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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1013/1117

1013 消えた給仕

「では私から皆さんに見せたい物があります」

 王位に就くと宣言したマルティアーゼだが、その前にエスタル臣下の前で王となる前に知って貰いたいと、ギルド幹部達も集め壇上に上がると全員に宣誓した。

「私はエスタル王家の血筋として代理のエスタル王となるのではありません」

 そう言ったマルティアーゼは詠唱を唱えると、壇上に巨大な光球を作り出した、それを見た臣下達は驚いていたがマルティアーゼは更に光球に魔力を注ぐと、巨大な光球は密度を上げて小さく凝縮なっていく。

 ただ光り輝く光球ではなく底に太陽が生まれたかのような発光体が大広間が輝き出す。

 目も当てられない眩しさに全員は目を隠す、それでも隙間から入る光で耐えきれなく呻き声が木霊した。

 それを見たマルティアーゼは満足したように掌から光球を掻き消すと、

「私の力、そしてこれを見て欲しいのです」

 と皆に背を向けドレスを脱ぎ上半身を露わにした。

 一同がどよめく、それは彼女の美しい肌を見たからではなくその右肩に現れた王家の紋章を目の当たりにしたからであった。

 魔導王の証、男子にしか受け継がれないという紋章をマルティアーゼが持っているという事実に驚愕し誰もが目を疑った。

「これはどういう事で……」

 動揺の広がる大広間にコドス右大臣が全員の前に歩み出てきて告げた。

「それについては私の方から説明致しましょう」

 マルティアーゼの出生時の出来事や、ストロマエとの話し合いでローザン大公の下に預ける選択をした話を全員に語ると、驚きと納得が交差した声が流れる。

「ではマルティアーゼ様は正統な王位継承者だという事で間違いはないと?」

 はい、とコドス右大臣は頷く。

「これは極めて希有な事例、エスタル始まって以来だと認識しておりますので、この事は特例として厳格に一部の人間のみで伏せられておりました」

 するとドレスを元に戻したマルティアーゼが向き直り、

「私自身この紋章が浮かび上がる事は知っていましたが、これがエスタルの王家の紋章だというのは知りませんでした、アルステルの魔道師襲撃事件で私が王家の者だと知ったのです」

 マルティアーゼは自分がここに至る経緯を伝え、その上でエスタル王として立つ事を宣言すると、

「マルティアーゼ様の魔導とその紋章を見せて頂きましたので一同疑う余地はありません、前王そしてファリス様の意志を継ぎエスタルをお守り下さい」

 老齢のロマンティス公爵が張りのある声でゆっくりと述べた、それに続いてその場の全員が頭を垂れ恭順の意思を見せる。

「ありがとう、お父様お母様それに前王ファリス兄様の為にもこのエスタルを守ると誓います」

 マルティアーゼはコドスに目配せをすると、

「では急ではあるけれど今回の事件について早急に決めなくてはいけない事があります、三人の殺害は毒殺である事は明白、その犯人を必ず見つけ出して欲しいのです」

「それにつきましては既に兵士達には関係者への尋問にあたらせております」

 とコドスが言うと、それを聞いたマルティアーゼが、

「そうですか……ではその関係者の中に探して欲しい人物がいるのです」

「はいっ、それは一体誰でしょうか?」

 マルティアーゼの言葉を聞いて足早に去って行くコドスを見送ると、

「私の王位継承についてはこの場での宣言のみとします、今はお父様達の弔いと犯人の取り調べを最優先にしたいと思います」

 と、マルティアーゼは詠唱を唱えて三つの棺桶の上に光の雨を降らせた。

 誰もが騒がず急逝した現王と前王夫妻に目を伏せ静々と去って行く、マルティアーゼは彼らを見送り、これからのそして起こりうるその先の事を考えていた。

(とうとうこの時が来たのね)




 静かに粛々と葬儀の準備が行われている間にコドスがマルティアーゼの部屋へとやって来た。

「マルティアーゼ陛下、陛下の言われた人物は見当たりませんでした」

「いいえ必ずいるはず、あの顔を私が見間違えるはずはないわ、もう一度調べ直していなくなった者がいないか、国に兵士全員を使っても探し出して下さい、でなければお父様達が報われないわ」

