ストラトフォートレス・イン・アクション
施設までおよそ距離50mのところまで進んだ。
警備は多数の騎士が配置されていて、中庭に見えるのは玄関まで一直線に伸びた道。
「フレイヤ、何か今使える固有の能力はあるか?」
「え?あ、はいっ!テンペスタは全ての魔力を司ることができるので、私には得意魔術も苦手魔術も無く全魔力が扱えます。
国を落とした時には悪魔憑き特有の一度に制御できる魔力量の多さと、強大かつ複雑な魔術を色んな魔力を使って発動させることで防御が極めて難しい攻撃を可能にしたとテンペスタが言っています。」
「...爆発物を作り出せるか?」
「手のひらサイズであれば」
そう言ってフレイヤがなんの気無しに手のひらくらいの大きさの球体を何もない場所から作り出し、こちらに手渡してくる。
「オーケー、じゃあ行こうか」
まずはこの手にある球体を投げ、爆発させる。
「なんだ⁉︎爆発か⁉︎」
「集まれ!注意しろ!」
上手いこと注意を逸らせたようだ。
そして...
「お手を拝借」
フレイヤと手を繋ぎ、屋上までひとっ飛び。
屋上にいた警備の人間はサクッと黙らせる。
「ウェーラー、頼むぞ...」
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次々に建物が直っていく。
崩れて寂れた建築物が一瞬にして輝きを取り戻していく。
ウェーラーが触れるたびに建物が直る。それと同時に、彼女は半ば無意識に体が動き続けることにも気づかず頭の中を流れる映像に入り込んでいく。
辺りに響く爆発音と地震。
空はまるで世界の全ての雲を集めたかのように暗く曇っている。
この神社と思しき場所で戦っているのは人間と天使。
まあ結局は天使も天使が宿った人間が昇華した姿だから実際は人間対人間だ。
火を放ち、女子供関係なく「その場にいたから」というだけで殺された。
断続する爆発音と悲鳴がその壮絶さを物語る。
ただし、違和感がある。
この街から外に陸がないのだ。
外に広がるのはただただ広い空。
下を見ても霧に阻まれて何も見えない。
「空の上...?」
不意に頭に浮かんだその景色は、長いこと忘れられていた記憶。
とても大切な、天使たちだけの楽園の記憶。
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ー内部にはあまり警備がいないのか?ー
屋上から侵入したはいいものの、誰一人として警備員に遭遇しない。
代わりにあるのは収容室と書かれた扉が目の前に、そしてそのまた目の前に銃を持った警備がいる。
「ん、お前誰ーーー」
龍鱗の刀を突き刺した時のドスッという音と同時に鍵が空いた。
刀が鍵の部分まで貫通してしまっていたため外れたのだろう。
刀を引き抜き扉を開けると、目の前に捕虜たちがいた。
「人間の...クルセイダーさんだ」
誰よりも先に声をあげたのは俺を殴った少年だった。
立ち上がり駆け寄り、俺に抱きついてくる。
「ごめんなさいごめんなさい!殴っちゃってごめんなさい!こんな所まで助けに来てくれるようなやつだとは思わなくて...思ってたよりずっと立派だったよ!」
「それは違う。
俺は自分が強いと思って努力をするのをやめていた。もう素振りすら満足にしてないさ。
でも君は、手の皮がボロボロになるまで何かで素振りしてたみたいだね?」
「それは昔もらった剣で素振りしてたんだ...俺の手なんていつ見たんだよ?」
「殴られた時」
あの時、俺が防がなかった...防げなかったのはこれもある。
止めよようと思えば止められたし、カウンターだって入れられた。
でもこの少年には本物の意思がある。
みんなを守るという強い意思が。
「君は努力をし続けている。
俺は自分が強いと思い込んで努力をやめた。
君の方が立派だ。」
少年は嬉しそうにして俯いている。
周りの人も脱出できそうな雰囲気にどよめいている。
「少年、名前は?」
「アルセナル。アルセナル・クリーガー」
「よし。アルセナル、この武器を持て」
そう言って俺は龍鱗の刀の予備を渡す。
俺が万が一の時のためにもう一振り作らせておいたものだ。
少年は一目でどんなものか分かったらしく、目を見開いてこっちを見てくる。
「いいのか⁉︎怪物由来の素材っていうか龍の鱗じゃないか!これは俺なんかが持ってていいやつじゃない!」
「みんなを守りたいんだったらそんくらい持ってけ。これから俺らは二人でここの管理者を倒す。
アルセナルはみんなを守って屋上に行け。敵は掃除してある上にそこには一度閉じたら開けられない魔術がかかってる。」
「わ、わかった...信じてるぞ」
そう言って彼は屋上へと向かっていった。
「行きますか。」
「...ああ、ここで何があったか資料を探す。
手紙に場所が書いてあるから向かうぞ」
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触れていない場所が直ってくるようになって数分。
