、沿岸州の領土は街道上に町が並んだ一直線の国家だ、しかも首都を中心に数える程の町しかない狭い国土では、攻めるも守るも正面突破で力押ししかないのである、その町を一つでも落とされれば皆が焦るのも当然であり、ムングロ国王よりも大臣達の方がざわついていた。

 押されたという事は自軍の戦力ではもう押し返す力はない、ずるずるとこのままでは時間の問題で首都まで来られてしまう、その時に自軍の戦力がどこまで残されているのか分かったものではない。

「陛下どう致しましょう、このままでは我が国は……メラルド、メラルドに援軍を要請致しましょう」

 南国のメラルドに頼もうと提案する大臣に他の者が待ったをかける。

「いやしかしメラルドとは協定は結んでおりませぬぞ、中立国に頼んだところで力を貸してくれるかどうかではないですかな」

「ではどこに頼むというのだ、今更ケルテに降伏すれば良いのか、どれだけの賠償や条件を突きつけてくるのか分かった物では無いのだ、我々はもう終わりだぁ」

 震える大臣に国王は一喝する。

「まだ負けたわけでは無いというのに情けないことを申すな、考えるのだ何かまだ手立てはあるだろう」

 集まった大臣達は口を噤み考える。

 メラルドが駄目ならあそこしかなかった、恐れ忌み嫌っている国キエヌしか今の状況を打破出来る考えが思い付かなかった、しかし問題もある。

 助けて貰う事を受け入れて貰えてもムングロまでどうやって軍を持ってくるかだった、国家間にはメラルドがある、中立のメラルドが他国の軍を通してくれるはずがなかった。

 戦時中のムングロでは国境を封鎖していて他国の情勢を得られず、キエヌ王とメラルド王女が婚姻を結んだという事実を知らなかった。

「キエヌか……我が国とは何の縁もない国が手を貸してくれるかどうか」

 縁もゆかりもない相手に国王は渋る。

 沿岸州が警戒している国こそがキエヌであり、そんな国に助けて貰うというのがどれだけ危険な事か国王は分かっていてすぐに決断する事は出来なかった。

「やはりここは一度メラルドに援軍を頼んでみて駄目ならキエヌかエストラへ」

「駄目だ駄目だエストラは遠い、しかも弱兵ではないか、そんな援軍が何の役に立つというのだ」

 大臣達の頼む頼まないの言い合いに場は混乱した、しかしどうすべきか決断しなくては手遅れになる事も分かっていた。

「よし、ルイダスの言を取り入れる、メラルドに使者を、メラルドが拒否した場合はキエヌに援軍を頼むとする、すぐに送れ」

 と国王は大臣達に命じた。




 国の中枢で独自に決定されているとは思いもよらないムングロ軍は、占領された町を取り戻すべく町に幾度となく攻撃を仕掛けては奮闘していた。

「ムーベを取り戻せ前進」

 自分達が行った高台からの弓と石の攻撃に町に入る事さえ出来ずに、町の外での戦いが膠着する。

「これでは町に入れません」

「くそっ……真面に戦うのはこちらが不利か、もう時間がないか撤退、撤退」

 折角押せても町に入れなければ消耗戦になってしまう、ケルテ軍の強さを考えれば町に入れそうになく、もう直ぐ日が暮れてしまい街道にいれば自軍が不利になってしまうと哨戒部隊を残して全軍撤退を開始した。

 ムーベを取られたがムングロ軍はこれ以上進軍させないよう、何があってもケルテ軍を町の外には出さない押さえ込みには成功していた。




 軍が必死に敵の進行を抑えている間に使者がメラルドに援軍要請を行ったが、沿岸州の揉め事に介入はしないとの返事が返ってきた、使者はそれでもと食い下がるが返答は変わらなかった、仕方なく使者はその足でキエヌに向かいキエヌ王にも同じく我が国をお助け下さいと援軍要請を行った。

「民間ではあるだろうが、交易を行っておらぬ国に我が国が軍を送る義理はない、それに我が国は先日までエストラと戦っていたのだ、戦後処理もせねばならぬ忙しい時なのだ」

「エストラが……いえ、そこを何とかお願い致します、このままでは我が国は滅亡してしまいます」

「我が国が助けたとして我が国に利がないではないか、そうであろうガウリス」

 エルディール王の呼びかけにガウリスが頭を下げ返答をする。

「はっ、陛下の言う通りでは御座いますが、この地域に平和が訪れた今、先の事を見据えて考えなければなりませぬ、繋がりが無いのであればこれを機に沿岸州と結べば宜しいのではありませぬか」

 とエルディール王に進言した。

「しかし疲れた兵をまた戦地に送るというのはどうかと思う、兵士達もやっと落ち着けると思っているのだぞ、それにメラルドは援軍を拒否したと言うではないか、その国が我が軍を通してくれるとは思えぬ」

「私に考えがあります、大勢の兵が無理なら数千の援軍を差し向ければ宜しいでしょう」

「数千か……ふむそれならば送れるか」

 すると使者が慌てて、

「いえお待ち下さいキエヌ王、それでは……一万、せめて一万の兵をお借りしたいです」

 エルディール王がちらりとガウリスに目をやり困ったなといった顔をするとガウリスから、

「使者殿、我が国が手に貸せというのはムングロを勝利に導けという事ですかな、それとも国からケルテ軍を追い出せば良いのかどちらですかな?」

「えっ……いや、そこまでは聞かされておりませぬが、私としましてはムングロを守れればと考えております」

「分かり申した、国からケルテを追い出せれば宜しいのですな、ではそこまでは手を貸しするとして陛下、魔導部隊を送りたいと思いますが宜しいでしょうか?」

「うむ、許そう、だがこの見返りは必ず受け取るように」

 エルディール王が頷く。

「はっ、使者殿、陛下の許可が下りた、我がキエヌ王国はムングロを助け援軍を送る事とする、その後、相応の対価を貰い受けるぞ」

「魔道士を……わ、分かりました、その様に申しておきます」

 使者は困惑しながらも援軍を得られた事に感謝を述べると、直ぐにムングロへと引き返していった。

「陛下、随分と駆け引きが上手くなって来られました」

「ガウリスの言った通りに話しただけだが、これが外交か……随分と勉強になる」

 と大広間に集まっていた諸侯達の顔にも笑みか溢れた。

「兵士達にも疲れを癒やす時間は与えてやりたかったのは本心だった、魔道士を使う事を思い付くとは流石はガウリスだ」

「先刻の戦いで魔道士達は自分達の力に目覚めまして、今回は彼らに修行の成果を試させたいと思っております」

 そうかとエルディール王は頷いた。

「では魔導部隊に任務を伝えてきます」

 ムングロのいざこざが起きていた事は知っていたが、エルディール王の結婚式とその後のエストラの戦いがあったので、その間に沿岸州の揉め事がここまで拡大していたとはガウリスも思いもしなかったが、この時機で良かったと思っていた。

 それは魔導部隊の出動に際して彼らを率いるのは勿論グルバヌスであり、彼の初出動であった。

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