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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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「カミュラさん」

 戻って来てから三日、丁度城の外へ出ようと扉に手を掛けた所、先に扉が開いてその先にカミュラが立っていた。

 帰ってきてから初めて顔を合わせたタリアは驚いて名を呼んだ。

「城にいませんでしたが何処に行ってたんですか?」

「ふむ、サレス殿の要望で森を切り開いておったのだ、いちいち城に戻るのも面倒でディトロスと森の方で過ごしておった」

「ええっ……こんな雪の中で何日もですか、良くご無事でしたね」

「そうでもない、穴倉を作るのは得意じゃからの、燃料は腐るほどあるんじゃ食糧さえあれば特に苦労はなかったぞ」

 確かにサンの住処も自分で作ったと言っていた、しかし暑さと寒さじゃ生活にもかなりの違いがあるだろうに、何日も過ごしていたとはタリアには真似が出来ない事だった。

「それで仕事が終わったから戻って来たのですか……」

「ふうむ、木材はある程度集め終えたのだがどこまで森を切り開けば良いかサレス殿に意見を伺おうと戻って来たのだ」

「ではまた森に行くんですか?」

「まぁの、城にいてもする事が無いよりは時間潰しにもなるだろう、それにディトロスと魔導の修行も出来るでな」

「そ、そうですか……」

「お主もまた任務を与えられたのか?」

「いえ、私は少し外の様子を見ようかと思ってた所です、あの……カミュラさん少しお話は出来ますか?」

「なんじゃ?」

 久しぶりに会ったカミュラに聞きたい事があったタリアは、サレスとの話が終わり次第、自分の部屋に来て欲しいと言い残してから別れ、部屋を暖かくしながらカミュラが来るのを待った。

「お主から話があるとは珍しい事だな」

「それより寒いでしょうから火の側に座って下さい」

 こうしてカミュラと話すのは何ヶ月ぶりだろうか、年上のカミュラは力も魔道士としても上で少々厳格な性格で冗談を言い合うような事もなく、元々寡黙なカミュラではあるが聞けば話してくれる柔軟さはあった

 サンでは色々と助けて貰ったのもあってか、師と弟子のような関係が続いていたが別段億劫に感じる事はなかった。

「ディトロスさんの事なんですが……」

 タリアは暖炉の火に手をかざしながら話を切り出した。

「奴がどうした?」

「いえ、あの人の事を殆ど知らないものでどんな人なのかなと」

「ふっ、それを儂に聞くのか、直接奴と話せば良いではないか、儂とてそれ程奴のことなど知らぬし興味も無い、名と意志が分かればそれで良いと思っておる」

「話す機会もないですし貴方はどんな人ですかなんて聞けないからカミュラさんに聞いているんですよ」

 タリアは困った様に言い訳をした、カミュラの言う通り名と目的が分かればたいていの場合それで問題はないだろうし、カミュラの事も何を知っているかと言われればサンで出会って助けて貰ったぐらいの仲なので、彼の氏素性や経歴も殆ど知らない、しかし何故かカミュラに対しては話しやすい分、それ以上聞く必要いらないかなと思ってしまう。

「ううむ……奴はアルステル出身と言っておったな、無口な奴で野良になったのは一人の方が気楽と思ってギルドを抜けたらしいが、実際は何処に行っても人が居て集中出来る場所を見つけるのが大変だったと言っていたな、それでサンに来て儂と会ったというわけじゃ」

「ではエスタル王やギルドに嫌悪なく……ですか?」

「さぁな、実力はそこそこあるみたいだがまだ儂には遠く及ばぬ」

「はぁ」

「奴も儂が魔導の相手になってやってから随分と楽しんでおるみたいじゃぞ、一人も良いがやはり対戦相手が居れば己の力量も知れるでな」

「そうですか、では自分の魔導の向上だけが目的なんですね、バッツさんみたいに暴走する恐れはないですか?」

「奴は寡黙じゃからな、あの馬鹿に比べれば己の力に過信してはおらぬが、魔道士は皆どこかしら力を持つと考えも変化する、今の所は問題はないとしか言えぬ」

 野良の一番恐い所は個人で修行出来る反面、誰からも忠告や制止されないので力を付けてくれば自信を持ち、己の力に抑止力が働かず知らずの内に自制出来ない魔力を放出させてしまう所だろう。