「畏まりました」

 コドスの報告にマルティアーゼは心の中で、

(何故あそこに貴方が居たのかが知りたい、貴方が犯人でないなら私の前に出て来て説明をして欲しいわ)

 思いたくない気持ちとそうであるという気持ちが複雑に絡み合い、もし犯人であったならその背後にいる黒い影との対決を危惧していた。

 王としての立った以上、個人の感情で動くわけにはいかない、国を第一に国益の為には厳しい決断を強いられる事も覚悟しなくてはいけなかった。

(私の決断一つで全てが変わる)

 兵士だけではない魔道士の頂点として君臨するエスタル王の一声は世界の調和すら崩す力がある、それだけの権力と武力を手に入れたという実感をマルティアーゼは改めて自分が立つ国の偉大さに気付かされた。

 着々と進む葬儀に平行して国内に対してもファリス国王の死とストロマエ夫妻の死について発表を出した。

 急逝とだけで原因については伏せられたが誰がどう見ても暗殺されたであろう出来事に憶測が飛び交い、この事は一気に国外にまで波及していった。




「大事件だ」

 宿に飛び込んできたのはダッグだった。

「エスタル王とその両親が死んだってよ、町じゃ大混乱が起きてるぜ」

「本当に? それは直ぐにでも国に伝えないといけないね」

 そう答えたホシーは仲間達を集め情報を共有し話し合った、他の仲間達も既に行き渡っていたようで、既にエスタル中の何処でも国王の話題で持ちきりのようであった。

「俺達が行こう」

 仲間の二人が第一報を持ってエスタルから出て行く、他の者達は次に出る情報は俺が行くぜと体制を整えて待つ事にした。

 静寂を切り裂く重大事件にホシー達の顔に緊張が浮かぶ、エスタルに来てから事件という事件はマルティアーゼ王女がローザンに向けて出て行ったぐらいで、その他は至って平和に暮らせていたが、受け取った資金もかなり消費してきて一度本国に戻ろうかと皆で相談をしていた所の大事件だった。

 しかも国王死亡という話は戦争が始めるぐらいの緊張感があり、この情報の詳細を本国に持って帰れば大手柄となるのは容易に思い付く。

 皆がこれまで以上に躍起になって新たな情報を探しに宿を出て行く後ろ姿に、

「ホシー、これを成功させればかなりの褒美が貰えそうだな、もっと町に情報を探しに行こうぜ」

「うん」

 とホシーとダッグも興奮を抑えつつ皆の後を追って駆け出して行った。




 国葬と言うには質素に行われた。

 病死や自然死ではなく事件死と言う事で、検死の結果やはり料理に混ぜられた毒薬が原因であった、毒味役の使用人には何度も尋問が行われたが彼の言い分の一貫性や殺害理由がなく、魔道士による自白剤でも潔白が証明された為、毒味されて提供されるまでの僅かな間に料理を携わったのは給仕しかおらず、しかも大勢の給仕がいる中で人目に付かずに毒を入れたのかは分からず仕舞いだった、ただ……。

「陛下、給仕の者達はお互い身の上を話す事もない間柄のようで顔ぐらいしか知らないとの事、ですが一人だけいつの間にか見かけなくなった者がいると……それが陛下の仰った名の者で御座いました」

「……やはりそうですか、ではエスタルに戒厳令を発令します、全ての宿、街道で一人でいる女(・)性(・)を全て捕縛、ここに連れてきて下さい、サスタークにまで捜索範囲が広がるようであればダンク王に協力の要請を、私の名を使って構いませんので通達をして下さい」

「畏まりました」

 エスタル全土に戒厳令を出し人々に対し外出を控えるように呼びかけ、国軍が通りを歩き国にある宿屋の捜索と街道を行き交う人々で一人旅をしている女性の検問を行い、翌日から怪しい女性が次々捕縛され城へと連れて来られた。

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