水底の棺、電脳の審判
場所:K-UNIT本部「要塞」地下・中央電算機室(サーバー室)
回廊の彼方から響く登夢の剛拳の衝撃音と、未来・冬華姉妹が奏でる蹂躙のワルツを遠くに聞きながら、雷 伴隆は目的の場所に到達していた。
要塞の最深部。
青白いLEDが不気味に明滅する巨大な電算機室には、世界中の闇市場へ供給されるはずの生体兵器「ブートレグ」の製造データと、最新の生産ラインを制御するメインシステムが鎮座していた。
「……さて。画面越しの挨拶は終わりだ。最後は物理で最高の『おもてなし』をしてやるよ」
伴隆は、特殊戦術防護服「影」策(SAKU)モデルの左腕ガントレットから、データバスに対応した高性能端子を伸ばし、メインコンソールへと直結させた。
彼の指先が、鍵盤の上で舞踏を踊るように激しく動く。
山崎総合病院のセキュリティをも担うプロ級のハッカーである彼にとって、敵のファイアウォールを「毒」で焼き切り、システム特権(root)を掌握するのに、一分もかからなかった。
伴隆の口元に、いつもの不敵な笑みが浮かぶ。
「……悪いが、うちは親父の教育と一緒で、『躾』が厳しいんだよ。不浄なゴミは、まとめて洗い流すのが草薙と雷のやり方だ」
彼がターゲットに定めたのは、埋立地であるこの要塞を浸水から守る**「巨大排水ポンプ」の制御プログラムであった。
伴隆はプログラムを強制的に書き換え、外部の海水を逆流させて内部へと引き込む「逆噴射モード」**へとシフトさせた。
「尻尾、掴んだぜ。……いや、もう『尻尾』ごと海に沈んでもらおうか」
伴隆が静かに、しかし力強くエンターキーを叩いた。
――ズ、ズズズンッ!!
その瞬間、要塞全体を腹の底に響くような重低音が揺らした。
生産施設の巨大なダクトから、凄まじい勢いで冷たい海水が噴き出し始める。
高度な水冷システムに依存していたK-UNITの心臓部は、海水流入によるショートを引き起こし、調整槽が次々と火花を散らして沈黙していく。
『緊急警報! 排水システムが暴走! 海水が流入しています!』 『制御不能! 全システム、水没まで残り120秒!』
パニックに陥るK-UNITのオペレーターたちの声を余所に、伴隆は端末をスマートに折りたたんだ。
「……今沢先生が見たら、また呆れるだろうな(笑)」
足元には既に海水が流れ込み、膝元を冷やし始めている。
電算機室も生産施設も、物理的に破壊され、もはや**「直せない(修復不可能な浄化)」**の秒読みが始まった。
「掃除完了だ。……仕上げは、あいつ(零)だ」
伴隆は登夢と合流すべく、水没しゆく「偽物の楽園」を背に、走り出した。




