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2. 夏休みの宿題について

 季節は巡って夏。


 青い浜辺に臨むこの箱浦市は活気を持ってその季節を迎えた。浜辺にあるこの街で唯一の教会も、商店街に並ぶ店々も強い日差しの中で互いに競い合うように輝いて見えた。


 小学5年生でこの街に移り住むようになってから、季節の変化に敏感になったかもしれない。私はこの街が夏に見せるそのような姿が好きだった。


 私がこの街で過ごす3度目の夏。中学生になってからは初めての夏である。


 思えば小学生から中学生になった事で、私を取り巻く環境は大きく変わった。


 毎朝セーラー服を着るようになった。仲の良い友達とクラスが離れた。その友達と一緒に美術部に入った。学校から課せられる宿題の量が増えた。中間テストと期末テストを受けた。


 新たな環境への適応には体力を使うものだ。ただでさえ待ち遠しい夏休みを、今年は特に心待ちにしていた生徒は私だけではないだろう。


 しかし100%の幸福など、この世には存在しないことを私は知っている。この世の楽園を思わせる夏休みであろうが、その例には漏れない。


 そう、各教科担当の先生から無慈悲に投げつけられる大量の宿題だ。


 読書感想文、数学の問題集、英語のワークブック、理科の自由研究に漢字の書き取り等々と目白押しである。


 夏休み前最後の美術の授業。アトリエの最後方の席に鎮座しながら、私はこれまででいったい幾つの夏休みの宿題が出されたのかを整理していた。


 最初は頭で数えるだけのつもりだったが、途中から正確な数が気になりだし、授業で配布されたプリントの裏面にそれらを列挙して行った。


 簡易なリストになったそのプリントを眺め、合計でいくつの宿題があるかを数えていると、


「みんなには1学期に学んだ水彩で、郷土の風景を描いてもらいます」


 私の所属する美術部の顧問でもある斎藤先生は、ごく当然のようにそう発表した。


 斎藤弘先生は見た目よりも若い先生だ。初めて彼を見たとき、私は彼のことを30代半ばかなと想像していたが、実際はその想像よりも5歳以上若かった。おそらくたくましい髭がそのような印象を与えているのだろう。芸術科目の先生にありがちな変わった性格をしていて、私は勝手にB型だろうなと想像していたが、そちらの想像はピタリと当たっていた。


 斎藤先生は今しがた私たちに課したその宿題に対し、1つだけ条件を付け加えた。


「ただし、海を描いてはいけません。特に朝の海を描いた絵に関しては、夏休みの宿題として受け付けません」


 私はその条件に疑問を持ったが、あえてその理由を訊いたりはしなかった。目立つのが嫌いなのだ。内心、クラスメイトの誰かがその理由について質問してくれることを期待したが、結局そのような生徒は出てこなかった。

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