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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1018/1117

1018 埋もれた故郷

 ガシャンと手に持っていた杯を投げ捨てたディアンドルは怒りを露わにした。

 エスタルから届いた書状には、エスタル王ファリスとその両親の毒殺に関する疑いと糾弾が書かれており、最後にマルティアーゼの名があった。

「あの女しくじったって言うのかい……」

 白い吹雪が外界との接触を閉ざし、ローザンを陸の孤島にした季節に届いた書状に、ディアンドルは苦虫を噛み潰したような表情でやり場の無い怒りを周囲にぶつけていた。

 マルティアーゼだけを殺せと言ったはずが、彼女以外の王族を殺すなんて何をしているんだ役立たずがと書状を握りしめて怒鳴った。

 折角親を殺しローザンを自分の物にして、後はマルティアーゼさえ消せばこの国は完全にローザン王族だけのものとなり、ローザンでいまだマルティアーゼの帰りを待つ者達も諦めると考えていたのに、ランの暗殺失敗で全てを失うわけにはいかない。

「分かってるのかいあの女……失敗したらどうなるのか教えたはずだよ」

 ディアンドルはどう返答をするか考え込んだ、これを間違えれば国際問題となり中央国からどの様な事をされるか分かったものではない。

 唇を噛みしめ自室を何度も往復しながらディアンドルは時間を忘れて歩き回り、彼女はこの窮地な時にグルバヌスの事を思いだした。

「こんな時にあの男がいれば……」

 と彼女は舌打ちをした。

 大公夫妻を殺害し用済みになった彼を追い出したのは言うまでも無く彼女で、そんな都合良くグルバヌスがローザンにいるはずもない。

「あの女……戻って来たら覚えておきなさい、まぁ良いわマルティアーゼこれで貴方も一人になったのよ、ここいらで私達の因縁に終止符を打ちましょう」

 ディアンドルの決意はもう探り合いではなく決着の時だと感じていた。

 壮大な姉妹喧嘩は互いに後ろ盾のない一騎打ち、お互い溜まった鬱憤は国を巻き込み国家同士の対決への道へ進んでいくのであった。




 そして沿岸州では争いは目に見えて拡大しお互いを敵視するまでに拗れていた。

 ケルテ国とムングロ国の国境ではお互いの軍が配備され封鎖した街道で睨み合っていた。

 もうどちらから手を出したなんて小さい問題で解決出来ない事案である、仲間がやられたから仕返しをするんだ、こちらの死者はそっちより多いんだと話し合いが出来る様子でも無かった。

 お互いの国王もこれまで沿岸州の小国同士、手を取り合って同格と見ていた均衡が崩れ、経験のケルテ軍か資金で軍備を拡張したムングロ軍のどちらが上がはっきりしようと徹底抗戦の構えを見せていた。

 ディストレア国とベストラ国は同盟国として仲介に入ってはいたが、二国がケルテ側の肩を持つ発言から更に状況は悪化、ムングロ国が同盟から脱退宣言、ケルテに対して宣戦布告をしたのである、それに加え漁業に関して漁獲量の制限解除を行った事で大勢の船が沖に向かい乱獲が始まった。

 漁獲量の不公平から経済格差、争いは戦争へと発展していき、沿岸州はこれまでに無かった係争地になってしまう。

 これに困ったのは商人達である、戦争や争いなんて一銭の得にもならない事で商売の邪魔をするなと怒りを爆発させていた。

 北と南の唯一の大街道を封鎖されれば商人だけではなく、旅人も帰郷できなくなり親戚縁者と分断された者達の悲痛な声が各地で湧き起こっていたのだ、しかしそんな者達の声を掻き消す兵士達の怒号が連日街道上に響き渡る。

 戦況はどちらが上とも言えなかった、個々ではケルテ兵の方が上だが金で増やしたムングロ兵の方が兵士の数では上回っていた、元々拮抗した戦力だった国同士の戦争は誰が見ても長引くであろう事が予想された。




