黒煙の回廊
合流地点。
静耶のVTが急停車し、冬華が駆け寄る。
「……冬華! 恭子たちが……!」
その一言で、
冬華の表情から“ふゆちゃん(妹)”の柔らかさがすっと消えた。
代わりに現れたのは――
雷家の血を継ぐ者の、冷たい光。
冬華は無言で頷き、
懐から黒い携帯端末を取り出す。
未来から渡されたもの。
「緊急時以外は使うな」と言われていた、
雷家専用の“影の回線”。
ピッ、ピッ、ピッ。
短縮ダイヤル1番。
『……冬華? どうしたのです』
未来の声が、いつもより低い。
「お姉ちゃん。……『始まりました』。
ターゲットは恭子ちゃんと景ちゃん。
場所は静耶が知っています。今から向かいます」
『……! 了解しました。私も向かいます!』
「それと……」
冬華は指を滑らせ、
回線を草薙家・緊急保安室へ転送する。
「このまま、回線を繋ぎっぱなしにします。
位置情報代わりにしてください。
私の声と、“戦う音”が聞こえる場所が現場です」
『冬華!? 待ちなさい、単独では危険です!』
未来の制止を、冬華は聞かない。
携帯を通話状態のまま胸ポケットに押し込み、
静耶のVTの後部シートへ飛び乗った。
「……静耶。出して。全力で」
「う、うん!!」
***
VTの後部座席に冬華を乗せ、静耶は必死だった。
「恭子ちゃん、円さんの署に向かうって言ってた……
なら、この海岸通りしかないはず!」
その時――
進行方向の空に、黒い煙が立ち上る。
普通の火事ではない。
ガソリンが燃える、禍々しい黒煙。
「……嘘でしょ」
静耶の背筋が凍る。
カメラマンの目が、
煙の根元に舞う“赤い破片”を捉えた。
NSRのカウルだ。
「冬華! あそこだわ!」
「……飛ばして、静耶!」
静耶はアクセルを全開にした。
冬華の瞳は、
すでに“戦場”を見据えていた。




