咆哮する鉄の龍
深夜の海に、巨大な黒い影が音もなく滑り込んできた。
草薙建設が施工したまま地図にも載っていないこの埋立地を、漆黒の艦隊が包囲していく。
その中心に鎮座するのは、巨大な曳航能力を持つオーシャンタグと、機動力に優れた複数の武装タグボートであった。
オーシャンタグのブリッジには、漆黒の長髪をなびかせた**燕 凛**が立っていた。
彼女が手にするマイクの向こう側には、主(主)の怒りを背負った中華街の精鋭たちが控えている。
「……『不浄な石ころ』への返却を開始します。『掃除』を始めなさい」
凛の冷徹な号令と共に、作戦の第一段階が幕を開けた。
ドドドドドドッ!!
タグボート群に据え付けられた12.7mm機銃が一斉に火を噴き、要塞の防壁を叩く。
さらに、多連装ロケットランチャーから放たれた無数の弾頭が、尾を引きながら夜空を切り裂き、地上施設へと降り注いだ。
それらはかつて、新興マフィアが王老師の目を盗んで中華街から横流しし、私腹を肥やすために蓄えていた兵器そのものであった。
自らの罪で焼かれるという皮肉に、要塞の地上部隊――マフィアの構成員や雇われた傭兵たちは、反撃の糸口さえ掴めずパニックに陥る。
「海上からの大規模攻撃を確認! 敵は主力艦隊だ!」
「クソッ、防戦一方だ! 地上施設へ退避しろ! 防空壕に入れッ!!」
降り注ぐ火の雨に耐えかね、敵部隊は屋外の防衛線を放棄。要塞の堅牢なコンクリート施設内へと逃げ込んでいく。
それこそが、燕 凛の描いたシナリオ通りであった。
「……ネズミが穴に隠れました。次は**『出口』を塞ぎます**」
凛が鋭い眼差しで眼下の埋立地を射抜く。
オーシャンタグの甲板に鎮座する、この作戦の真打ち――連装40mm機関砲が、重厚な駆動音を立てて旋回を始めた。
ズドンッ!! ズドンッ!!
凄まじい砲声が海面を震わせた。
放たれた大口径の砲弾は、傭兵たちが逃げ込んだトーチカを文字通り粉砕し、さらには六甲アイランドと埋立地を繋ぐ唯一の陸路――「浮橋」を正確に叩き折った。
退路は断たれ、要塞は孤立無援の「鉄の棺桶」と化した。
炎上する要塞のモニター越しに絶望する敵たちへ向け、凛は氷のように冷たい声を投げかける。
「……勘違いしないで。これで終わりだと思っているなら、あなたたちは王老師を何も分かっていない。王老師の怒りは、この程度ではありません」
凛の瞳は、燃え盛る要塞を映しながらも一切の揺らぎを見せない。
「あなたたちが汚した『光(景様)』の代償……。それは、あなたたちの存在そのものをこの街の歴史から『消毒』するまで止まらないのです」
凄まじい爆音と振動が、埋立地の地下深くまで伝わっていく。
その轟音を合図に、住吉川公園の地下――父・元の遺した海底トンネルでは、漆黒のスーツを纏った登夢たちが潜入を開始していた。
大人が作り出した「絶望の舞台」の裏側で、次世代の「審判」がいよいよ牙を剥く。




