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「あたしがサレスに行こうって言ったんだ、文句があるならあたしに言いなよ」
マリアが食いつくようにタリアに言う。
「そういう事じゃない、仮にも建国すると宣言したんだ、どこの誰から周辺に広まるか分からない状況でお忍びで出掛けるなんて事は危険だと言ってるんだ」
「じゃあずっとサレスを此処に閉じ込めておくって言うのかい」
「出掛けるなら護衛が必要だと言ってるんだ、それだけの人が集まらない内は自粛するべきだ」
タリアとマリアの言い争いにサレスは肩を落として、
「タリア私が悪かったんだ、マリアを責めないでやってあげて、これからはもう少し自重して事に当たるようにする」
「なんでサレスが……」
とマリアの反論にサレスが手で遮る。
「タリアは私の事を思って言ってくれたんだ、そこはちゃんと反省しよう、折角そのドレスを着たのに雰囲気が悪くなってしまうよ」
不満げなマリアの顔を見ながらサレスが答えた。
「もう良いよそんなのは」
とマリアはドカッと音を立てて椅子に座ると、肘をついて無造作に目の前の干し肉を掴み囓り始めた。
「やっと仲良くなったと思っていたんだけどまた元の木阿弥かな、マリアも彼女なりに私達の国家の一員になろうと奮闘しているんだよ、ただドレスが欲しくて買ったわけじゃない、いつまでも革の服でいるよりこれからは貴族や人前に出る事があるだろうと、少しでも私の隣で見栄えるようにドレスの一着でも持っておこうと考えていたようだよ」
「……」
そうだったのかとタリアは思ったが、今更褒める言葉を掛けるのは気が引けて黙っていた。
「旅の途中で出会ったとは言え、ここまで一緒に多くの事を覚えてきたマリアもいまや私達の仲間だよ、彼女なりに私達の仲間になろうと頑張っているんだからちゃんと見てあげないといけない」
「良いよ別に、どうせこいつには娼婦が勝手に付いてきて、いつか勝手に出て行くんだろうぐらいにしか思って無いんだ」
膨れっ面で食べるマリアにサレスがタリアを見て溜息を吐く、そこでやれやれと言った風にタリアが目を伏せてみせると、
「マリア悪かったな、別にドレスを買う事に怒ったわけじゃない、身の安全を考えていただけで少々言い過ぎたがこれからは気を付けてくれれば良い……えっとそれでだな」
ごほんっと咳払いをしてからタリアは、
「まぁなんだ、その話とは別だがお前もドレスを着れば何処かの令嬢に見えなくはないな」
言い終えた後に低く唸った。
どうしてレシティ以外の女性にお世辞を言わなくてはいけないんだとタリアにとっては屈辱だった、サレスはその言葉を聞いて軽く笑った様に見えたがそれで良いといった具合に頷いていた。
当のマリアはそっぽを向いて無言で咀嚼を繰り返していた、聞いていない風にしていても彼女の耳は赤く染まっていて照れているのが分かった。
「さぁもういいでしょう、こんな話を食事の前にするものじゃないです、早く食べて下さい」
と、タリアも居心地の悪さを感じながら食事を始めた。
殺風景な部屋も掃除や調度品を揃えれば、此処がかつては廃墟であった事なんて忘れるぐらいに生活感が出ていた、まだ食卓と椅子に最低限の食器ぐらいしかないが、これからどの様にしていこうかという想像は膨らんでくる。
「ごちそうさま」
一番初めに立ち上がったのはマリアだった、終始タリアを見ないように顔を背けながらも礼儀だけはちゃんとして部屋を出て行く。
「はぁ……」
緊張が解けたようにタリアは一息吐くと、
「どうしたの、そんなに謝るのが苦手だったかな?」
「止めて下さい、どうせ私が悪者になれば事が収まると思ったのでしょう」
「ふふっ、女性に優しくする君は格好良いと感じたよ」
