静寂の封鎖、鉄の龍の監視
六甲アイランド沖・オーシャンタグ「鉄龍」ブリッジ
「……浮橋の完全崩落を確認。要塞、完全に孤立しました」
ブリッジに響くオペレーターの声に、燕 凛は表情一つ変えず、漆黒の長髪を指先で整えた。
モニターの中では、40mm機関砲によって叩き折られた橋が海面へと沈み、炎上するトーチカが夜の海を赤く染めている。
彼女の視線の先にある要塞は、今や巨大な「鉄の棺桶」と化していた。
「陸路を断たれた鼠どもが、水際へ集まってきます。……『清掃』の第二段階へ移りなさい」
凛の冷徹な号令が下された直後、要塞の小型ドックから、数艇の高倍率エンジンを積んだ高速ボートが飛び出してきた。
マフィアの幹部たちが、海底トンネルを進む登夢たちや、地上を焼く火の雨から逃れようと、海路での脱出を図ったのだ。
「……浅ましい。王老師が『一人も生かして帰すな』と仰せになった意味を、まだ理解していないようですね」
凛はブリッジの重厚なレバーを自ら握り、外部スピーカーのスイッチを入れた。
「不浄な石ころに、逃げるための海などありません。……その命、神戸の底で冷やしなさい」
ドドドドドッ!!
タグボート艦隊に配備された12.7mm機銃が、海面を滑るボートの前方を正確に切り裂いた。
逃げ道を塞がれたボートが急旋回した瞬間、オーシャンタグの40mm機関砲が再び火を噴く。
凄まじい水柱と共に、逃亡を図ったボートは「商品」ごと、ひしゃげた鉄屑となって海中へと消えていった。
「……全艦、包囲網を維持。水面下の一切の動体を逃さないように。ダイバー班、水中からの脱出ルートも封鎖しなさい」
凛はマイクを置き、窓越しに燃える要塞を見つめた。
腹の底に響くような振動が、要塞の地下から伝わってくる。
伴隆がハッキングを開始し、要塞が内側から崩壊し始めている証拠だった。
「登夢様、伴隆様。……あなたたちが『光』を取り戻すまで、この海はわたくしたちが『影』として守り抜きます」
彼女の瞳には、かつて校門前で景を見守っていた王老師の「静かなる怒り」と、恩人の歩む道を清めるための「最大の誠意」が、氷のような冷徹さとなって宿っていた。
燕 凛は、再び静かに数珠を取り出した主の姿を思い浮かべ、一族の「掃除屋」として、最後の一匹が沈むまでその場を動こうとはしなかった。




