鉄馬の咆哮
恭子は円のいる警察署、大通りを目指して走り出していた。
しかし、狭い路地から幹線道路に出た瞬間、AMGのパワーに追い詰められていく。
(くっ……速すぎる! まるで化け物ね!)
(恭子ちゃん、怖い……!)
(違うの。あの車は……普通の車じゃない!)」
(登夢の声):『……あのAMG、直線で踏まれたら厄介だ。ただのセダンだと思って舐めるな』
ガードレールを擦り、火花を散らしながら、強引に車体をねじ込み、圧倒的なトルク(馬力)でNSRの背後に迫る。
(な、何なのよコイツ! なんで離れないの!?)
バックミラーに映るフロントグリルが、みるみる大きくなる。それは「追跡」ではなく、**「押し潰し」**に来ている。
恭子が「逃げ切れない」と悟った時には、もう遅かった。
スローモーションのように感じる
AMGは、逃げ道を読んだように車体をねじ込み、横から――
ガンッッ!!
(くっ……景だけは……!)
恭子は全身で景を庇いながら、車体を無理やり立て直そうとする。
しかし、ふたたび車体が迫り――
ドンッ!!
NSRは完全に弾き飛ばされ、カウルは木の葉のように宙を舞う。
「きゃああっ!!」 「……くっ!!」
(ごめん、景…私の判断ミス…)
恭子は、空中に投げ出される瞬間、自らの体を反転させ、景を抱きかかえるようにしてアスファルトに叩きつけられた。
激しい摩擦音と、火花。
NSRはガードレールに激突し、無残な鉄屑となって転がる。
衝撃音とともに、視界が回る。
景はアスファルトに叩きつけられた痛みよりも、恭子が動かないことへの恐怖が勝る。
「……恭子、ちゃん……」
手が動かない。
目の前には、悪魔のような黒い車(AMG)が、バックランプを光らせて、もう一度こちらを向こうとしている。
(……あ、あ……)
景の瞳から、涙が溢れる。
(……登夢くん、助けて……)
恐怖で視界が霞んだ、その時。
ドオォォォン!!
横合いから、弾丸のようなバイクが、黒い車に突っ込んだ。
爆発音。燃え上がる炎。
その炎を背に、一人の男がよろめきながら立ち上がるのが見えた。
ボロボロの姿。
でも、決して倒れない仁王立ちの背中。
「……てめぇら……何してやがる!!」
怒号が響く。
その声は、登夢くんじゃない。
でも、聞いたことのある、とても暖かくて、力強い声。
(……あぁ……)
(……誰かが、来てくれた……)
(……守って、くれたんだ……)
張り詰めていた糸が、ぷつりと切れる。
安堵と共に、景の意識は深い闇へと落ちていった。