「ご冗談を、あまり甘やかしすぎると調子に乗ってまた町に行こうなんて言うに決まってますよ、止めて下さいよ人がいない時に勝手な行動は」
「分かってるよ、でも町に出向くのはそんなに悪い事じゃなかったよ、久しぶりに良い運動になったしそれに……」
サレスが言葉を止めた。
「なんですか?」
甘酸っぱい果物の乾物を囓りながらタリアは嫌な目で彼を見た。
「良い情報も手に入ったよ、聞きたいかい?」
「二人しか居ないんですよ、その言葉を出したと言う事は言いたいのでしょう、今更勿体ぶってもし私が聞きたくないと言ってたらどうするつもりだったんですか」
「やっぱり君だけが僕の事をよく知っている、良いよ教える……エスタル王が殺された様だ」
「……はい? 今何て言いましたか」
エスタル王が死んだとサレスは言ったのか、そんな重大な事件を何故今まで隠していたんだと思い聞き返した。
「エスタル王が暗殺されたようだよ、その両親つまりは前国王夫妻も一緒にね」
サレスはもう一度ゆっくりと言った。
「それは、一体いつの話ですか?」
「去年の雪が降る直前だったようだ」
「しかし私が買い出しに行った時はその様な話題は聞こえていませんでしたよ」
「君が買い出しに行ったのはサスタークだったよね、その頃はもう雪で街道は人の行き交いが止まっていたんじゃないかな、エスタルでは今後国がどうなるのか人々の心配は先にあるようだね」
「いやそれはそうでしょうが、もう一つ気掛かりがあるんですが……エスタル王が亡くなったのが数ヶ月も前なら私達魔道士はどうして今でも魔導が使えているのかその方が私にとっては大問題なんですよ……」
伝説では魔導王が居なくなれば魔力は消え魔法が使えなくなる、つまりは魔導の消滅というのがこれまで信じられてきた言い伝えである、もしかするとこれからじわじわと魔力が弱まり魔導が使えなくなるのかも知れない恐怖に、タリアは戦慄を覚えた。
魔導が生活の中で当たり前のように使われるようになった時代でいきなり旧時代の生活に戻れるのか、魔導に頼ってきた北方の情勢が大きく変わろうとする大事件に他ならなかった。
「どうするんですか私達に魔導の力がなくなった場合、只の人間となった者達で国なんて建国出来ませんよ、これは一大事だ……カミュラさん達にも知らせないと」
「タリア落ち着いてよ」
慌てるタリアを落ち着かせるようにサレスの声が穏やかだった。
「まだ魔導が消えるかどうか分からないよ、君達が信じていた伝説がもしかしたら偽りだったらどうするんだい?」
「嘘……だったと?」
「魔導の始祖である初代エスタルが力を誇示する為、もしくは保身の為にそう言った話を作った可能性だってあるという事だよ、これまでエスタル王が途切れずにやって来られたから分からなかっただけ、本当はエスタル王が死んでも何も変わらないのかも知れないよ」
「それはそれでまた大事件ですよ、魔導王に従ってきたギルドなんかはこれまでそう信じてきたのに騙されていたと言う事なってしまいますからね、導師や上級の魔道士が一斉に暴れ始めたらどうなるんですか、それこそ世界が混沌へと落ちていきますよ」
「でもそうなっていないよね」
「……そうですが」
あれ、とタリアは思った。
どういう事だ、魔導は消えず上位魔道士達の暴走もなく何事もなく数ヶ月を過ごしている、これはどういう事だろう、もっと激しい変化が起きていてもおかしくない事件なのに一向にそんな声は聞こえてこないのは不思議だなと感じた。
「まだ何かがあるみたいだ、私達の知らない何かがね」
「私達、魔道士にも分からない事……ですか?」
学校で勉強をしてきた内容には魔導王は絶対敵存在と教えられてきた、それなのにまだ魔導について隠されていた内容があったと言う事か、それとも誰も知らなかった何かがあるという事なのか、タリア達魔道士にとっては重大な事案であり今後の在り方を左右する出来事であった。




