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風のシャドゥ・レガシィ~闇を継ぐディスティニー  作者: 歌麿
電脳の狩人と真実の告白編
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11/45

点と線の違和感、白衣の残響

――翌日・放課後。


卒業アルバムのページを閉じた瞬間、かれんの胸に、冷たいものが走った。


(……14年前の養護教諭は別人。

 でも、13年前のアルバムには“今沢緑”。

 あの事件の翌年に……着任?)


偶然とは思えない。

むしろ、あまりにも“出来すぎている”。


胸の奥で、昨日から続くざわつきが、はっきりと形を持ち始めていた。


(……聞かなきゃ。

 この違和感は“見逃しちゃいけない”気がする)


かれんは、胸の奥のざわつきを押さえながら保健室へ向かった。


***


保健室の扉を開けると、今沢先生は書類を整理していた。


「杠葉さん。どうしました?」


その声は穏やか。

けれど、どこか“距離”を置いた響きがある。


かれんは胸の奥にある本題を隠しながら口を開いた。


「先生……あの、おばあちゃんの介護のことで相談があって……」


今沢の表情がふっと柔らかくなる。


「お祖母様のこと。ええ、聞きますよ。どうぞ、座ってください」


かれんは椅子に腰を下ろした。


「最近、転びやすくて……骨も弱くなってるみたいで……」


その瞬間、今沢先生の目がわずかに鋭くなった。


「……骨密度の低下ですね。年齢による変化ですが、対策はあります」


そこからの説明は、“保健室の先生”の域を明らかに超えていた。


骨粗しょう症の進行メカニズム

カルシウムとビタミンDの吸収効率

転倒時の衝撃吸収の仕組み

車椅子での姿勢保持と脊柱の負担

高齢者の筋力低下と神経伝達の関係

介護者が注意すべき身体操作のポイント


かれんは思わず息を呑んだ。


(……専門家?

 いや、医者レベル……)


説明は正確で、無駄がなく、まるで“人体の構造”を熟知している人の話し方だった。


今沢先生は、かれんの表情を見て微笑む。


「難しかったかしら?、でも、あなたなら理解できると思って」


(……なんで私に?)


胸の奥がざわつく。


「先生って……どうしてそんなに詳しいんですか?」


自然を装った質問。

しかし、かれんの声は少し震えていた。


今沢は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

その影は、かれんが今まで見たことのない深さだった。


「昔、少し……人体の研究に関わっていたの」


(……人体の研究)


その言葉が、かれんの胸に深く刺さった。


「でも、今はただの養護教諭よ。あなたたちを守るのが仕事」


その言い方が、逆に“何かを隠している”ように聞こえた。


(……やっぱり、この人……何かある)


かれんの直感が、静かに警鐘を鳴らし始める。


廊下に出た瞬間、かれんは胸に手を当てた。


(……13年前に着任。

 人体の研究。

 山崎中央病院の噂。

 そして──あの事件の翌年)


点と点が、まだ線にはならない。

でも、確実に“何か”がある。


(……もっと調べなきゃ)


「古い記録なら旧校舎の資料室にありますよ。持ち出ししなければ閲覧は自由です」


事務職員の言葉を聞き、かれんは旧校舎へ向かった。


(……旧校舎。

 あの事件の頃の資料が、そこにある)


渡り廊下は静かで、夕陽が古いガラスを歪ませていた。


(……ここだけ、空気が違う)


足音がやけに響く。

誰もいないはずなのに、背中に視線を感じる。


(怖いわけじゃない。

 でも……“何かが眠ってる”感じがする)


かれんは胸に手を当てた。


(大丈夫。私は、真実を知りたいだけ)


旧校舎の扉を押し開けた。


古い木材の匂い。

紙が湿気を吸った重い空気。


(……ここが、旧校舎の資料室)


棚には年度ごとのファイル。

しかし目的の年度は見当たらない。


段ボール箱を見つけ、目的の年度の箱を下ろそうとした瞬間――

手を滑らせた。

ドンッ。

紙ファイルが飛び出す。

かれんは一冊を拾い、背表紙を見る。

「健康診断報告書 平成〇〇年度~〇〇年度」

何気なく開いたその瞬間、

古い紙の匂いがふわりと立ち上る。

担当医師欄。

そこに並んでいた名前。


山崎中央病院

御薬袋

今沢


(…………え?)


視界が揺れた。


(お父さん……?

 今沢先生と……一緒に……?)


胸の奥で、

何かがゆっくりと形を成し始める。


(……戻さないと)


喉が乾く。

手が震える。


でも――


(……だめ、ごめんなさい)


かれんはファイルを抱え込んだ。


(……でも、これは……私が見つけなきゃいけない)


資料室の扉を閉め、

旧校舎の廊下を歩き出す。


夕陽が差し込む窓の影が、

かれんの足元を長く伸ばしていた。


(保健室……もう一度、確かめなきゃ)


ファイルを抱えたその背中は、

もう“教育実習生”ではなかった。


影の真実に触れようとする者の背中だった。

そして、この選択が“すべてを動かす”ことを、

かれんはまだ知らない。

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