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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1015/1117

1015 明と暗

 言い逃れの出来ない証人を手に入れ、黒幕が想像した通りの人物であった事に驚きはなかったが残念な気持ちではあった。

 姉妹喧嘩の延長が国王同士、国家間の対立になるとは誰が想像出来ただろうか、もうマルティアーゼはこれまでのように姉に対して遠慮する立場にあらず、国家元首として対応をしなくてはいけない。

 実の親を殺しただけではない他国の王とその両親もの命を奪った責任は重大、その原因が自分であるなら私に対して直接仕掛けてくれば良いのに、自分の手を汚さない回りくどいやり方にマルティアーゼは憤りを隠せなかった。

(お姉様はやり過ぎたのよ、私に対してだけなら我慢も出来た……けど関係のない人達を巻き込んでまで私を攻撃したのは許せないわ)

 幼少の嫉妬から嫌味、そして私を孤立させる為に殺人までする人間だとは思わなかった、一体私に対して何がそんなに不満だったのか言葉にして聞けなかった自分に対しても自責の念はあったが、どんな事であっても越えてはいけない一線さえも理解出来ないディアンドルではないはず、それを理解しての行動であるなら……。

(お姉様にはその覚悟がおありなのですね)

 ディアンドルとの対決の前にまず前国王と両親の葬儀を済ませてからだった、それにまだ国民にも玉座に立つ事は公表しておらず、余り長く国王不在にしていれば不安が広がる恐れもあった。

「陛下、葬儀の時間で御座います」

 ヴァプティス左大臣が部屋にやって来てそう告げると、黒いドレスを着たマルティアーゼがゆっくり振り向き、

「分かりました、では行きましょう」

 と静かに答えた。




 中央国が混乱の渦に包まれているのとは正反対に、キエヌ王国ではメラルド王国との婚約から婚姻へと話は進み、ついには来月、お互いの国で婚姻の儀が行われる事となった。

 国王が他国にまで出向いて婚姻の儀を挙げる等、この時代では異例な事であったがこれはガウリス大公の提案でもあった。

 長い間の因縁に終止符を打ちこれからの時代を共に進む事を誓う為、エルディール王があえてメラルドまで足を運び、メラルド国民にその姿勢を見せつける為である。

 いまだ一部の年配者にとっては忘れられぬ苦い思い出でもあり、例えその時代を知らぬ若きキエヌ王であってもこれまでの憎しみをぶつける相手として絶好の相手でもある、それだけ過激な行動をする輩がいるかも知れない国に行くという危険な旅である事は重々承知だが、これをやり遂げれば絶大な信頼を得られる機会でもあった。

 この早い結婚はエルディール王とセトラーゼ王女の仲がガウリスの思っていたよりも真剣で、お互いの想いが強った事で成立したのであった。

 出会いから再会までも早く、連日セトラーゼ王女の話を聞かされこんな話をしたら喜んでくれた、彼女の笑顔は凄く可愛いんだ等、のろけ話にガウリスも楽しそうにしてはいたのだが。

 国が繁栄する為に国王が王妃を娶る事は大喜びではあるが、エルディール王が幸せを第一に考え、父であるキエヌ公王の世界征服させて欲しい悲願を忘れてしまうのではないかとガウリスは一抹の不安を感じていた。

(これは征服の第一歩だと言うのを忘れられては困るが……)

 とはいえエルディール王もまだ若く恋愛に対して興味もあるだろう、亡き父の想いも理解していても自分の人生を捨ててまで願いを叶えようと思っていないかも知れない。

 ガウリスも歳を取ったのかと思う感じがした、共に歩み信頼して貰ったキエヌ公王に応える為にこの人生を捧げようと思っていたのに、エルディール王にその意思がなければ事は成し得ないのだ。

(情勢は確実に動いている、必ず来る好機に対して陛下には気を引き締めておいて貰わねばならん)

 つい最近、グルバヌスがまたもやキエヌにやって来て、魔道士ギルドと全面戦争になるかも知れないと言っていた、今グルバヌスという魔道士を失うのは不味い状況である、世界制覇の夢が本当に手の届かない夢物語になってしまう。

