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「これで日常に必要な物は大体揃いましたね」
自分の部屋の様子を見て納得した顔でグルバヌスは言った、引っ越しと言っても着替えぐらいしか持ってこなかったグルバヌス達に、元から置いてあった家具だけでは足りなくて必要なものは自分達で揃えなくてはならず、毎日町に出ては家具を運んで貰う作業を繰り返していた。
「やっと固い床から解放されましたか」
何処でも寝られる彼だったが毛布も無しではやはり起きた時の体の痛さから、寝台のふかふかした感触に今夜使うのが待ち遠しかった。
カリン達は二人で同じ部屋にすると言って一番広い部屋からはずっと騒がしい声が聞こえてくる、二人で楽しそうに家具の配置について話し合ってるようだ。
「……二人はまだ掛かりそうですね」
女性の決め事は長い、二人の事はまた後で良いだろうとグルバヌスは一人邸宅を出た。
「少しでも早く仕事を始めないといけないですからね」
魔導部隊から派遣されてきたギルバスという魔道士の案内で魔導部隊の宿舎と修行場という広場を見せて貰っていた、今日は初仕事として行こうとグルバヌスは思っていた。
役職は教育係という建前として名前を貰ったが一士官と何ら変わりのない、だがグルバヌスはその方が気が楽で良く、足取り軽く焼き石で宿舎まで飛んで行った。
初めはガウリスの側で働ければ昇進の機会が手に入るのではと呼びかけに応えただけで、魔導なんて胡散臭く軽々しく考えていたキエヌ兵も自分の力が役に立つ物だと確信してからはより一層修行に励むようになっていた。
今ではグルバヌスが知っている以上に魔道士が増えていて、二十人の魔道士が宿舎に身を置いていた。
グルバヌスの顔を見ると魔道士達が集まって来て、現在自分達の魔導で悩んでいる事などを聞いてくるなどグルバヌスでも戸惑うほどの熱心であった。
「わわ、分かりましたので少し落ち着いて下さい、今日は初日と言う事でまずは皆さんの成果を確認した後に一人ずつ話を聞きますので安心して下さい」
これだけ熱心に魔導を覚えようとしてくれるとグルバヌスも教え甲斐があるというもので、カリンもこれ位の熱意があれば本当に大魔道士になれるのにと思わずにはいられなかった。
修行場に集まり各自の魔導を見ていく、まだまだ力としては一般魔道士に届きそうな人物は数名しかいなかったが、皆のやる気ある表情やなんとかして使いこなそうとする新人を見ていると、グルバヌスは昔の自分を見ているようで懐かしく感じながら一人一人見て回っていく。
(まだ使えそうな人は少ないですが、ここから私の腕の見せ所でしょうか、まずは底上げからやっていくのが良いでしょうか)
知識の共有、各人の育成方法など考えていかなくていけない事が沢山あるというのはやる事がなくなるより良い事で、結果が身を結んだ時の満足感を考えるとやる気が出る。
(彼らはエスタルに対抗出来る唯一の魔道士部隊、彼らを育て上げればギルド一強の時代は終わります)
魔導の勢力分布が塗り替えられ魔道士が選択出来る時代になれば、これまでギルドに好感を持てなかった野良魔道士がキエヌの魔導部隊に来てくれる可能性だってある。
(その為は力を付け世間にキエヌ王国に魔道士部隊がある事を知らせなくてはいけませんね)
考えれば考える程、構想が膨らんでくる、それだけキエヌの魔導部隊には可能性と希望があると言えた。
初日からグルバヌスは指導に張り切り、気が付くと辺りが暗くなり始め夕食の時間になっていた。
「今日はここまでにしましょうか、各自今日教えた事をやっておいて下さい」
集中が切れるとどっと疲れが襲ってくる、グルバヌスも久しぶりに熱中した教育に小気味よい疲れを感じて邸宅に帰ってきた。
