水面下の死神
深夜、激しい雨が叩きつける神戸港。
海面の上では嵐が荒れ狂っているが、数メートル下の世界には、重苦しいまでの静寂が支配していた。
その暗濁とした海中を、数条の鋭い光が走る。
王老師が放った中華街の精鋭、プロのダイバー部隊。
彼らは一切の無駄を削ぎ落とした動きで、巨大な鉄の塊――新興マフィアの兵站を担う貨物船「龍王丸」の竜骨へと取り付いた。
視界は最悪だが、彼らに迷いはない。事前に燕凛から渡された設計図により、船の構造的急所は完全に把握されていた。
リーダー格のダイバーが指先で合図を送ると、隊員たちが背負っていた特殊爆薬を次々と竜骨へ固定していく。
それは草薙建設が開発に協力した、指向性を持つ成形炸薬。
一度火を噴けば、分厚い鋼鉄を紙細工のように引き裂き、二度と浮上を許さない致命傷を負わせる代物だ。
設置が完了し、ダイバーたちの手元にある防水端末に緑色のランプが灯る。
リーダーはインカムを叩き、水上の燕凛、そして上空で待機する「鋼の怪鳥」へと、冷徹な符号を送った。
『……こちら「海龍」。設置完了。これより「掃除」を開始する』
彼が端末のボタンを押し込むと、爆薬に仕込まれた赤いLEDが、暗い海の中で心臓の鼓動のように明滅を始めた。
『信管作動まで、残り300秒(5分)』
その宣告は、不浄な「商品」を運ぶ死に体への引導であった。
ダイバーたちが音もなく海中の闇へと離脱を開始したその刹那。
海面を激しく叩く巨大なローター音が、重低音となって水中にまで伝わってきた。
上空からは、大と円を乗せた漆黒の魔改造ヘリが、弾幕を蹴散らして急降下してくる。
「――5分で終わらせるわよ!」
円の咆哮が、雨音を切り裂いて響いた。
海面下で始まった「静かなる秒読み」と、甲板で幕を開けた「苛烈な蹂躙」。
二つの死が今、貨物船「龍王丸」を逃れられぬ破滅へと追い込み始めた。