辺りに満ちる魔力は都市をも覆っていた。
皆が見えていないところでも何をしているかわかる。
やがてその魔力は普段のような気体の姿ではなく、壁のような結界へと姿を変える。
騎士達がその結界に押し出されるように都市から出て行く。
そして騎士が全員押し出されると、大きな壁が都市の外周に出来ていく。
コンクリートのような金属のような硬い物質でできているようだ。
「ああ、なんだ...私、ずっとここに居たんじゃない。」
目の前にいた神社だけでなく、その周りの草木まで復活していく。
崩れたビル群も、廃れた住宅街も、みんなの活気も全部戻ってくる。
それも全部私に流れ込んでくる。
ゆっくり、ゆっくり都市が浮上していき...やがてそれは、かつての名前を取り戻していく。
「さあ...出番だよ、成層圏の要塞。」
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「これだ!毎日の収容人数と売り上げ表って書いてある!」
天使憑きの、という前提条件が付く物だがな。
...存在しているだけで嫌悪感を抱かせる。燃やしてしまいたい。だが大切な証拠だ。
燃やしてしまうわけにはいかない。
「よし、じゃああとはここを陥落させればーーー」
突然、その時落雷のような音と同時に目が潰れるような閃光が目の前で炸裂した。
「フレイヤ、屋上を確認するぞ!」
「はい!」
屋上まで駆け上がる。
ドアに手をかけると...すんなり開く。
これはおかしい。ドアを開けておいて、閉まった時に溶接してさらに上から魔術で保護して開かなくする手筈だったのに溶接痕すら無い。
仕掛けたフレイヤも顔を真っ青にしている。
「外から強引に開けたわけじゃない。
これ、元々魔術が解除されてたんだ...私に感知されないように解除ができるなんて相当な手練れだよ!」
「お褒めに預かり光栄だよ、テンペスーー」
「...フゥッ」
わざわざ棒立ちで出てきた敵の足を刈る。
身長2mは下らないおっさんは低い位置からの一撃に命中は免れない...訳ではなかった。
受け止められそうになった。
同じような動きの蹴りで。
「気性が荒いガキは嫌いだぞ?屠龍の野蛮人」
「可愛い女子が相手だからって媚びなくたっていいんだぜ?口の悪いおっさん」
刀を瞬時に発生させ斬りかかる...龍殲鎌鼬。
物理で防ぐのは不可能に近い真空状態を使った剣技には反応するのか...?
「...!?」
驚愕の表情を浮かべたおっさんは...
切り裂かれたその長いコートを捨て、刃渡り2mはあろうかという長刀を構えた。
「龍を倒したくらいでなんだ、と思っていたが...意外とやるじゃないか」
「おっさんでも竜は倒せそうだがな?」
「...何故だ?」
「は?」
無意識に聞き返したその瞬間、瞬きする間もなくおっさんが有無を言わさず距離を詰めてくる。
応じてその長刀を防ぐと鍔迫り合いの格好になっていた。
「何故それだけの力がありながらその穢れた奴らに肩入れをする⁉︎この世界は人間こそが至高!それ以外はクソ以下の価値しかない!
その女に媚を売っただと⁉︎冗談じゃない‼︎皮肉ったんだ‼︎俺のことを上から褒められるような立場だったんだなとーーー」
「黙れよクソジジイ」
ガギィン‼︎という金属音と同時に相手の巨体が吹っ飛ばされる。
「知ったような口を聞くな‼︎俺もまだ一部しか見ていないがその生活はひどい物だ‼︎洞穴で日々を過ごし、外に出れば騎士に怯える!そんな生活にお前は耐えられるのか⁉︎」
相手は俺の言葉を鼻で笑う。
「クソ以下には上物過ぎたか⁉︎俺らはそんな事経験しないようになってんだよ‼︎そのためにマイナスな物は全部押し付けてんだからな!」
「...お前らは一体心を持っているのか?」
「ああ持っているさ。飛びきり豊かなのをな。
お前もそっちに付くのをやめろ。
こっちに来ればいい飯は食えるし女には困らねぇ。この世界の正義は人間様なんだよぉ」
「穢らわしい正義だな」
屋上から蹴落としフレイヤから離れさせる。
丁度上からウェーラーの援護射撃が届いてきたところだ。
相手の射撃と味方の援護射撃で映る世界はまるで地獄のようだ。
建物は原型を留めていない。
射撃班に対してははテンペスタが壁を作って射線を切ってくれている。
何回も切り結ぶうちに、おっさんにだんだん疲れが見えてきた。
「こうなれば...忌々しい悪魔め...!」
「行かせねえよ」
今度は龍穿刹那突き。
単発で限りなく速い初速を叩き出すために連発はしない。
上手く脇腹に刺さったようで起き上がれなくなった様子だった。
そう。「だった」のだ。
「フフフ...ククッフハハハ...フはハはハハはぁ‼︎‼︎ヒヒひヒアハあハハはハアアアハァ‼︎‼︎」
明らかに様子がおかしい。
さっきから射撃音も聞こえてこない。まるで撤退したような足音まで聞こえた。
姿形は変わっていないがこれは絶対何かあるな。
「逃げましょう!明らかにおかしいんです!