 沿岸州で戦争が起きている頃、その南の国では国を挙げての結婚式が執り行われていた。

 エルディール王とキエヌ軍五千がメラルドにやって来ていた、その護衛にはガウリス大公と他諸侯三人だけが付き添い、国には警備を厳重にするように言い渡してある。

 たった五千ではあったがそれを率いるのは世界最強とも謳われるガウリス大公であり彼が選んだ精鋭部隊である、ガウリスさえいれば倍以上の敵に襲われたとしても余裕で敵陣を切り抜け国に帰る事も可能であり、そもそもガウリス相手に戦おうとする者がメラルドにいるとも思えなかった。

 ガウリスの威風堂々とした鎧姿は見る者を魅了し、これが世界最強のキエヌの守護神なんだと、初めて目にしたメラルドの人々の目には映っていた。

 メラルドの通りを進んで行くガウリスこそセトラーゼ王女と結婚するのではないかと錯覚してしまう程に、前を歩く主役のエルディール王よりも目立っていた。

 メラルドで式を挙げ数日間滞在した後、セトラーゼを連れてキエヌに戻り向こうでも盛大な結婚式を挙げる予定となっている。

 全国から集まったメラルド国民の歓迎を受け王城に入っていったエルディール王とガウリス達。

 奇抜な王城は先端に丸い玉が付いたような尖塔がいくつもあり、壁の色は乳白色で統一されて長い出入り口には彫刻が彫られた高く太い柱が両端にずらりと並び、通る者に畏敬の念を抱かせるような荘厳な建築を見せつけてくる。

 これが何百年も前から維持されてきた建築物で、未だに現存する中で最古の建物だと言われている。

 何度も改修されその度に受け継がれた建築方法も少しずつ進化してきて、実際には昔の手法とは言えないまでもここまで維持出来ているだけでも凄い事で、古代の人々も同じ場所で同じものを見ていたと考えれば時の流れを深く感じられた。

(かつては同じ国民として世界最大の国家を誇っていたというのに、全土を統一しようとしなかった無欲の王の所為で分裂するまで落ちぶれるとはな)

 力を持ちすぎて逆に自分の権力の強大さに恐怖を感じてしまったのか、その時の国王がどの様な性格かは知らないので何とも言えないが、ガウリスからすれば情けない王など不必要で直ぐに退位すべきだと考える。

 公王ならもっと野望を燃やしこれまで以上に版図の拡大に動いていたはずだと、亡き先王がここにいない事が悔やまれた。

(今のメラルド国王も現状に甘んじてる王のようだ、公王がこの国の王であったならば……陛下、王子もまた無欲な王となられるのでしょうか)

 公王の悲願を忘れセトラーゼ王女を愛する日々に身を置く事を選ばれたならどうすべきか、ガウリスは亡き公王が最後に言った言葉を思い出した。

(ガウリス、お前にこの国を託したい)

 一度はその言葉を受け入れたが、やはりキエヌの臣下として補佐する立場を貫いたガウリスは自分の選んだ選択が間違っていたのかと思い始めていた、それがエルディールの王女に対する愛し方である。

 公王と違い大人しい性格の彼は、自分が王になる時に父の念願を果たすので私を補佐して欲しいと言っていたが、やはり若さ故か女性に浮かれて目的から離れて行ってるように見えた。

(妃を迎えた事で少し落ち着いて貰えれば良いのだが)

 妃も国の存続には重要である、しかも相手が他国であれば繋がりも強くなり国の平安に大いに役に立つ、嫌な言い方をすれば人質のようなものである。

 今後、キエヌに問題が起これば血を分けたメラルド王女が嫁いだ国を何とか助けようとメラルドは動いてくれる、だからこそ周辺諸国は他国の婚姻について非常に目を光らせていて手を組まれると困るのだ、しかし今回の縁談は両国の国王と王女の恋愛からの婚姻であり他国が口を挟む余地は無かった。

 エルディールとセトラーゼはお互いを求め幸せの絶頂にあった、それは傍目からも分かる程に純粋な笑顔で見つめ合う二人を止められる者はいない。

(この関係はもっと時間が掛かると思っていたが、予想外に陛下と王女の相性が良かったと言う事か……メラルドは北へ攻めるのにどうしても同盟にしておきたい国だった、これで足がかりは出来た、沿岸州さえ押さえ込めばあとは北方までの順路は確保出来る)

 ガルもほぼ平定と言って良い程、人々の生活は平穏を取り戻し、軍備や兵力も回復しつつある、少しずつガウリスが動く時が直ぐ側までやって来ていた。

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