ラ・テンペスタ
お待たせしましたっ
どうぞ楽しんでいってください
見たくない。
沢山の人が死んだ。
生の魔力の残滓...いや、あの時の状況ががまだ頭の中にこびりついてる。
ここで笑うのをやめたらきっと涙が止まらなくなってしまう。
笑え。笑え私。泣いちゃダメ。
ワカタケさんも泣いてないんだから。
堪えてるんだから。
でもできない。
ダメだってわかってるのに...出来ない...
人の形をした物が死んでいくところが離れないよ...
ー死んでないだけマシだろう?ー
私の中のーーがささやく。
...違う。
私がヘマをしたから、仕留め損ねたからあの結晶で沢山の人が...
ー思い上がるな!お前はそこまで強くない。お前が仕留められるとでも思っていたのか?私の事すら満足に振れず、街の不良すら撃退できないお前が?冗談もほどほどにしておけー
...悔しいが言う通りだ。私の中のーーが言う通り何もできなかっただろう。でもそういう問題ではない気がするのだ。
自分は足を引っ張っただけ。
それしかできないにしてもおかしいはずだ。
ー私はそんな奴を沢山見てきた。そういう優しい奴らに限って先に死んでいくんだ...お前には死んでほしくないー
皮肉ね...
悪魔であるあなたが、契約主に死んでほしくないなんて。
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学校に悪魔憑きと思われる人物を倒した節を報告しにきたのだが...今笑うのが止まるのは仕方がない。
仕方がないのだが...
「っ!...ヒック...っ」
涙が止まらなくなってしまう。
ワカタケはずっと私の頭を撫でて「大丈夫だ。」と言ってくれている。
その落ち着き払った態度は慣れているようにも見えたし、諦めているように見えた。
「...殺す時、何も思わないのですか?」
我ながら最低な質問だ。
相手の傷口に塩を塗るような質問をする最低な女だ。
しかしワカタケは「そんな事ないよ」と返してきた。
私は重ねてこう言う。
「でも、平気な顔をしています」と。
彼は言う。
「この世界の皆を生かすなんて無理だ。そうわかっちまったからな...本当の正義の方が悪よりもよっぽど酷い時もある。
この世界にあるのは正義じゃなくて...秩序なんだ。」
酷い諦めの感情。私が質問をした時、彼の生の魔力が一気に活力を失っていった。
本当に最低な女だ、私は。
「フレイヤはまだそれに慣れてないだけだ。
こうなってほしくは...ないけどな」
そう言って自分の手を見つめるワカタケ。
まるで自分の手が血塗られたように見えたのかと思うくらいには暗い目で見ていた。
「さあ、行こうか」
そう言って校長室のドアを開ける彼の手は、血塗られて見えた。
キィィ...と言う音を立てながら両開きのドアが口を開ける。
校長先生は専用の机ではなく、ガラス張りになっている奥側にいた。
どうやら割とそこにいるらしく、椅子も用意されている。
「「失礼します」」
「ん?ああ来たか。さ、どこでも座っていいから、楽にしなさい」
席を勧められたので手前にあったソファーに掛ける。やけに柔らかい。
校長先生はこちらを向こうともしないで窓の外を眺めるばかりだ。
でもわたしには見える。
青い翼も、尻尾も、そして正体であろう女の人らしき姿も、ローブ越しでも魔力を通して分かる。
...全身が血塗られているところまで。
「ああ、悪魔憑きの話だったかな?
倒したらしいな。おめでとう...して、これが本題なのだが口外は無用だ。いいな?」
「は、はい」
「では早速...」
そう言うと校長先生はこちらを向いてローブを脱いだ。
そこにあったのはさっきから見えていた景色。でも違うのはワカタケの表情。
驚いているのだろうか。
キョロキョロしている。
「これは...?」
「それはそこの子に聞けば分かるのではないかな?」
「...はい?」
「君、視界はどうなっている?」
フレイヤを指差して微笑む。
「いつもと変わりませんよ?」
「なん...だって...?」
ワカタケがこちらを向いて肩を掴む。
「いつもこんな景色を見ているのか⁉︎」
そう、今若竹に見えているのは校長室。
血塗られ、崩れ、歪み切った校長室。
「今、フレイヤと視覚を共有していてね。
魔力とはな...結局感情なんだ。
炎の魔力は嫉妬、怒り。水の魔力は軽蔑、見下す感情。雷の魔力は殺意。死などの魔力も全て感情だ。では、ワカタケ君の生はどうか。生の魔力は慈悲、愛情などの思いやる気持ちや生きたいという本能からできる」
「何が言いたいんですか?」
「まあフレイヤ君、そう急ぐな...続けるぞ?
