中突堤の審判、不浄の焼却
「……バカな。何が起きている!? モニターが、全滅だと!?」
貨物船の心臓部であるブリッジでは、新興マフィアの幹部たちが絶叫していた。
闇市場の「高付加価値な商品」として売りさばくはずだった生体兵器ブートレグが、甲板に降り立った「二人の死神」によって、ゴミのように処理されていく様を目の当たりにしたからだ。
重厚な防爆ドアが、内側からの凄まじい衝撃でひしゃげ、吹き飛んだ。
立ち込める硝煙の向こうから現れたのは、漆黒の特殊戦術防護服「影(KAGE)」草薙 大と汐見 円だった。
「き、貴様ら……警察か!? 許可なく立ち入ることは――」
脂汗を流すマフィアのボスが、震える手でデスクの引き出しから拳銃を取り出そうとする。
だが、その動作が終わるより早く、大の放った「練氣」を纏う威圧感がブリッジの空気を凍りつかせた。
大は暗視ゴーグルの奥の瞳で、不浄なゴミを見るような冷徹な視線を投げかけた。
「……ここへ来るのに、俺たちが『丸腰(ただの警察官)』で来るとでも思ったか?」
大の瞳が冷徹に細められた瞬間、右拳から高密度の圧縮氣弾が放たれた。
――ドォォォォォンッ!!
物理的な弾丸ではない。
だが、それは銃弾よりも速く、砲弾よりも重い「意志の塊」であった。
放たれた一撃は、そのままブリッジの重厚なメインコンソールごと、背後の強化ガラスまでを粉砕した。
衝撃波の余波だけで、周囲にいたマフィアの幹部たちは壁まで吹き飛ばされ、内臓を揺らされて沈黙する。
火花を散らす計器類と、割れたガラスから吹き込む激しい雨。
「な……な……んだ、今のは……」
まだ息のあるボスが、震える声で絶望を口にする。
大は熱を帯びたガントレットからゆっくりと拳を解き、不浄なゴミを見下ろした。
「王老師から伝言だ。『不浄な石ころは、掃き出すのみ』。……この街に、お前たちの居場所はない。地獄の底で、自分たちの『商品価値』を計算し直してこい」
大が手元のストップウォッチを止める。 残り時間、60秒。
「掃除完了だ、円。……引き上げるぞ」
「ええ。……いい『おもてなし』だったわね、大」
円がタクティカル・トンファーを収め、獰猛に笑う。
二人がヘリから降ろされたロープへ手をかけた瞬間、ブリッジの計器が激しくショートし、船底からの連鎖爆発が始まった。
ガガガガガッ!! 足元の連鎖爆発が、貨物船「龍王丸」の竜骨を引き裂く。
巨大な火柱が夜の神戸港を黄金色に染め上げ、雨雲さえも一瞬で蒸発させる。
機内に回収されたばかりの草薙 大は、ハッチからその光景を冷徹な目で見下ろしていた。
暗視ゴーグルを跳ね上げ、スーツのガントレットに表示されたタイマーを止める。
「……時間通りだ。」
隣でタクティカル・トンファーを収め、乱れた息を整えていた汐見 円が、窓の外の炎を見つめて不敵に笑う。
「ええ。これで奴らの『肺(物流)』は潰れたわね。」
ヘリが急上昇し、戦域を離脱していく。
大は、特殊戦術防護服「影(KAGE)」のマットブラックな胸元に刻まれた、銀色の「草薙建設」のロゴに手を置いた。
不浄なゴミを「氣弾」で一掃した右拳には、まだかすかな熱が残っている。
彼は、弟の幸せを願う一人の兄の顔に戻り、窓越しに要塞――六甲アイランドの闇の先を見据えた。
「一箇所目、完了だ。……登夢、あとは任せたぞ」
その呟きは、ヘリの重厚なローター音にかき消されたが、そこには「法」でも「正義」でもない、一族の「影」を背負って戦う弟への全幅の信頼と、祈りが込められていた。
「六甲アイランド沖新興埋立地へ。……掃除屋の『本隊』と合流する!」
大の鋭い号令と共に、鋼の怪鳥は進路を東へ変えた。
港を染める葬送の炎を背に、二人の修羅は、次なる戦場――因縁の決着が待つ要塞へと向かって加速した。




