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「これから私達はどうするんだ?」
「サスタークの家ももうありませんし、これから私達は何処で過ごせば良いのでしょう?」
カリンとラーダからの問いに、
「当分は宿で過ごして下さい、心配はいりません貴方達の生活費ぐらいは余裕でありますから、まずは私の用事を終わらせてきますのでその後に何処に行くのか決めましょう」
三人はメラルドの宿にいた。
今、国中の人々は首都で行われている結婚式を見ようと集まっていて、三人のいる町は閑散としていた、その町の宿に身を潜め事の成り行きを見ようとしていた。
「これを……自由にしても良いですが派手に遊ばないように、夜までには必ず宿に戻ってくるように」
と、グルバヌスはラーダに数日間は過ごせるだけのお金を渡すと、二人は嬉しそうに急いで外へと飛び出していった。
「さて、流浪人となってしまったわけですがこれから何処に行きましょうか」
ふと思ったのがローザンのディアンドルの所だったが、彼女の庇護を受けて生活するのは何かと面倒な事を押し付けられそうで気が引けた、そもそも北方なんて敵地に行くようなもので辺境のローザンに身を寄せればもう後がない、それなら南方の何処かでならギルドからも遠く身を隠しやすく安全でもある。
「何も無い森が一番安全でしょうが、生活するには家造りからしていかないといけませんし、そこまでの時間も知識もない三人でどうしろと……それに私はまだ隠居する気も無いですからね」
ここまでマルティアーゼを手に入れようと色々な事をしてきたというのに、ギルドに臆して逃げようとは考えていない、自分の新しい魔導に関してもあれから日々考え試行錯誤の修行を行っている。
人の意識と共感出来る、それが何に使えるのかは明確な答えは出ていないが、自分の力の進化が自分の身を守る唯一の突破口になるかも知れないと思っていた。
「先の事よりまずは目の前の事を整理していきましょうか……」
エストラの間者が元ガル国内に潜伏して反乱分子を扇動すると言っていた、それが成功すればエストラが混乱に乗じて侵攻する手筈というのがストレイ候の考えだった。
「キエヌには北方攻めをして貰わないと、ここで無駄に戦力を削られては困るのですよ」
キエヌの本当の狙いは北方攻めで、エストラを攻める事に端から眼中にないので安心して下さいと進言すれば事足りる問題なのだ。
「潜入で得た情報として進言すれば良かったですかね……しかしそんな国策の内容をどの様な手で得た情報だとか、どの様にして得たと聞かれたら困りますからね」
そういう嫌な質問をしてくるのはストレイ候の得意とするものだ。
「まさかガウリスから聞いてきましたなんて言えませんからね」
国家機密を魔道士がどうやって得たのか答えられなければキエヌとの繋がりを疑われ、本当は敵と内通しているのではないかと思われしまう。
「私を排除する為なら何でもしてくるのがストレイ様ですからね、魔道士嫌いもあそこまで粘着質なら魔道士よりしつこいと言えますね」
エストラの若き策略家という彼が、無名の魔道士一人に全ての話題を持って行かれてからの因縁で、これまで無理難題で貶めてやろうとしてきたが、漸くそのグルバヌスを負かす事が出来たのだからさぞや鼻高々になっているだろう。
「私は別に名誉なんて欲しくも無かったのですけどね、私がいなくなったので羽を伸ばして計略を講じられるのではないでしょうか」
あとはそちらで勝手にやってくれと言いたげにグルバヌスはそう思うのだが、これから彼がする事はそのストレイ候を邪魔する事に他ならなかった。
グルバヌスはその場からキエヌに飛んで行った、ガウリスにエストラが和平を破って侵攻してくる事を告げる為である、しかしガウリスは今メラルドに国王の護衛として出向いてる最中なのを知ってるのにわざわざキエヌに行ったのか。
グルバヌスはキエヌの首都に入ると、魔道士部隊の誰でも言いから返事をして欲しいと遠話を飛ばした。
それは直ぐに一人の魔道士から返事が返ってきた。
(グルバヌス様どうかされましたか?)
(緊急の話を持ってきましたので、直ぐにガウリス様に連絡をして欲しいのです)
(ガウリス様は只今メラルドに行っておられますが)
(知ってます、直接私から接触出来ないのでこちらから急使を走らせて欲しいのです、訳あって私は国を出たのですが、今エストラが和平を破りキエヌに侵攻する準備をしているとお伝え下さい、私からは事が落ち着き次第改めてお伺い致しますと伝えておいて下さい)
その言葉に相手は言葉を詰まらせた、二人の遠話を聞いた他の魔道士達の動揺の声も流れてくる。
(わ、分かりました直ぐに閣下にお伝え致します)
と遠話が切られた。
「あとはどうなるのか情勢を見守るしかないですね」
グルバヌスが去った後、城から早馬が飛び出してメラルドに向けて北へと駆けていく姿があった。
そのガウリスはエルディール王一行と共に城に入り、割り当てられた客間で休んでいた。
式は明日から三日間掛けて行われる、追従してきた世話役の侍女達と明日の衣装や式の進行の流れ等を確認していた、その後も連日護衛としてエルディール王の側を離れず同席を許されていたのでガウリスにはこの結婚式で暇のない計画表となっていた。
盛大に始まった結婚式、朝から首都の通りを埋め尽くす観衆が所構わずメラルド万歳と叫び、店が開くと同時に客達は飲めや歌えやの盛り上がりを見せていた。
城の周りは兵士で守られ厳重な警備をも突破する勢いの民衆達とで揉み合い状態だった。
温厚なメラルド民でもこの日は興奮せずにはいられないようで、連鎖する興奮は首都全体を包んでいた。
その反面、城内は外から聞こえる歓声以外、城では厳粛に式が執り行われておりエルディール王とセトラーゼ王女の二人が礼拝堂を厳かに歩いていた。
(ふうむ、あの王子も王になってから凜々しくなられたか、少し成長されたように見える)
気弱そうで頼りなかったエルディール王も、セトラーゼという女性との出会いで変わったのか、姿勢からして胸を張り堂々と国王らしくなってきた。
(やはり公王の血が流れている、か弱く見えたのは歳のせいだったようだ、もっと歳を重ねていけば立派な王になられるであろう)
メラルドの人々にはそんなエルディール王を若いのに立派な王に見られているのだろうと、ガウリスとしては国の体面が保たれて良かったと思っていた。
エルディールの母親のエリアル公妃も嬉しさの余り目頭を押さえ、祭壇で妻となるセトラーゼに誓いを立てる息子の勇姿を見守った。
式は滞りなく進み、衣装替えの為に引き下がった二人を待っていたそんな折り、本国からやって来た急使の連絡を受けたガウリスの顔色が変わった。
「分かった直ぐに帰国する」
ガウリスは公妃の元に行き、事情を説明すると礼拝堂を出て諸侯を集めさせた。
「帰国するのは儂だけだ、皆は代わりに陛下の護衛と式を頼みたい、早馬十騎を借りる」
とだけ告げると止める諸侯達を尻目に颯爽と城を出て行った。
(警戒だけは怠るなとは言ってあるが、グルバヌスが国を出たか……戦争を仕掛けると分かって逃げたのか、それとも戦争を止めさせられなかった責任を感じたか、まかかエストラも自分の部下に裏切られるとは思って無かっただろうな)
走りながらガウリスは口角を上げて笑っていた。
「くくっ我々の為にエストラには実験台となって貰おうか、自ら檻に入りに来てくれるとは何とも愚かよ、ふははっ」
たった十騎の兵士を引き連れ街道をひた走るガウリスは、作戦を練りながら自国に帰っていった。