フレイヤ君の魔力は...死、なんだよ。
全ての悪意の塊。その上魔力の流れが見えるときた。魔力は絵の具と似ていてね、強さがあるんだ。死は言わば黒。最強の色だ。だから全てが死に引かれる。
この景色もだ...この血塗られた空間は死の魔力に引きつけられた悪意そのものなんだよ。」
「っ...!!!!」
触れられた。
最も知られたくなかった部分を。
私の...忘れたかった悪夢を。
吹き飛ばしてやる。
消し飛ばしてやる。
消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ消えちゃえ消えちゃえ消えちゃえ‼︎‼︎
「全展開、ラ...」
さっき襲われた時にすら使わなかった所まで悪魔の力を全て展開する。
これで私の人生も、この街、いや、国も終わり。
「ラ・テンペスタだな?その悪魔」
「え...?」
知っている...?私の悪魔を。
いや、そもそも私が悪魔憑きなのが知られている時点でもう手遅れだ。
目立たないように、危害を加えないように暮らしてきたのに。
せっかく優しい人とも会えて普通に暮らせそうだったのに。
ああ...終わりだ。
「ハハ...そうですよ...殺すんでしょう?さっさと...」
そうだ。ここで殺されるに違いない。
悪魔憑きは即刻死刑が鉄則。
でもよかったのかもしれない。
ワカタケのような暖かい人に殺してもらえて。
「...生きたいか?」
死を覚悟していたために、唐突に飛んできたその言葉は衝撃的だった。
「...!?」
校長先生も驚いて目を見開いている。当然だ。その反応は正しい。なんならワカタケを殺してもこの状況なら文句は言われないだろう。
しかし校長先生は黙って見ているだけだ。
「文句を言う奴がいれば俺が守る。
殺されそうになっても俺が守る。
場合によっては殺しも覚悟する。
だから...生きたいか?」
涙が溢れてきた。
さっきまでの涙とは意味が違う。
私にはわからない感覚だ。
「私、悪魔憑きですよ?
バレればあなたも殺されます...それでもいいんですか?」
「わかってる」
「足を引っ張ることしかできないんですよ?
...親にもこれが理由で捨てられて、ずっとこき使われていたんです!
いいんですか⁉︎貴族出身だから厄介ごとには巻き込まれるだけなのに援護してくれる人がいないんですよ⁉︎
私は悪魔なんです‼︎死神なんです‼︎‼︎疫病神なんです...!!!!」
ワカタケは隣でそっとニッコリ笑ってこう言ってきた。
「当たり前だ。一緒にいると決めた女の子ぐらい守れなくて何が屠龍の刀使いだってんだ。
...自分から嫌がられに行くにはやめろ。
俺はお前が好きだ。それだけで理由になる」
「っっっっ‼︎‼︎」
涙が止まらなくなってしまった。
悲しいわけじゃないのに。
痛いわけじゃないのに。
ああ、そうか。
これが、「嬉しい」って感情なんだ。
「水を差すようで悪いんだが...私はどうすればいいんだ?」
校長が困ったように言ってきた。
「いや、私の目の前で告白するのはいいんだがね?私は私で言いたいことがあるわけだ。
ほら、私龍だし?なんならワカタケの従姉妹よ?」
「...まじか」
ワカタケが驚きの表情を露わにする。
本日何度目だろう。いつもは落ち着いているのに。
「どうすればいい、というのは?」
校長先生はフッと笑ってこう言った。
「簡単なことだ。応援が必要なのか、通報するのか。」
「応援、してくれるんですか?」
「ああ、勿論」
「嘘じゃないんですね?」
「さっき言われただろう?自ら嫌がられにくるな。嘘なわけないだろう」
嬉しい。すごく嬉しい。
また泣いてしまいそうだ。
ここで運を使い果たしてしまったのではないだろうか。それでもいいと思えるようになった自分に驚く。
「だが、条件がある。
ここにサインしろ。あとは暫く家に帰れないぞ?寮生活になるからな。」
と言って紙を机の上に出してきた。
「「元々寮生活です」」
と言ってサインする。2人してハモった...嬉しい。
校長先生は大笑いしながらこう言った。
「はっはっはっ!...よろしい!
では歓迎するよ。
入学おめでとう!我らが聖戦士養成学園へ!」
そして思った。
「「ネーミングセンスが厨二くさい...」」
いいことなのかはわからないが、これもワカタケと私の2人でハモった。
「いいから、さっさと自分たちの寮にもどって荷物持ってきなさい!」
怒られちゃった。
...まあいっか。
これからは何にも怯えなくてもいいんだから。
ワカタケが助けてくれた。
私の、世界でたった1人の愛おしい人が。
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2人が去った後の校長室。
校長が胸のペンダントを開いて中の写真を眺めている。
何故だろう。
ワカタケの師匠、もとい父が映っているのだ。
「全く、どんな子に育て上げてくれちゃってるんですか...あの頃はまだひょろっこくてちっちゃかったのに。」
そう言ってペンダントを閉じて机の上に置く。
横には若竹が家族で写っている写真。
校長がフレイヤの視界を借りた時、母親と思われる人物は青い鱗の竜の姿で写っていたのだ。
色々複雑になっていってしまうので、これからはそういうことでご了承くださいです