 バッツは元から戦いたい欲求、己の力に自信を持ちすぎた結果、暴走してしまったのだ、しかし一概に彼を責めることは出来ない。

 魔道士は多少なりとも自信過剰な性格でなければ向上心が生まれない、代わりに己を客観視出来る自制心も必要である。

 またバッツのような魔導落ちになるような人物かどうかを知りたかったのかと、心配そうにするタリアにカミュラは、

「案ずるでない、奴がまたあの馬鹿のように落ちたなら儂が処理をするだけじゃ」

「ええ……そうならない事を祈ってます」

「では儂は行くぞ」

 そう言って立ち上がったカミュラはまた寒い森へ、ディトロスのいる森へと戻っていった。




(あの人はあの人で元気があって面白い所もあったんだけどな、まさか魔導落ちするとは思わなかったから人は見かけじゃ分からないよな)

「こればかりは今後も付きまとう課題になるかも知れないな」

 ギルドのように管理されていない野良達なので自分達で魔力の自制をして貰わない事にはどうにもならない、カミュラだってその一人でもあり彼が魔導落ちした場合、誰が彼を処理してくれるのだという懸念もある。

「纏めあげる人がいれば安心なんだが……基本野良は我が強いからな」

 そう考えればエスタル王が頂点としてギルドという別組織を纏めている事は管理という意味では完成されているのだろうか。

 一概にギルドは魔道士の向上を阻害する厄介な組織というわけではない、魔道士達からすれば規則だ何処でどんな職業をしているかだの監視されてるような圧迫感を感じる者も居るかも知れないが、安全で修行の成果を評価もしてくれて何かあれば頼れるギルドは、力のない魔道士からすれば強力な後ろ盾でもある。

「孤独で我の強い魔道士を集めてサレス様は統率出来るのかな」

 まだ三人と数が少ないから良いが、これが数十人と集まって来た場合の事も考えておかないと命取りになってしまう恐れもある。

「まぁあの話術の魔道士に任せておけば良いだろう」

 難しい事はサレスに丸投げ、これが一番だというのがこれまでの経験上で覚えた事であった。

「そろそろ飯の時間になるな」

 カミュラと話して考え事をしているといつの間にか昼時になっていた、食事も自分達で用意しなければ誰もしてくれない、こういう生活は慣れていたが国を作るならやはり侍女や女官がいてくれれば随分と助かるなと思いつつ食料庫に向かった。

 食事と言っても今の季節、殆どが乾物と酒が中心である。

 土地柄、海も川も遠く周囲は森しかない場所では農耕が中心となる、その為の土地も確保済みだが人が増えれば農地を拡げなくてはいけなく、今は木材収集と兼ねてカミュラ達が伐採をしてくれていた。

「あまりこういう物ばかりは体に悪いんだが……」

 がさごそと樽の中から干し肉と乾物の果物を皿に乗せいき、小樽の酒を持って簡易の食堂へと向かって行った。

 卓上に置かれた質素な食事にいつも見栄えしないなと思いつつサレスとマリアを呼んだ。

「あまりお腹は減っていないんだけどね、果物とお酒だけじゃ駄目かな?」

 部屋に来たサレスの第一声がこれである、少しは食べる様になったかと思っていたが最近また小食に戻って来たようだった。

「良い物じゃないですがちゃんと食べて下さい」

「手厳しいね」

「お腹空いた」

 と飛び込んできたのはマリアだった、相変わらず食欲だけはあるようだ。

「お前その格好は……」

 タリアが顔を上げた瞬間、目に入ってきたのはマリアのドレス姿だった。

「どうだ、良いだろう」

「ううむう」

 赤いドレスに身を包んだマリアはこの雪に似つかわしくない正反対の暖色で、袖が長く極力肌を隠している所は評価出来たが、褐色の肌に茶色い髪に赤色は逆に艶めかしく見えた。

「エスタルに行った時に買って貰ったんだ」

「エスタルに……私が居ない間にエスタルに行ったんですか?」

「数日雪が収まった時があったんで暇潰しに行っただけだよ」

「仮にも国王になろうとしている人が軽々しく出歩くものじゃないですよ」

 やはり目を離すと何をしでかすか分かったものじゃないなとタリアは思った。

「心配はいらないよ、誰も私の事など知らないんだから、それにエスタルの首都に行ったわけじゃない小さな町にだよ」

「誰かが言いふらしていたらどうするんですか」

「もうタリア、そんな事はどうでも良いんだよ、私を見ろ!」

 折角のお披露目を二人に台無しにされたと感じたマリアは叫び声を上げた。

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