テンペスタが逃げろって言ってて!
神話の怪物だとかなんとか言ってます!
貴方一人で戦えるような相手じゃーー」
「ひィハハはハッ‼︎‼︎」
フレイヤが立っていた場所ごと屋上が吹っ飛ばされた。
フレイヤは目で追えていたので優しく受け止める。
「おレとタタかエタタかエたたカエタカエカえカエ」
訳のわからないことを言いながら一気に距離を詰めてくる。
さっきまでとは訳が違う。
俺でもなんとか目で追えるレベルだ。
一撃目は避けた。
だが空振っているのに地面が抉れるような威力だ。
「テンペスタ、槍を」
フレイヤがそう言うと、言われた通りに槍がフレイヤの手の中に現れる。
フレイヤはそれを握りしめて俺の横に並んできた。
「私も戦います」
「いいのか?死ぬのかもしれないぞ」
「貴方の中の正義に従って貴方は戦っています。なら私は、命の恩人について行くのが正義です。天国でも、地獄でも、ついて行きますよ」
また突っ込んできた。足をかけると奴は転んで転がっていった。
「まだ死にたくはない。全力を尽くすぞ」
「はい」
通信魔術でウェーラーも入ってきた。
『成層圏の要塞も完成したよ。援護射撃に当たらないように気をつけて』
「...とりあえずは俺らが死んでもあいつらは無事、か...」
「死にたくはないんでしょう?」
「当たり前だ!」
突っ込んでくる奴に俺らからも突っ込む。
フレイヤが物質を操作して壁などを作り、俺はそれを利用して踏み台にしたり盾にしたりする。
しかし硬い。
中々刃が通っていない気がする。
何も喋らなくなってきたし不気味だ。
「魔力が暴発してる...ウェーラーさん、ここに集中射撃を...キャッ...!」
連絡をとっていた一瞬の隙。
そこを突かれてフレイヤは攻撃をまともに受けてしまった。
ピクリとも動いていない。
魔力が流れ出るのが止まらない。
視界が揺れる。
息が荒い。
オマエハミゴろシにするのカ?
頭に何かが響く。
視界に刀を預けた少年が映ったが気にしていられない。
オマエノホンキハコンナモノジャナイダロ?
まっすぐ歩けナいケドフレイヤガたいヘンだかラたスケなイとシンじゃウ。
『...!?ワカタケ?返事して!ワカタケ!』
「...キヒッ」
ソうだ。
皆ごろシだ。
大切なフレいヤをキずつケるなんテゆルせない。
ソんナ奴らはころス。
「ワカ...タケ。」
ナんだ...?コれハ...フレイヤのこエ?
生きていた。
よかった...生きていた...俺は約束を破っていなかった。
「私は大丈夫...ですから。
あいつを倒して...ごめんね、アルセナル君。
みんなの所に連れてって。」
「あ、はい!皆、看護をしてくれ!多分骨と内臓がいくつかやられてる!」
そういえばさっきまで俺は一体何を...そうだ。
フレイヤが傷つけられて、そこから何かがおかしくなって...フレイヤの言葉で目が覚めたんだ。
自分の足元を見れば、大きい黒い結晶が生えていた。
あの悪魔が生やしてきた奴に似ている。
...俺はそこまで堕ちていたのか。
「ぎヒヒィ...」
口から涎を垂らして向かってくるあいつも足元には黒い結晶が生えている。
クソ以下とか言っておいて自分も悪魔になるとは...ざまあないな。
「ウェーラー、援護砲撃頼む。」
『会話...出来るようになった...!わかった。
ありったけ撃ち込むから当たらないようにしなさいよ!』
「望む所だ」
そうだ。フレイヤを傷つけられて黙っていられるわけがない。
「さあ、罪を償ってもらおうか。クソジジイ」




