↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の魔導   作者: 雪仲 響


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1022/1117

1022

 寒い気候になれた所為か砂漠の急激な気温に身体から汗が滝のように溢れ出てくる、砂漠を越え南方の少し和らいだ気候に入って休憩をとった。

 上がった体温を徐々に下げて身なりをしっかり整えてからラミールに入った。

 懐かしく清々しいこの気候で何年過ごしてきた事か、年間を通してそれ程変動のない穏やかな気候で愛しい人との出会いがあり、その人の為にと一緒に国を守った事を思いだしていた。

 タリアは懐かしい空気を目一杯吸い込んで吐き出し、身体の中から順応しようと何度も深呼吸を繰り返した。

「はぁ……服を持ってきて正解だったな、こんな汗臭いローブ姿じゃレシティさんに会えない、今日は一泊して綺麗にしておくかな、あぁ湯浴み用の香水も買ってみようかな、服は前に洗ってから随分と着てないから虫食いが無いか確認しておかないといけないな……」

 と、一人ぶつぶつと喋りながら町へ向かっていた。

 時間を気にしない任務がこんなにも気楽で良いのかと、逆にあれもこれもとせわしなく考えてしまう。

「ううむ……」

 宿に入ったタリアは早速持ってきた服の確認をした、穴あき色褪せ等はなかったがどうもこの着慣れた一張羅を見て不満げだった。

「余り着る事が少なかったけど何年も前に買った服だしな、いっその事、新調して服を買おうかな」

 急にお洒落に目覚めたのか、貴族らしい服装を購入したり髪も綺麗に切って貰い身なりを整えたりとその一日掛けて町を練り歩いた。

「私なりには良くなった方だろう」

 いつもは質素な服をローブで隠している魔道士がお洒落に気遣うなんてサレスが聞いたら笑うだろうと思ったが、タリアは名目としてラミール国王に謁見するのだからこれ位は当たり前だろうという言い訳を自分に言い聞かせ、わくわくしながら明日の為に早めの就寝をした。

 早く起きたタリアは直ぐに湯浴みをして買ってきた花の匂い袋で念入りに身体を洗うと、新調した服を着て最後の体臭確認を行った。

「うん、良い感じだ、これなら変に思われないだろうな」

 支度が終わってもまだ城に行くには時間が早く、タリアは部屋でじっとしているよりも町に出てゆっくりと時間を潰しながら逸る気持ちを抑えていた。




 そろそろかなと貴族街の門番にサレスからの使者だと告げると、流石にサレスの名はまだ通じるらしく、事情を説明すると城まで馬車で送ってくれる事となった。

 窓から眺める町並みはあの戦争の痛手から復興出来たようで、整然と並んだ家屋に戦前と変わらぬ綺麗な風景が目に入っていた、しかしよく見れば家屋は新しく全く知らない家々が建っているのがここで戦いが行われていた証拠でもある。

 通りは覚えていても既に見知らぬ町になっていてタリアの住んでいた家も違う家に建て替えられていたので、もうここに自分の家はないんだなと寂しそうに見つめながら城に到着した。

 兵士からここでお待ち下さいと城へ消えていく兵士を見ながら、静かに城門の前で暫く待った。

(前なら普通に入れたのに今はもう他国の人間扱いだ、その対応が当たり前なんだが改めて立場が遠くなった様に感じるな)

 ギギギッと城門が開け放たれると、内から出て来た人物がタリアの前に来て、

「サレス様のお付きの方で御座いますね、私はこの国の左大臣をやらせて頂いてますカライで御座います」

「初めましてタリアです、今はサレス様の側で働いております、この度はサレス様からの伝言をお伝えに参りました」

「それは陛下がいつもお気にされていた事です、きっと陛下もお喜びになられるでしょう、どうぞこちらへ」

 見知った城の中を案内されて謁見の間に行くと、玉座の前に置かれた円卓にレシティが座っていて、タリアを見ると立ち上がり彼を待つより自ら近寄ってきて、

「先生、お久しぶりです」

「ご無沙汰しておりますレシティ陛下」

「お元気で何よりですわ、さぁこちらへ」

 国王らしからぬ態度に戸惑いながらも円卓に促さ椅子に座る。

「何故こんな所に卓が……」

 何人座れるのかと思う程の大きな卓を挟んでレシティと向かい合った。

「いつもここで会議をしているのです、今は私一人で決めるのではなく皆で話し合って決める事にしているのですよ」

 彼女らしいと言えばいいのだが、他国からすれば異例中の異例な事だ。

「それはまぁ変わった事で……あまり聞いた事がありません」

「先生だって随分とお変わりですわ、髪も整えられていてなんだかお綺麗になられましたね」

「そそ、そうですか?」

 おめかしをしたのを見破られて動揺を抑えてタリアは平静を装う。

(一目で分かるぐらい変わった様に見えたのか)

