風が告げる扉の音
放課後の鳳学園保健室。
窓から差し込む夕日が、端末の画面を赤く照らしている。
雷が、保健室の端末を覗き込みながら眉をひそめた。
「……“叩いて”きたか。」
今沢先生が、書類整理の手を止める。
「え?……やっぱり!」
雷は、画面に並ぶログを指で弾く。
ID総当たり
パスワード総当たり
数秒ごとの連続アクセス
人間味のない規則性
「内部の人間じゃない。ダミーに引っかかってる。外からだ。」
今沢先生は、深く息を吐いた。
「……”中突堤の件”から、嫌な予感はしてたのよ。」
雷は淡々と続ける。
「癖がない。焦りも迷いもない。ただ、機械みたいに“扉を叩いてる”。」
今沢先生の表情が、わずかに強張る。
「……“連中”ね。」
雷は画面から目を離さずに頷いた。
「ああ。間違いない。“あいつら”が動き出した。」
保健室の外から、
生徒たちのひそひそ声が聞こえてくる。
「また雷くん、保健室行ってるよ」
「絶対あれ、今沢先生と……」
「禁断の恋ってやつ?」
今沢先生は、ため息をつきながら苦笑する。
「……もう、誰がそんな噂流してるのよ。」
雷をにらむが、頬がわずかに赤い。
雷は、画面を見たまま肩をすくめる。
「まぁ、便利ですよ。本当の理由を隠せますし。」
今沢先生は、わざとらしく微笑む。
「そうね。“そういうこと”にしておきましょうか。」
その瞬間、ベッド奥の隠しスペースのカーテンが静かに揺れ、谷神未来が音もなく姿を現す。
まるで、そこに“最初からいた”かのように。
今沢先生が小さく肩を跳ねさせる。
「み、未来先生……いつからそこに……」
沈黙。
ただ、静かに立っている。
その沈黙が、逆に言葉より雄弁だった。
雷は小さく笑う。
「沈黙は金、ってやつですね。」
今沢先生は苦笑い。
「……未来先生、あなたまで誤解されるわよ?。」
未来は、何も言わない。
ただ、端末の画面を見つめるだけ。
そして一言。
「……来ましたのね。」
雷は、にやりと笑った。
「まぁ、せっかく来たんだし。次は“お土産”まで案内しますよ。」
今沢先生が、半ば呆れたように言う。
「……あなた、本当に容赦ないわね。」
雷は肩をすくめる。
「向こうが先に叩いてきたんです。礼儀ってやつですよ。」
未来は、静かに目を閉じた。
「……これで、“影”が本格的に動きますわね。」
ログがピタリと止まる。
まるで“向こう側”が息を呑んだように。
今沢先生が、震える声で呟く。
「……また、あの子たちが巻き込まれる……」
雷は、画面を見つめたまま答える。
「先生、巻き込まれるんじゃないよ。“狙われている”。中突堤の件から。ずっと。」
未来の瞳が鋭く光る。
「……なら、守るだけですわ。あの子たちを。」
影が動き出した。
それを知る者たちが、静かに構え始める。
――嵐の前の、静かな呼吸のように。




