↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/114

治癒

 急いで村に戻ると病人のひしめく療養地が出来上がっていた。


 元があばら家の乱立する空いた土地の少ない村だ。


 一箇所に集めて・・・というのが難しいのは分かっていた。


 それを狭い空き場所を有効に使い、一番広い場所に子供達を集め、狭い場所には仕切りをつけて場所分けしているようだった。


 あの仕切りのある場所は女性用の区画だろう。


「ジン様!」


 子供達を寝かせている場所に向かって歩いている途中、フーカに呼び止められた。


 フーカは拭いていた子供の衣服を直し、優しく横たえると、こっちに向かって走って来た。


「ジン様、お水が足りません。お水を汲みに行きたいのですが、人手が足らず・・・」


 思わずフーカの顔から目を逸らしそうになった。


 フーカの顔は酷く腫れ上がり、右目がキチンと開かなくなっていた。


 元の可愛い顔が台無しだ。

 けど、目を逸らす訳にはいかない。こうなるかもしれないと分かっていて連れてきて、手伝いをさせているんだから。


 どうしても、孫ほど歳の離れた年頃の娘が大変な事になっているかと思うと、どうしようにも心が痛い。


 そして、俺は今、その娘を新しい回復魔法の試験に使おうとしている。


「どうしました?」


 答えない俺に、フーカは困惑気味に首を傾げて見せた。


 その仕草に元のフーカの顔が浮かんだ。


 この娘は、自分が今、ひどい状態になっている事に気がついているのか。

 いや、気付いていない訳がない。

 顔なんて酷く熱いだろうし、目もちゃんと開いてないんだ。分からない筈がない。


「フーカ、頼みがある。聞いてくれるか?」


「はい、なんなりと」


 フーカの返事には一切の淀みがない。


 フーカが俺に寄せるそれがなんなのかよく分からない。

いや、クグルの言葉に惑わされてる場合じゃないな。俺はその信頼に全力で答えればいい。そうしていれば、自(おの)ずと答えが分かるだろう。


 フーカの目の前に、先程作った回復の魔石を取り出して見せる。


「これはこの病状に対し、効果を見込んで作った回復の魔石だ」


「ジン様!」


「だが、本当に効果があるのか、分からない。もしかしたら悪化するかもしれない」


 フーカが息を飲んだ。


「これを、一番最初に、お前に使いたい。構わないか?」


「喜んで」


 あぁ、やっぱりそう答えるんだな。

 いや、これは俺の性格が悪いな。承知すると分かってて、試すような事を聞いているんだ。


 回復の魔石をフーカの手に置き、両手で包んだ。


「失敗しても、必ず治してみせる。約束する」


 フーカの手の上から回復の魔石を発動させる。


「ジン様。私はジン様のお役に立てたなら、それで満足です。存分にお使い下さい」


 はぁ・・・、悪魔め。見なくてもニヤニヤしてるのが分かるわ。

 でも、これは俺がいずれキチンとしておかなくちゃいけない問題だ。

 今、どうにかしてはいけない問題だが、しっかりと意識しておいた方がいいんだろう。


 フーカの手から溢れた回復の魔法が、ゆっくりと全身を包み込んだ。


「どうだ?」


 フーカがにこりと微笑んだ。


「熱さと痒みが治まっていくのが分かります。ジン様。大成功ですよ」


「よかった」


 はぁー、ホッとした。


 目に見えて腫れが引いていく程の効果はないが、病状さえ抑えられたら、あとはどうとでもなるだろう。


「フーカ、その回復の魔石は触れ合っている人同士でゆっくりと効果が広がってくように調整してある。回復効果は薄いが、その分体力消費を極力抑えられるようにしているから存分に使え。

 子供達同士に手を繋ぎ合せさせて、その真ん中で使うといい」


「かしこまりました」


「それと、もう二、三個作って回復交代で使わせようと思うんだが・・・、 魔族の人達で任せられる人はいるか?」


 フーカがゆっくりと首を振った。


「いえ、魔族の方達は魔法を使うことを封じられています。これは魔力発動型の魔導具ですので・・・、使う事は出来ないかと。私達で回すしかありません」


「そうか」


 常時発動型じゃないと預けられないのか。それでも作れない事はないんだが、それだと効果が限定されてしまう。


「あと二個作るからマオなりクグルなり使って上手くやってくれ」


「かしこまりました」


 手早く回復の魔石を作り、フーカに渡す。


 一番の問題だった治療に目処がついてのは大きいが、問題はまだまだ山積みだ。


 とりあえずは・・・ここに来て一番最初に話しかけて来た魔族の男はどこだ?


 こんな事なら名前を聞いておけば良かったな。


 ・・・居た。

 男達を集められている区画の中で座り込んでいるのが見えた。


 男達は皆、息も絶え絶えに座り横たわって居た。

 こいつらも体力の限界か・・・。


「あぁ、あんたか」


 声を掛ける前に近寄る俺に気付いたようだ。


「回復法が見つかった。動ける奴は子供達の方に行って手を繋いで来い。繋がっていればゆっくりだが回復する」


「すまない、ありがとう」


 礼を言ってはいるが、その顔は暗いままだ。

 まぁ、それも仕方がない。問題が山積みなのはこいつらが一番知ってるんだろうから。


「治療の目処が付いたとして、目下のところの問題は何だ?」


「すまない。食料が足りてないんだ。村の端の方に小さいが畑も作っていたんだが・・・、多分煙でみんなダメになってしまっただろう」


 そうか・・・。食料の備蓄はそんなにないだろうとは思ってたが・・・そうか、あの煙じゃ畑はみんなダメになっちまうだろうな。根菜類はまだ大丈夫だろうが、成長は見込めないだろうな。間も無く枯れるだろう。