 グルバヌスがいなければ魔道士部隊の育成もままならず、知識すら得られなくなるのはキエヌにとっても痛手である。

(ムングロ、ケルテの国境で小競り合いが始まったと噂もある、メラルドとの友好を決定づける陛下の婚姻が早まったのは良い事だが、まだ色々と問題を解決せねばなるまい)

 一応ギルドの方は専門外でありそちらの問題は彼に任せるしかなかったが、状況が不利になれば匿える用意はしておくと伝えておいた。

 目まぐるしく変わる世界情勢に時代の変革の始まりを感じているガウリスは、もっと情報を集めて一番最適な答えを導き出そうとしていた。




 そしてグルバヌスはエストラに持ち帰ったキエヌの情報を伝えた。

 キエヌ王とメラルド王女の恋仲は純粋なものであり、エストラ包囲網の政略結婚ではない事をゼペス王に伝えた数日後に、メラルドに潜んでいた間者からキエヌ、メラルドで婚姻の儀が執り行われる公式発表が出たとの情報が舞い込んで来て、グルバヌスの言った通り両国の国王王女が純愛で結ばれた事を知った。

「……」

(あれから数日が経ちますが未だにギルドから何も音沙汰が無いのはどういう事でしょう)

 帰国してからのグルバヌスは荷物を整え、いつでも国を離れられる準備をしていた。

 もしギルドが直接自分ではなくエスタル王国としてエストラ王国に対して使者を派遣し、ローザンとの繋がりやギルド員殺害までを報告されたらグルバヌスのエストラでの生活は終わる、それに備えてカリン達にもギルドとの抗争が発生したのでここを出て行かなくていけないので旅支度をしておくよう連絡していた。

 毎日、通って来るであろう郊外でギルドの魔道士を待ち続けていたが、一向にグルバヌス暗殺やエストラ王国に向けての使者にもやって来る気配がなかった。

(あれだけギルド員を殺して私だと認識していたのに国にも私にも人を送ってこないのは何かあったからでしょうか……)

 エスタルではそれどころでは無い事態に陥っている事を知らないグルバヌスに、傷を癒やし自分の魔導についても考える時間が得られたのは幸運か強運なのか、彼に準備をする時間が与えられた。

 グルバヌスは左肩の傷を擦りながら西の空を眺めながら、

(あの子供……私がここまで追い詰めらたなんて初めてでしたよ、あの時はもう駄目かと思いましたが次に会った時は覚えておきなさい)

 脳裏に浮かぶ敗北と死の恐怖はグルバヌスの魔道士としての誇りを深く傷付け、バルートに大きな憎悪を膨らませていた。

「もっと強く、私だけの魔導を作り出さなくては……それにもっと自制出来る様にならなくてはいけませんね」

 あの女魔道士を殺した時の高揚感、全身が性感帯になったような快楽から逃れられず我を忘れてしまい、まるで自分がとてつもない力を手に入れたと自惚れてしまった結果がこの有様だった。

 実際グルバヌスは強くなっていたがそれよりもバルートの方が上だっただけで、今回の負けによる教訓で彼は目標をもっと上に目指せるようになったと前向きに考えた。

「野良の利点は掟に縛られない自由な魔導、魔法の可能性を引き出せるこの利点を生かせれば相手が導師であろうが勝機は生まれるはずです」

 階級に縛られ自分の力を制御してしまった魔道士になんて負けてたまるか、魔導の発展は野良でこそだとグルバヌスは近付く決戦に備えて決意を固めた。

「もう負けませんよ、マールさんをこの手に掴むまで相手が魔導王であっても負けるわけにはいきません」

 やって来ない魔道士に意気込みを呟いたグルバヌスの目には、野望と執念の炎がめらめらと揺らめいていた。

「もうここまで来てしまいました、後は突き進むしかありません、私達にだけ構っていてはキエヌに足元を掬われてしまいますよ」

 ふふふっとグルバヌスは肩を震わせた。

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