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空白の指先

⚠️ 注意

本作には流血・殺戮表現が含まれます。

残虐な描写や暴力シーンに抵抗がある方はご注意ください。

「……ここか」


廃ビルの影に、黒光りする高級車が無数に並んでいた。

闇に溶け込み、異様な静けさと暴力の予兆を漂わせる。

だがレイの視線は、そこに向かない。

ただ一点、剥がれた外壁と割れた窓の奥に沈む暗闇だけを捉えていた。


確信が先に落ちた。

ここに黒がいる。


裏社会のネットワークを辿り、金を流し、情報を積み上げ、抵抗を潰し、出会いから数時間で

ついにこの場所を特定した。遠回りはしていない。最短で、ここに来た。


それでも——遅い。


奥で何が起きているか、知らない。

だが構わない。知る必要はない。

重要なのは、黒がそこにいるという事実だけ。


黒——壊れているようで壊れていない、薄氷のような空白の存在。

触れれば消えそうで、でも確かにそこにある。

彼の空白を、自分自身で、自分のもので埋めたい。


「行け」


抑揚のない声とともに、黒づくめの部下たちが廃ビルへ押し込まれる。

銃声、悲鳴、命が削れる音。そのすべてを、レイは踏み越える。


血で濡れた床、まだ温かい死体。倒れる敵も、銃口も、無関係。

足を止める理由は一つもない。


目的は、ただ一点——黒に触れること。

空白に手を伸ばすこと。手に入れること。


歩きながら、腹部の奥をなぞる。

刺された場所。空白が侵入した痕。

黒という空白に埋められたレイ自身の空白。


部下たちが死体を片付ける。

視線も心も、目移りすることはない。

ただ——黒へ一直線。


狂喜が、胸を押し広げる。

もうすぐ、手に入る。自分だけのものになる。

足音も、呼吸も、すべてが加速していく。


奥の扉が、近い。


一歩、一歩、確信の中で進む。

床の血も、壁のひび割れも、湿った空気も、すべてが無意味。

無駄な音に耳を奪われることもない。


狂喜が、理性を押しのける。

触れたい、埋めたい、奪いたい。


空白を、自分で満たす感覚を想像し、身体中に熱が広がる——


扉まで、あと数歩。

心拍が、跳ねる——まるで、世界が止まったかのよう。

時間も、光も、音も、恐怖も。


「……すぐだ」


声にならない声が、内側から零れる。

黒に触れる瞬間が、すぐそこにある。


そして——


扉の前。

手をかける。

震えはない。必死に押さえ込んだ。

期待もない。ただ、確信だけ——


黒がそこにいる。


指先が金属に触れる寸前、世界はすべてを忘れた。

——止まる、息も、時間も、ただ黒だけ。あの空白だけ。


ドアが、わずかに軋んだ——

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