「分かった。何とかしよう」


 先ずは水だな。その後に食料。俺の収納をフルに使えば一度にかなりの量が運べる。

 とりあえず、体力が回復するまでの数日分くらいなら何とかなるだろう。


「待ってくれ、なんであんたそんなにしてくれるんだ」


 走り出そうとしたところで呼び止められた。


「あんたの仲間が、助けてくれって頼んだのは分かる。けど、俺達は人族が毛嫌いする魔族だ。それに俺達を助けた所で見返りなんて何もない。なんで俺達を・・・そんな必死に助けてくれるんだ?」


 あぁ・・・しまったな。俺は根本のところで間違えてたのか。

 こいつらが絶望してるのは違いないが、それを助けようとしてる人族の俺が、そもそも信用出来てないんだ。


「私達は魔族です。私が生まれた時から既に契約に縛られ、自由もなく、たた虐げられら中で必死に・・・、ただ生きる事だけに必死に生きてきました。夢も、希望もなかった。もう自由も何もやっと諦められた所でなんです。叶わぬ夢なら・・・もう見たくないんです」


 叶わぬ夢か・・・まぁ、そりゃそうなるだろうな。

 こいつの言う通り、見返りなんて何も望めないんだ。さらに良からぬ事を考えていると見えてもおかしくない。


「信用しろなんて言わねぇよ。これは俺のただの意地だ」


「意地?」


「俺は確かに人族だが、別に魔族が嫌いとかそういうのはそもそも全くない。それ以前に・・・何百年も前の話を未だに根に持って陰湿な嫌がらせを繰り返している人族にこそムカついている」


 目の前の魔族の男が息を呑んだ。


「こんな胸糞悪い陰湿さを見た後じゃ、黙ってられねぇんだよ。それが同族だってんなら尚更だ。

 いいか、見てろ。お前らを全員、その呪いから解放してやる。だからお前らも全力で生きて見せろ」


「理由になってませんよ」


 絶望してた癖に言うじゃねぇかこの野郎。


「意地に理屈なんざ求めるなよ。損得勘定だけで生きるなんて、息苦しいまねが出来ねぇだけよ」


「分かりました。黙っていても滅ぶしかないんです。疑っても、どのみちこれ以上に堕ちようもない。なら最後に・・・最後位は希望にすがってもいいかもしれませんね」


 そう言って魔族の男は腫れ上がった顔で笑ってみせた。

 いいぞ、笑え。笑顔は力になる。


「お前、名前は?」


「トゥーラといいます。姓はもう失ってしまいましたので、ただのトゥーラです」


「ジンだ。俺も姓はもう失くしちまった。ま、姓を失くした者どうし、仲良くやろうや」


「はい」


 差し出した手をトゥーラは握り返した。

 やっと・・・だな。ここがスタートラインだ。


「ジンさん」


「なんだ?」


「助けて・・・下さい。お願いします」


 俺の手を握るその手に力がこもった。


「おぅ、意地でも絶対に助けてやる」


 手を離し、走って行こうとしたところで、一つ大事な事を思い出した。


「あぁそうだ。助けてやるのに一つだけ聞いておかなきゃいけない事があった」


「何ですか?」


「お前らに掛かってる契約ってどんなものなんだ?」


 この先どうするにしろ、魔法も使えずこの地に縛られたままじゃどうにもならない。助ける。というならば、契約から解放してやって初めて助けたことになるだろう。


「申し訳ありません。正直に言いますと、私達もよく分かっていないのです。

 分かっているのは、私達の血族に掛けられている契約であるという事、魔法を使おうとすると、魔力が暴走してしまう事、決められた場所から一定以上離れると呼吸が出来なくなってしまうという事の三つだけ・・・。

 何せ、もう三百年も前の事ですし、ここ数十年の間は数年おきに居住地を変えられていますから・・・。それに、その当時の事を知る者も、誰も残っていないので・・・」


「なるほど、分かった」


 血族に掛けられた契約て・・・。こいつが前に呪縛って言葉を使っていたが、確かにこれは呪いと言っていいだろうな。


 それで万知さん何か分かる?


 ・・・ふむ。

 該当する物が三つほどあると。


 それで、なんで万知さんはそんなに苛立ってんの?


 行けば分かる?見れば分かる?

 どういう事?


 ・・・。


 黙ったか。

 言いたくないなら、言いたくないって言やぁいいのに。


「ジンさん?」


「ん?あぁすまん。ちょっと考え事してたわ」


 万知さんと話すのに夢中になってたわ。いかんいかん。


 まぁ、万知さんは魔法に関しちゃ間違えない。行けば分かるって言ってんだし、どうせ買い出しに行かなきゃいかん。行けば何か分かるだろ。


「契約に関しては、町に向かった時に調べてみる。多少時間が掛かるかもしれんがそれは許してくれよ」


「構いません。もう三百年も縛られているんです。多少待たされるくらい・・・。それに期待してますから」


 言ってくれる。


「期待に応えてやるよ」


 トゥーラにひらひらと手を振ってやり、村の外に歩いて出た。

 さて、まずは水だな。

 とんっと軽く地を蹴り、走る。


 水の次は町に買い出し。

 村から街までは、普通に歩いて半日ほどの距離があるはずだが・・・。

 何気に犬狼の国を出てから初めての単独行動だ。

 今まで、本気で走った事はないから、これは丁度いい機会だろう。

 少しばかり楽しみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。