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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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1009/1117

1009 本領

 有無を言わさぬグルバヌスの黒球の連弾をバルートは冷静に光球で全て打ち落としていく。

「デビさん早く行ってです、守りながらは僕もきついです」

「……分かった」

(バルさんの本気……)

 バルートの本当の力を見る事が出来る機会だが、彼の邪魔してはいけないとデビットは馬の腹を蹴って駆け出した。

「逃がしません」

 グルバヌスは巨大な黒球でバルートごとまとめて仕留めるつもりで逃げ出すデビット目掛けて投げつけた。

 視界を覆う黒球に対しバルートも巨大な光球で迎え撃ち、光を奪い全てを溶かす黒球と闇を払い全てを浄化する光球が街道上で白黒の光となって霧散した。

 街道を守るかのように立つ尽くす小さな子供に、自分の黒球が効かなかった事実にグルバヌスが歯ぎしりをした。

(何ですかあの子供は……)

 何故この場所にこれ程の力を持った魔道士がいるのか、いたとしても下級ぐらいだと思っていたグルバヌスにとっては誤算だった。

 上位の魔道士ならエスタルの守りで外に出る事はないと思っていたので、もしかするとこの子供は野良なのかとも考えたが、それにしては力を有するには幼すぎるとも思った。

 逃がしてしまった者達と目の前の子供は何としても殺すとして、あの男の家は覚えてますよ、例え町中でも関わった者がいれば全員殺さなくてはいけなくなりましたね)

 力を付けて浮かれていた自分が驚きと悔しさに染められるとは思っていなくて、バルートを憎々しげに睨みつけて、

「先程の彼の友人と言う事は貴方もマールさんの友人ですか?」

「……」

 バルートは答えない、それをグルバヌスはそうだという返答と解釈し。

「貴方達が邪魔をするからマールさんが困ってるのですよ、貴方達がいなければ今頃は私と人生を謳歌していたというのに……」

 と憎しみを込めて言い放った。

「な、何言ってる……です」

 グルバヌスは何を言ってるんだとバルートはその内容の気持ち悪さに嫌悪した。

(これがお魚さん達が言ってた事なんだ)

 激しい思い込み、マルティアーゼを自分の物のような言い方にグルバヌスの狂い具合がよく分かった。

「マルさんに手を出すのは止めるです、でないと……」

「でないとこうなりますよ」

 とグルバヌスはバルートが言い終える前に突風を前方に起こし、黒矢を突風に織り交ぜて飛ばした。

 いきなりの風にバルートは周りに氷の壁を作ると、カッカッカッと壁に無数の黒矢が突き刺さり壁がじ溶けて崩れていった。

「!」

(風と闇)

 グルバヌスの魔法を知ったバルートは瞬時に相手との戦い方を考え、壁が崩れたのと同時に氷矢を飛ばした。

「!」

 グルバヌスも上位者との連戦で戦い方に迷いもなく、黒球を前面に氷矢の雨を防いでいく。

 お互い自分の得意の魔法を繰り出し街道では黒矢や氷矢が飛び交い、両者びしょ濡れになりながら嵐のような風が周囲の木々を揺らし、黒と白の光が雷のように明滅していた。

 沿岸州に向かう街道で往来する人が少ないとは言え人が来ないわけではない、そんな街道が通行出来ない程、異常な状態に見舞われているのは誰の目にも遠目に理解出来、近寄ろうとする者はいなかった。

 その真っ只中で二人の魔道士は対峙し命の削り合いをしていた。

 二人の力の差に遜色はなく一進一退の攻防が続き、どちらが優勢とも言えない戦いだった。

 グルバヌスはランバーとの戦いとは比べものにならない戦いに、無駄な言い合いをする余裕もなく、自分と同じぐらいの力かそれ以上かもと思わせる相手に、逃げたデビット達の事も忘れ一心不乱に魔法を繰り出す。

 バルートもまた己の力を初めて解放させていた、これまで何処か自分の力を使う事に恐れを抱いていて、もし本気で魔導を使えばどれだけ周りに迷惑になるのか分かっていなかった。

 危機的状況で無我夢中に使った事はあっても意識して使った事が無かったバルートは、自分の力がこんなに凄い状況を作り出せる殊に驚いていた。

(これが僕の力……)

 グルバヌスがどれだけ強い魔道士なのかデビットの話から想像していたが、実際戦ってみてこれが彼の本気なのかと疑っていた。

(まだ本気じゃないのかな、それとも何か隠してるのかも知れない)

