1035 合わさる力
ゼペス王は連行されていき、エストラは三万のキエヌ軍によって実質支配下に置かれた。
主要な王侯貴族は城の地下牢に監禁、兵士達は兵舎内の敷地なら自由に活動してもよいと軟禁状態とした。
武具は一カ所に集められて保管され貴族街はキエヌ兵が巡回、エストラ国民には平時通りの生活を心掛けよと発表を行った。
一方キエヌでは凱旋をしたガウリスによってゼペス王を牢屋に入れると、自分は直ぐに結果の報告を伝えにメラルドに向かった。
向こうではもうエルディール王の結婚式は終わっている頃合いで、今は夫婦となったセトラーゼ王妃と悠々自適に生活をしているはずであるが、今キエヌに帰ってきて来て貰うには戦後処理で新婚生活に影を落とす暗い話ばかりになってしまうだろうと、もう少しの間メラルドに滞在して貰えるよう説得しに向かった。
そこでエルディール王に今回の流れとゼペス王、しいてはエストラの処遇を決める提案をいくつか上げた。
エルディール王にとって初めての大きな決断でもあり、ガウリスは事細かにこうした場合の先行きまで説明をした上で決定して貰いたいと申し出た、それに対しエルディールは大きく頷き夜半まで他の諸侯も交えてで協議を重ねた。
今回の戦争責任の最高責任者であるゼペスの処遇は本来なら極刑が妥当なのだが、ゼペスを殺せばエストラで大規模な抗議、反乱、暴動が起きる事は予想され、これにはガウリスも推奨しなかった。
「私が反対するのはエストラ民の問題だけでは御座いませぬ、エストラという国の位置が遠くゼペスを殺せば我が国が支配しなくてはなりません、そうなれば全土を監視するには人が足りません、それに我が国は今回の戦争でガル地域にはまだ隠れた反乱分子がいる事が分かりましたのでガル方面の監視に力を入れねばならず、今は全てを統治する余裕が御座いませんので、私はゼペスを殺すのは得策では無いと考えます」
うんうんと感心したようにエルディール王が頷く、他の諸侯達も納得したように異議する者はおらずガウリスは言葉を続ける。
「しかしそれでは我が国の被害や条約破棄の問題に対し示しが付きません、そこでゼペスには虜人という名でキエヌで生かし、エストラにはキエヌから人選した者に国政を任せれば宜しいかと、ゼペスが生きていればエストラ民も大人しくしているでしょう」
その場にいる誰もがそれは良い考えだと頷く、しかしエルディール王はそれで解決出来るのかと聞いてきた。
「今回の戦争責任として数名の諸侯と大臣を処罰の対象とし、他の者達は市民へ格下げ、賠償はエストラの国庫、物資の没収する事で国力を下げておけば当分は安全と言えましょう」
エストラを落としてもまた反撃の準備をされては困ると思っていた。
王妃を娶ったと言うのに彼女をキエヌで戦火に巻き込む事だけは避けたかったエルディール王は、その懸念を払拭出来る言葉を待っていた。
「セトラーゼを幸せにしたい、エストラやガルから反抗の意志が取り除ける事なら何でもやってくれ、許す」
「御意に……陛下には今暫くメラルドにご滞在願いまする」
うん、とエルディール王は政策に関してガウリスに一任した。
「皆も陛下の身辺の守りを頼む、ここも他国だというのを忘れずにな」
「お任せあれ」
「では陛下、私は本国へ戻ります」
と言って、またガウリスは急ぎキエヌに戻って行く、戦争が終わったというのに慌ただしい日々にもガウリスは疲れを顔に出さずに動き回り、彼の仕事はこれから始まると言ってもよかった。
そして三日間、エストラの国を見守っていたグルバヌスだが、諸侯、大臣達が城に連行され町中にキエヌ兵が警備、巡回してエストラ民の騒ぎや争いの鎮圧を見ていた。
どれも小規模で何名かは捕らえられていたが、兵士達のこれ以上騒ぎを起こせばゼペスの命はないぞとの言葉に国民達は何も言えずに引き下がっていった。
「戦後なのに随分と平和に勝てたものですね、流石はガウリス様の采配といった所でしょうか」
戦争しかも首都での戦いの後だというのに建築物の破壊もなく、国民への虐殺や略奪も起きなかった、ただ通りには多くの死体と血溜まりだけが残されていたが、その処理が済めばここで戦いが行われたと言わなければ分からないぐらい綺麗な戦争と言えた。
