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アルフレッドは重りの詰まった背嚢を担いで険しい山道を登っていた。
兄たちはずっと先に進んでいて、小高い丘のうえから罵声を浴びせかけてくる。
くそ、またガキのころの夢だ。
そう気づくも一向に目が覚める気配はない。
「おーい、うすのろ! 早くしねえと日が暮れちまうぞ!」
「俺たちはこのあと遊ぶ予定があるんだからなあ! お前のせいで遅れたら許さねえからな! 聞いてんのか聞いてねえのか、返事くらいしろよ!」
ぜえぜえと息を吐きながら、アルフレッドは舌打ちする。
兄貴たちとは何年も顔を合わせていないってのに、いまだに夢の中に出てくるのだから困ったものだ。
思えばガキのころからこいつらはしつこかった。
親父の前じゃ顔色をうかがってビクビクしているくせに、落ちこぼれの弟が相手だと強気になる。
「俺は、絶対……お前らなんかに負けない……っ!」
しかし直後、膝からがくりと倒れこむ。
頭上から笑い声。
筋肉バカの兄たちは軽々と訓練をこなすのに、自分はどれだけ頑張っても無様な姿を晒すだけ。
次に目を覚ますとベッドのうえに寝かされている。
しかし夢はまだ覚めていない。
医者がアルフレッドの華奢な腕を取り、注射で栄養剤を打っている。
「この子は体が弱いのに無理をさせすぎです。このままでは――」
「限界だから休ませろと? 冗談じゃない。こいつがもし士官学校の試験に落ちるようなことがあったら、我が家の血筋に泥を塗ることになるんだぞ」
父親は血走った目を向け、こう吐き捨てる。
「できるよなあ、アルフレッド。お前は父さんの子なんだから」
◇
ゆっくりと起きあがる。傍らでシンが手を握っていた。
乱暴に払いのけたあと、期待に満ちたまなざしにうんざりとした顔を向ける。
「お前のせいでいやな夢を見た」
「因果が逆だよ。うなされていたから様子を見にきたのに。添い寝してあげようか?」
返事の代わりに蹴飛ばした。吸血鬼は床に転がってクスクスと笑っている。
と、寝台の横のデスクに小包が置いてあることに気づく。
「君宛の郵送物さ。前に住んでいた工房に届けられたあと数日ほど放置されていたものが、今日になって私の屋敷まで転送されてきたらしい」
「送り主は――姉さんか。そういえば新しい住所は伝えてなかったな」
ルヴィリアに来てからも定期的に近況報告を送っていたのだが、シンの屋敷で暮らすようになって以降はずっとバタバタしていたのですっかり忘れていた。
荷物を紐解くと『アカデミーの授業が忙しいのはわかりますが、大切な家族のことを忘れないように』という前置きの手紙が添えられていた。いかにも姉さんらしい、可愛らしい拗ねかただ。
いっしょに同封されていたのは、一見するとただのガラクタ。
しかしアルフレッドはすぐにそれがなんなのか思いだした。
錬金術の道を本格的に目指したばかりのころ、闇雲に作っていた『発明品』の数々だ。
姉さんからの手紙の続きを読むと、実家に置きっぱなしだったそれをわざわざ届けてくれたらしい。思い出の品として手元に残しておいてもいいし、いらないなら処分しても構わないとのことだった。
シンが勝手に中のものをひとつをつまみ、なんだいこれはといじりだす。
箱状の物体からぽんと鳩のオモチャが飛びだし、クルッポーと鳴いた。
「吸血鬼の間抜け面が拝めるのなら、こんなくだらねえもんでも発明しただけの価値はあったかもな。名づけてびっくり箱だ」
「なるほど。――わあ! 死ぬほど驚いたよひどいじゃないか!」
「だったらそのまま灰になってくれ。しょーもねえ最期がお似合いだろ」
いっそお次は椅子のしたにブーブークッションを仕掛けてみるか。
この吸血鬼は生き恥を晒すのが苦痛らしいし、案外けっこう効くかもわからん。
ともあれ今ので悪夢の余韻はだいぶ薄れた。
そういう意味でも姉さんには感謝したい。あとで詫びの手紙を返しておかなければ。
アルフレッドが笑っていると、シンもクスクスと笑った。
「君の心が楽になるのなら、またいつでも手を握ってあげよう」
「いや、お前のおかげじゃねえからな!?」




