神が忘れた神戸の審判、修羅の清算
草薙邸・奥の間。
青白いモニターの光が、円卓を囲む大人たちの顔を照らす。
その中央の席だけが、ぽっかりと空いていた。
円が小さく呟く。
「……登夢くんは?」
大は答えない。
代わりに、総帥・草薙明が静かに言った。
「――あの子には、まだ“光”の中にいてもらう」
その言葉に、誰も反論しなかった。
燕凛が、王老師から託された海図と設計図を卓上に広げる。
「……王老師より、今回の件に対する“誠意”を預かっております」
凛の細い指先が、中突堤に停泊する貨物船を指し示す。
「当家のダイバー部隊が水面下から船底へ爆薬を設置します。
同時に、周囲に配置したスナイパー班がデッキを『掃除』し、大様と円様がヘリから突入する際の安全を確保します」
続いて、凛は六甲アイランド沖の新興埋立地――「要塞」の地図を叩いた。
「本丸への陽動は、王家の武装タグボート艦隊が担います。
奴らが横流しした12.7mm機銃、および多弾頭ロケットをそのまま『返却』します。
さらにオーシャンタグの40mm連装砲で地上施設、浮橋を粉砕し、要塞を完全に孤立させます」
未来が静かに息を吸う。
「……つまり、私たちが向かう場所だけを“開ける”ということね」
「その通りです」
今沢緑が、モニターに映し出された要塞の構造図を見つめ、静かに口を開いた。
「伴隆くん、排水ポンプの逆流プログラム……理には適っているわ。
K-UNITの心臓部は高度な水冷システムに依存している」
伴隆が不敵に笑う。
「ええ。海水流入によるショートで、サーバーもプラントも物理的に沈めます」
「生産施設を無力化すれば……もう、直せない」
今沢の発言に対し、隣で優雅に足を組み替えていた谷神未来が、黒いオープンフィンガーグローブを机に置いた。
「……ふふ、ご心配なく、緑先生。
わたくしにとって、彼らはオードブルにもならないジャンクフードですわ。
登夢くんや冬華の前に一匹たりとも出させはいたしません。
その『掃除』、わたくしが引き受けます」
そして、南雲誠司が、色褪せた一枚の設計図を広げた。
「13年前、元様が施工責任者を務めた海底パイロットトンネル。
住吉川公園の地下から要塞の通風孔まで繋がっている。
K-UNITはこのトンネルの存在を知りません」
「兄さんが遺した道か。皮肉なものだな」
草薙正が、苦渋を滲ませた声で呟いた。
「元様の置き土産。
いつか来るべき日のために、あるいはこの街の未来のために遺した隠し通路。
……若を、この『道』へ導く」
草薙明が静かに言う。
「――その”来るべき日”が、今日だ」
大が前に出る。
「草薙家は、この“道”を使って本丸へ向かう。
外側は王老師が封鎖してくれる。
俺と円は兵站をたたく」
円は深く頷く。
「任せて。一人残らず“掃除”する」
未来が黒いグローブを机に置く。
「……子どもたちの前に、もう影を歩かせません。
本丸の“掃除”は、わたくしが引き受けます」
明が杖を一度だけ、強く床に鳴らす。
「作戦開始だ。一人も残すな。
この街から奴らの痕跡をすべて『消毒』してこい」
その声は静かだが、
奥の間の空気を震わせるほどの重みがあった。
「子どもたちの未来のために。
影は、我々が終わらせる」
王老師の名代・燕凛が深く頭を下げる。
「中華街も、共に参ります」
円、未来、大、正、南雲、玄馬、今沢――
全員が立ち上がる。
「「「御意」」」
神戸の闇を司る三つの勢力が、ついに咆哮を上げた。
その声は、
“影の大人たち”がついに動き出す合図だった。




