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1.自分の名前の由来について(クラスのみんなに自己紹介)

 多くの人と同じように、私の名前についてもそれなりの由緒がある。名づけ親から込められた想いがあり、その人たちによって紡がれたエピソードがある。


 由緒の内容については、決して恥ずかしいものではないし、むしろ誇るべきものであるだろう。しかしそれを出会って間もない大勢の人の前で発表するのは少し違うのではないだろうか?


 4月上旬の午後の教室で、そのような若干の違和感を抱きながらも私は教室の一番目立つ位置に立った。


「私の名前はソーン・ホワイト・優です。父が英国人で母が日本人です」


 想像通り、教室内が笑い声でざわつく。


 そのノイズが消えるのを待たずに、私は発表を続けた。


「優という名前は、私が優しい人に育つようにと願われてつけられた名前です。小学校ではシャロと呼ばれていました。よろしくお願いします」


 目立つのは嫌いだ。それだけ言うと私はそそくさと教壇を降り、自席に着いた。




 私が箱浦北中に入学して次の日。1年2組の教室では「自分の名前の由来について」というテーマで自己紹介が行われた。


 あれからおよそ3ヶ月前が経ったが、私の本名はやはりクラス内では浸透せず、あだ名の「シャロ」で呼ばれることが定着してきた。たぶんみんな私の長ったらしい本名のことは忘れてしまっているのだろう。


 しかし「自分の名前の由来」を語ったことで、自分の名前をクラスの全員に覚えてもらうことに成功した人も、もちろんいる。


 その1番の成功者は、クラス担任の川口夏海先生だ。


 年齢はたしか25歳だったと思う。真っ黒な髪を肩の上で切りそろえ、銀縁の眼鏡をかけている。白いシャツの上に灰色のセーター、下は黄緑色のロングスカートだ。教鞭を持ったら似合うかもしれない。性格はおっとりとしていて、年齢も生徒に近いためとても親しみやすい印象を受けた。


 「自分の名前の由来」をテーマにした自己紹介の場を設けた張本人である彼女は、クラス全員の発表が終わった後に満を持して発表を行った。


 その発表の内容は今でも1年2組の面々の記憶に深く刻まれている。


 黒板に「川口夏海」と大きく書いてから、先生は自己紹介をスタートさせた。


「私の名前は川口夏海と言います。名前の由来ですが、これには2つあります。


 1つは『誕生日が7月23日だから夏海』というものです。他人から覚えてもらいやすいので、なんだかんだ得をすることが多いかもしれませんね。


 もう1つの理由はですね、これは少し恥ずかしいのですが……。私の母の誕生日も夏なのですけど、その誕生日の朝に浜辺で、父が母にプロポーズをしたことから『夏』の『海』と書いて『夏海』と名づけられることになったのです」


 この発表に、クラス内の多感な年頃の生徒たちは大いに盛り上がった。さすがこのテーマを設けただけのことはある。クラスから「ヒューヒュー」などと古風な歓声が上がると、先生はわずかに頬を上気させた。


 それ以来彼女は「夏海先生」「なっちゃん」などと生徒から親しみを込められて呼ばれている。

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