1046 戦争の終幕
外出は出来ずほぼ部屋で過ごしていたグルバヌス達に、食事時間だけが気分転換になる一時だった。
それもいつまでも続くはずもなく、部屋にやって来たガウリスに陛下が戻られたので謁見する準備をするように言われた。
「分かりました」
それはカリン達にも伝えられ、三人は直ぐに支度をして廊下に集まった。
ガウリスの後を三人は付いていく、カリン達には分かってますねと目配せで注意をしながら階上に上がって行った。
エルディール王とは二度目の顔会わせだったが、前回感じた幼く頼りなかった感じが消え、顔を真っ直ぐ前に向け堂々とした出で立ちに、一国の王という風格を感じたグルバヌスは、
(結婚して王妃を迎えたらこうも変わるものですかね、これが男になるという事なのでしょうか)
という印象になっていた。
エルディール王の隣に新たに設けられた玉座は空席のままで王妃の姿はなく残念に思った。
(国王をここまで自信に満ちさせた王妃様がどの様な女性なのか見てみたかったですね)
グルバヌスが謁見への口上を述べると、エルディール王が三人を眺めていた。
「グルバヌス、其方はエストラの臣下ではなかったか、何故国を離れた」
「はい、私はこの度のキエヌ侵攻には反対しておりました、お互いが平和に暮らせればと先王であるキエヌ王と和平に尽力したのです、私は北方の人間、この地域で起きた過去については話でしか知りませんので、エストラの人達がどの様な感情、わだかまりを抱いているのか知りませんでした、その事で国では私一人が反対した所で止める事が出来ず戦争の道へと決まってしまいました、私はその事に失望し爵位を返上して国を出て来たので御座います」
当然言われるであろうと思っていた質問に、グルバヌスは素直に答えた。
エルディール王は静かにグルバヌスの言葉を聞き、話し終えた所でガウリス大公に質問をする。
「ガウリス、この者の話を鵜呑みにして問題はないのか?」
「はっ、問題は御座いません、グルバヌス殿は敵国の臣下ではありましたが、和平を結んでからは我が国にお力をお貸し頂いており、少なからずグルバヌス殿の人柄については理解しております、これからのキエヌ王国発展にはグルバヌス殿のお力なくては厳しいものとなるでしょう」
「ふむ、父上の時からの付き合いとはいえエストラ臣下だ、その国が先日我が国を攻めてきたばかりだというのにこの者の言葉を信じられるのか、もし報復の為の間者だったらどうするつもりだ」
「それはないと思われます」
「何故言い切れる?」
「エストラ侵攻を我が国に伝えてきたのがグルバヌス殿だからです」
「なんと」
「陛下には急を要した為、詳細までお伝え出来ず申し訳御座いませんでしたが、グルバヌス殿が伝えに来てくれなければガル方面はエストラに占領されていたでしょう、ガルの反乱もエストラの扇動が原因、現在は鎮圧しておりますが内と外の両面から攻められていたなら我が国の被害は甚大なものとなっていたでしょう」
「そうだったのか、エストラが攻めてきたと聞いて心配はしていたが、その様な事があったのか」
「はっ、陛下の幸せな時間を心配事で汚したくはありませんでいたので最小限のご連絡だけと考えての事、どうかお許しを」
「その様な事情であれば許す」
まるで申し合わせたような芝居めいた二人のやり取りに、グルバヌスは何だこれはと呆けたように聞いていた。
「ではグルバヌス、ガウリスの言った事を信じるとし其方とそこの二人に聞こう、我に我が国キエヌに対して忠誠を誓い臣下として士官する事を願うか?」
「はい、これからはこのキエヌ王国、エルディール陛下の下で尽力を尽くしたいと思います」
「誓います」
「誓います」
グルバヌスに合わせてカリン達も答える、それにエルディール王は頷いた。
「ではこれからは我の命に従い、我の為に動くよう心掛けよ」
「はい」
グルバヌス達が返事をした。
「グルバヌス殿、今後は我らと共にこのキエヌを盛り上げていきましょうぞ、貴殿の力は必ずやキエヌの役に立つ事、早くその力を陛下にお見せ出来れば喜ばれるでしょうぞ」
ガウリスが嬉しそうに喜ぶ。
「では陛下、私はグルバヌス殿達の住まいの案内がありますので失礼致します」
こくりとエルディール王が頷くと、ガウリスは三人を連れて城を出た。
「グルバヌス殿、申し訳無い」
城を出たグルバヌス達にガウリスが謝ってきた。
「はい、いきなり謝られても……何かありましたか?」