 そう思わせるだけグルバヌスが手を抜いていて、隙を見せた時に何か仕掛けてくるものだとバルートは思っていた、だがバルートの予想とは裏腹に攻防に変化は生じずグルバヌスの顔に余裕があるようには見えなかった。

 グルバヌスの攻撃は凄まじいものであるが、それを防ぎつつ攻撃しているバルートの力も相当なものであったが、彼にはまだ余力があった。

(皆がグルバヌスは危険だって言ってたけど僕はそこまで強いって感じないな、これが本気だって言うなら……)

 バルートはグルバヌスを注視しながら隙を探った。

 竜巻を起こし黒矢を飛ばした直後にグルバヌスが一旦詠唱を止める癖を見抜いたバルートは、黒矢を飛ばした瞬間に横に飛び退りグルバヌスに狙いを定めると一本の光の矢を飛ばした。

 魔力を凝縮させた一矢が荒れ狂う大気を切り切り裂き一直線にグルバヌスに向かって行く。

 うおっ。

 彼の口から苦悶の悲鳴が上がった、心臓を狙ったはずがグルバヌスの本能なのか危険を察し咄嗟に体を捻った為に、矢は彼の左肩に突き刺さる。

 一気に荒れていた大気が弱まり街道が静まり返ると、グルバヌスが肩を押さえて蹲っていた、そこへバルートが氷矢の雨を降らした。

「ふざけないで下さい」

 グルバヌスが腕を一振りすると横殴りの風が氷の矢を一掃する。

「くっ……」

 グルバヌスの顔が引き攣っていた、自身の成長に歓喜し負けるはずがないと自負を持っていたのに、それが驕りであった事に落胆を隠せずにいた。

「こんな子供に負けるなんて信じられません」

 肩を庇いながら冷や汗を垂らすグルバヌスがバルートを睨んでいた、街道に立つ小さな魔道士が大きく見え震えている自分が憎くもあった。

(このままではやられてしまう)

 考えたくもないその言葉が自然と脳裏に浮かんでくる。

 彼らを抹殺するという目的の破綻、そしてこれまでの計画が全て水泡に期す現実にグルバヌスでもこの先どうなるのか思考が働かない、ただ一つ言えるのは今の状況がとても不味く、この場から一刻も早く逃げなくてはいけないと本能が警笛を鳴らしていた。

「くそくそくそっ、どうして……私がこんな目にぃぃ」

 珍しくグルバヌスが激昂した、汚い言葉でバルートに罵り怒った顔を見せつけてきた。

「僕だって……友達を傷付けられて怒ってるです」

「煩い煩い煩い、お前達みたいなゴミ共と私の崇高な問題を一緒にするな……私がどれだけ苦心してここまでやって来たかお前達には分からなぁい」

 バルート達の問題を私の問題を同等に考えるなんて許さないグルバヌスは大声で怒鳴り散らす、その乱れ狂うグルバヌスを見てバルートはおぞましさを感じた。

(これがグルバヌスの本性……)

 真摯な態度から口汚く乱れ狂う性格にグルバヌスという人間の狂気を知ったバルートは、これを野放しにしていたらまたマルティアーゼに悪さをする思い、ここで仕留めなくてはと全力で込めた光球を生成した、それを危険と感じたグルバヌスも詠唱を唱える。

「どんなに憎まれたって僕が倒すです」

 頭上から勢いよく落ちてくる光の塊、当たれば存在そのものを消滅させてしまう光球が見上げるグルバヌスを照らした。

 まばゆい光が街道を埋め尽くし彼の体が発光したと思った瞬間、グルバヌスの姿がそこから掻き消されていった。

「あっ!」

 光球から逃れるように一筋の光が西の街道に流れていく、グルバヌスは自身の体が白く輝いた瞬間に導路を使って飛んで行ったのだ。

 彼は戦うのではなく逃げ出した、あれだけ悪態を吐いておきながら躊躇なく逃げ出した事にバルートは彼がどれだけ恐ろしい相手かを思い知った。

 グルバヌスがどれだけ狂ったように激昂していても、最大の目的であるマルティアーゼを奪う為なら恥も外聞もなく逃げだせるなんて、これ程厄介な相手はそうはいないのだ。

 街道で佇むバルートはまたいつかグルバヌスと相対する時が来るかも知れないと思いながら、戦い荒れ果てた跡地を眺めていた。

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