この時代では珍しいぐらいに規律が行き届いていて、その頂点のガウリスという人間がいる事がキエヌ兵の士気の高さを表していた。
「ダント様達は幽閉されてしまいました、どの様な処分が下すのか聞きに行かなくてはいけませんね、エストラの人達も今は静かにしていて下さい」
キエヌがどの様な判断をするのか見定めるまでこれ以上無駄な血を流さずにいて欲しいと、グルバヌスはエストラを後にしてガウリスに会いにキエヌへ向かった。
キエヌの南方統一に複雑な感情を持ったのは言うまでも無くメラルドである。
王女との結婚でキエヌとは深い関係を築き強い味方を得たと感じる一方、関係が拗れた時に強い発言が出来なくなるのではという恐怖もある。
元が同族であっても思想の違いで分かれてから数十年経ち、その時代の子共や孫の代になって考え方も軟化してきたのかも知れないが、ガルのように長年いがみ合っていた国もあれば、エストラのように過去の憎悪を未だ濃く持ちキエヌに戦いを挑む国もある、その結果が敗戦という形になったと考えれば、メラルドのように手を取り合った事は良い結果だったのかも知れない。
キエヌには問題が山摘みだがもう一国家とは言えない程、メラルドと規模を同じくする大国家となった。
一国家であっても強国と言われていたキエヌが、今や三国を統べるまでになった事は脅威であり簡単に戦争を仕掛けられる様な国ではなくなった。
(済みませんグルバヌスです、誰かいますか?)
間が空いた後、魔道士の一人が返事をしてきた。
(ガウリス様にお会いしたいのですが、おられますか?)
(ガウリス様は現在メラルドに行っておられますが、直ぐに戻ると言ってましたので、もうすぐ戻って来られるかと……至急でなければ用件を伺いますが?)
(急用……とまではいきませんが、少々お話がありまして……)
(グルバヌス様、ハミルです、話の途中で申し訳ありませんが、ガウリス様からグルバヌス様が来られた時は引き止めておいてくれと言われていまして)
遠話中にハミルという魔道士が割り込んできて、ガウリスの方もグルバヌスに話があるような言い方で言ってきた。
(私の方から部屋をご用意させますので城の前まで来て頂けますか?)
(あ、有り難う御座います……では今から城に向かいます)
(分かりました)
と遠話が切れた。
これは良かったとグルバヌスは徒歩で城に向かうと、城の前に魔道士が一人立っていてグルバヌスを視認すると、
「ハミルです、客間ですがガウリス様が戻られるまで部屋で泊まって頂いて構わないそうです」
「これはお手数をお掛けします」
と礼を言うと、ハミルに付いて城に入っていった、そこでハミルから、
「グルバヌス様、今回のエストラとの戦いで魔導部隊が初陣したのですよ、皆初めての戦闘で興奮していました、これもグルバヌス様の指導のお陰です」
「それは……良かったですね」
グルバヌスからすれば素直に喜べないのだが、自分が教育した人達が魔道士の力に気付いてくれた事は嬉しく思った。
「まぁ戦果はそれ程でも無かったのですが手応えはあったようです、次から自分達の役割をもっと理解して戦術が上手くなりたいと言っていました」
「人それぞれ属性が違いますし私も全て分かってませんので、基本しか教えられないのが申し訳無い事です」
「ガウリス様が仰ってた新しい力を知っただけで世界が広がった感じがしますよ、さぁこの部屋です、ガウリス様が戻られたらまたご連絡しますのでごゆっくりしていて下さい」
通された部屋でグルバヌスは一息付く、直ぐに戻ってくると言っていたので一日二日だろうと思っていたら、思いの外、ガウリスの帰国は早く次の日の昼頃に帰ってきた旨の連絡が来た。
「グルバヌス殿、お待たせして申し訳無い」
「いえ……こちらが勝手に来たのです、戦後でお忙しい中、こちらこそ申し訳御座いません」
ガウリスとグルバヌス、二人の英雄は小さな部屋でお互いの今後の展望の話し合いをする事となった。