「レシティ陛下はお変わりなく安心しました……よくラミールをここまで復興されまして町を見て驚きました」

「それもサレス様がいたからですわ、私は言われたとおりにしただけです、サレス様が残して行って下さった言いつけのお陰でヴァンにも勝利しました」

 最大の困難を乗り越えた余裕のある屈託の無い笑顔に、昔の彼女と重ね合わせても寸分変わらぬ素敵な笑みだった。

「あぁ聞いております、戦時になった際に何をすべきか残してきたと、それはおめでとう御座います、サレス様もそれを聞けばお喜びになるでしょう」

「それでサレス様はお元気ですか?」

 レシティはまさに聞きたかった質問をタリアに投げかけた。

「はい、とても元気です、旅の間に少しは俗世の事も知って貰ったようで、今では一人で火起こしを出来るぐらいにはなりました」

 と少し嫌味っぽく言うと、レシティがくすくすと笑ってくれた。

(あぁこの笑顔が見たかった、何気ない会話なのに彼女と話していると空気が和むこの雰囲気が好きなんだ)

「それは凄い進展ですね、人に任せっぱなしだったサレス様が自分から物事をするだけでも驚きですわ」

「もう庶民になったのだから自分の事はなるべく出来る様になると言ってましたから、私もなるべく手伝わないようにしていました」

「そんな真面な事を言うサレス様は想像が出来ませんわね」

「これからも矯正していき次にレシティ陛下に会った時には真っ当な人間になったサレス様を見て下さい」

 これまでどの様に見られていたのかが分かる台詞にタリアも納得していた。

「でもあの人の事だから頑なにラミールに戻るとは言いませんよね……」

「その事ですが……」

 とタリアは言いにくそうに目を泳がせながら答える。

「本日は現在のサレス様についてレシティ陛下にお伝えするように言われてラミールに来たのですが……」

「何かあったのですか?」

 タリアの不穏な態度にレシティはじっと彼を見つめて、彼が何を言うのか待っていると、

(ううっそんな目で見つめられると言いにくいな……)

 彼女の真摯な眼差しが痛い、怒られるのが分かってるのに言わなくてはいけないのが辛かった。

「えっと、実は……私達は今、北方の元リム王国があった場所に国を作っているのです」

 とうとう言ってしまった。

 タリアは目を瞑りそっと薄目を開けた 、彼女は口を半開きのまま硬直したようにこちらを見つめていた。

「えっ、何ですか……国? 何を言ってるのです」

 レシティは何を言われたのか分かっていないように聞き返してくる、それに対しタリアも、

「ご、ご尤もな反応です……私も聞いた時は同じような反応でしたが、聞いて下さい、今はまだ集落程度の大きさですが城を居住可能なまでに修復し必要な物資もあります、数十件の家屋も作りそこに修復してくれた近隣の住民に移住を申し込んでいます、確実に集落から村へ少しずつ大きくなっていくと思われます……酔狂な事だと思われるかも知れませんがサレス様は本気で建国しようと考えているのです」

 タリアは早く誤解を解こうと早口で説明をしていく、それをレシティは凝視しながら聞いていた。

「えっとそれでですね、サレス様からの伝言ですが……ここまでやって来られたのも君から渡して貰った資金があったからこそだ感謝しているよ、という事です」

 タリアは怒られる前に言っておこうと、直ぐにサレスからの感謝の言葉も付け加えた、すると彼女は、

「それでサレス様は国王になるおつもりなんですか?」

「……はい」

 タリアはどういう意味だろうと判断にあぐねながらゆっくりと返事をした。

「はぁ……全くサレス様にはがっかりしましたわ」

 やはりレシティは怒ってるようである、そりゃそうだろう生活の為に渡したお金を国造りなんて事に使ったのが分かったのだ、レシティが溜息と呆れるだけで済んだのは幸運だった。

「どう言う事ですか!」

 バンッとレシティが卓を叩いて怒鳴り、タリアは吃驚して少し身体が浮いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。