「グルバヌス様、何処まで行ってたんですか、夕食が出来てますよ」
ラーダが不思議そうに声をかけてきた。
「仕事ですが……貴方達も本当は連れて行く予定だったんですが、部屋の模様替えに忙しそうにしていたので私だけで行ってきたんですよ」
「あら、そうだったんですか、言ってくれれば準備をしていましたのに」
「……今度から前日に言う事にしますよ」
「さぁ早く食べましょう、お姉様が怒ってますので」
「はい」
尻に敷かれるようにラーダに付いて居間に向かう。
「遅いぞグルバヌス、もうお腹ぺこぺこなんだ、折角ラーダがご馳走を作ってくれたのに冷めたらグルバヌスの所為だぞ」
「はいはい、済みませんね」
こっちは仕事に行っていたのに帰ってくれば怒られるなんて不条理だなとグルバヌスは嘆いた。
「あの、二人に言っておく事があります」
食をしながらグルバヌスは手を止めて二人に言う。
「私達はここに生活だけをしに来たのではありません、貴方達もこの国の士官なんですから仕事をしないとお給金は出ませんよ」
「生活費は?」
「自分達で稼ぐのです」
「お小遣いは?」
「ありません」
「え~」
カリンが口を大きく開けて不満を言う。
「当然です、私だってもう諸侯でもないんです、貴方達を養えるだけのお金は入ってこないんですから、貴方達の仕事は魔導部隊の人達と一緒に修行をしてこの国の役に立つ事です、見た限りまだこの国の人達の力はそこまでですが、カリン……気を抜いていると直ぐにでも貴方を追い抜く人が出てくるでしょう」
「なにっ私を追い抜くだって……ふっ嘘だな、そんな者はこの世に居ないんだぞ」
カリンは大笑いをする。
「キエヌの人達はとても熱心に修行に励んでいますよ、彼らはまだ魔道士の修行をしてからそれ程経っていないのですから成長著しいと言わざるを得ませんね、知りませんよカリンが最弱の魔道士になっても」
「一番弱いだと……私を舐めるな、私が本気になればあっという間に最強になれるんだ」
「へえ、それは見てみたいですね、そうなったらもう私の弟子なんて卒業して私がカリンの弟子になりますよ」
おっ、といった顔になったカリンは何か良い事を思い付いたようで、うんうんと頷いてみせた。
「グルバヌスを弟子にか……面白いな」
目の前に本人が居るのに大声で話すカリンは、
「よしラーダ明日から修行をするぞ、二人で大魔道士になってグルバヌスを弟子にしようよ」
「……」
「まぁお姉様やる気が出て来たのですか流石です、お姉様がやる気を出せば誰にも負けない魔道士に成れますわ」
ぽんっと手を叩いて持ち上げるラーダに、ふはははっとカリンは大笑いした。
この単純さにグルバヌスは無駄口を叩かず、やる気を出したのならどこまでやれるか見てやろうと思った。
「では私も本気で修行をやるとしますか、明日貴方達に修行場を紹介します、そこで魔導部隊の人達と一緒に切磋琢磨して力を付けて下さい、二ヶ月もあれば十分でしょう、その時に成果を見せて頂きましょう」
尤もグルバヌスを越えられるなら当の昔に越えているはずである、カリンの実力では無理があり、グルバヌスの狙いはそこではなかった。
カリンに魔導部隊の人達がどんどん上達していく様を見せれば焦ってくるに違いない、彼女にはせめて下級程度の力は身に付けて欲しいと考えていたのだ。
(これで良いのです、今は魔道士の底上げを目標に、全員がやる気を見せないといけないのですから)
エストラでは出来なかった魔道士の育成がキエヌの地で出来る事に喜んだ。
(私だってもっと強くならないといけないのです、色々と北方にはやり残したものがありますからね、このまま黙って引き下がるつもりはありませんよ)
此処で力を付け来たるべき北方との戦いに向けてグルバヌスの魔道士育成が始まった。




