血の色のテールランプ
捜査第一課のフロアに、大の鋭い声が響いた。
「課長、まずいことになりました」
課長は短く応じる。
「例の件か」
「はい。急いで現場に向かいます」
大はすでにバイクの鍵を掴み、立ち上がっていた。
「車は?」と問う課長に、迷いなく答える。
「いえ、自分の足――ハーレーの方が早いです」
「そうか、わかった。すぐに迎え……」
課長が応援の手配を指示しようとした瞬間、
大はその言葉を遮った。
「汐見君を連れていきます」
課長の眉がわずかに動く。
「あのじゃじゃ馬をか? 必要なのか」
「彼女の妹が事件に巻き込まれています」
その一言で、課長はすべてを理解した。
「……急げ。じゃじゃ馬の鼻っ柱をつかんででも連れていけ。あとで応援を送る」
「助かります」
大は敬礼もそこそこに、課のフロアを駆け抜けた。
廊下の先。
休憩室から出てきた円の腕を掴み、有無を言わせず外へ引っ張る。
「え、ちょっ……大!? なに――」
「恭子ちゃんが巻き込まれた。行くぞ」
「え?。」
そのただならぬ気配に、円は抵抗をやめた。
***
地下駐車場。
大の愛車――ハーレーダビッドソン XL1200 が、低い雄叫びを上げて目覚める。
大は円にヘルメットを被せ、強引に後部座席へ乗せる。
Vツインエンジンが唸りを上げ、二人の刑事を非常事態の現場へと押し出した。
アスファルトを蹴り、街を裂くように疾走する。
腹の底に響く、不規則なVツインの振動。
鋼鉄の車体からシートへ、そして大の体へと伝わる熱。
「……っ」
背中に回された円の腕が、微かな痙攣とともに強く締め付けられる。
振動とは違う。
怯えと不安の震えだ。
恭子が巻き込まれた。
嫌な予感が、円の胸を締めつける。
大の心中もまた、
外からは見えない焦燥で激しく揺れていた。
「大丈夫だ。しっかり捕まっていろ」
絞り出すような声。
円は無言で、大の背中に顔を埋めた。
その背中の温もりだけが、今の円を繋ぎ止める唯一の命綱だった。
バックミラーに映るテールランプが、まるで乾ききらない血の跡のように赤く、執拗に後方を睨みつけていた。