「うむ、陛下には貴殿に爵位をと申し出たのだが、元がエストラ臣下だというので信用出来ぬと却下されたのだ」
「あぁそういう事でしたかお気になさらず、私に爵位を与えても魔道士の私にそれに見合う働きが出来るかどうか分かりませんので、この国で働けるだけで十分満足しております」
「ふむ、陛下は貴殿が魔道士育成に関与している事は知らぬでな、爵位を頂ければ生活面も安泰だったのだが、それについては儂の方で生活が出来るぐらいには工面しましょう」
「助かります、有り難う御座います」
用意されていた馬車に乗り込み城内を出た一行が向かったのは貴族街だった、諸侯に取り立てて貰えなかったグルバヌス達だったが、ガウリスの計らいで貴族街の邸宅に住めるように用意をしてくれていた。
「こんな大きな家に住むのですか?」
「三人ならこれ位でなくては不便でしょう」
わあ、とカリン達が笑顔で見上げる邸宅は、ダント宅の横長な邸宅とはまた違う箱形のどっしりとした重厚感のある邸宅であった。
土地はそれ程広くはないが一応庭もあるので目の保養も出来た、部屋の数は少なめだが一部屋の広さが狭さを感じさせなかった。
邸宅に入った三人は感嘆を漏らしながら一通り家を見て回った後、
「こんな良い家をご用意して頂き有り難う御座います、丁重に使わせて頂きます」
「気に入って貰えて結構、もし使用人が必要であれば申して下され」
「はい、その際には」
「うむ、それでグルバヌス殿にして貰いたい事はこれまで通り魔道士の育成をお願いしたい、魔導部隊は教育室としての場も設けてあるのでそこで魔道士達の教育をして頂くのが貴殿の仕事だ、宜しいかな?」
「はい、こちらこそその様に申し出ようかと思っていた所です」
「では後日、ここに魔道士を来させますのでその者に色々と聞いて下され、儂はまだ任務が滞っておるのでこれで失礼しますぞ」
立ち去ろうとしたガウリスにグルバヌスが呼び止めた。
「最後にお聞かせ願いたいのですが、エストラの処遇はどうなったのか教えて頂けませんか?」
「ふむ……」
ガウリスは少し考えて込む、この場で言って良いものか迷っているのか固まった様に動かなかった。
「グルバヌス殿は謁見には出席出来ぬ故エストラの処分については聞けぬか……良いでしょう此処だけの話としてお聞き頂きたい」
「分かりました」
グルバヌスが聞きたかった事、エスタルの処分はもう決まっていた、まだ国としての公表していなかったのかガウリスは静かに話してくれた。
ゼペス王はキエヌで当分の間、幽閉、エストラ王国の方では侵攻に際し軍を率いた諸侯は極刑、その他の諸侯達は市民に格下げと財産の没収、兵士達には武器所持禁止と回収に労働作業の従事させる事となり、国政には処分保留となった各大臣達に任せ、多額の賠償金の支払いをさせる方針となった。
それを聞いたグルバヌスは、
「軍を率いた諸侯の死刑とは……まさかダント様まで?」
「我が国に軍を率いて攻めてきた者達だ、その筆頭はストレイ、奴には此度の侵攻作戦の提案者として当然、そのストレイに付き従った諸侯達が対象となる」
「ではダント様は死刑にならずに済むのですか?」
ガウリスは黙って頷くと、グルバヌスは少し胸を撫で下ろした、それでも戦争立案者であるストレイ候が死刑になるというのも彼にとっては一抹の不安がないわけではなかった。
あれだけ嫌われ嫌がらせをされてきた人物ではあったが、いざ死刑と聞くと悲しく思えてくる、若くこれからエストラ王国を引っ張っていくと思われた彼が、ここで幕引きとなるのは惜しいと感じたが、これも立案者の責任と言われれば仕方ない事なのだろう。
「分かりました、有り難う御座います」
とだけ、グルバヌスは言った。
「……」
ガウリスはそれ以上何も言わず、ではと一言だけ言うと邸宅を出て馬車を走らせて帰っていった。
グルバヌスとガウリスの話を後ろで聞いていたカリン達も少しは話の内容を理解していたらしく、ダント候達が市民落ちした事に酷く落ち込んでいた。
「ダント様達は大丈夫でしょうか?」
ラーダの声にグルバヌスは静かに答える。
「命があっただけでも良しとしなくてはいけません……ガウリス様には感謝です」
助けたい相手がダント候だというのは伝わっていたようで、誰にもバレずにグルバヌスの要求を遂行するにはこれが彼の出来る最善だったのだろう、その事でグルバヌスにわだかまっていた疑惑が晴れていくような感じがした。
(有り難う御座いますガウリス様)
と彼は心の中で感謝を述べた。




