クッキング爺(前編)
牢屋から出され、外に出たら日が差していた。
眩しい。
外が昼なのは知っていたが、こうして日の光を浴びるというのはこの世界に来て初めてだったりする。
あぁ、気持ちいいなぁ。
風になびく枝葉の音が心地いい。
今は何月かな、この湿度の感じと生ぬるい感じからすると初夏?ここは森の中だから気温はやや低めとして・・・。
いや、緯度と地形が違えば気候も変わるし、分からんな。
いや、でもいい日差しだスイカが甘くなりそう。
なんでもかんでもハウス栽培だ、ブランドだって騒ぐけど、やっぱスイカもメロンも露地のが一番面白いんだよな。博打みたいで。
天気に左右されて大変なのがまた、
「おい、何をぼんやりしてる?」
ん?
ふと見れば、姫犬ちゃんがこっちを見てた。
「いんや、いい天気だと思ってなぁ」
「自分が死ぬかもしれんというのに悠長なことだな」
姫犬ちゃんが鼻で笑う。
「お天道様が空にあるってのはそれだけで大事な事だよ。お嬢ちゃんにはまだわからんかな?」
鼻で笑ってやった。
「朝になれば日が昇る、夜になれば日が沈む。それは当たり前の事だろう?」
「そうさな、当たり前だ。けどな、その当たり前がなきゃ人は生きていけんだろう?お天道様がおらな雨も降らねば草木も育たん。お天道様に照らされて、はじめて人は前が見えるのよ」
「ふむ」
姫犬ちゃんが眩しそうに手を掲げ、お日様を眺める。
素直ってのはいいね。
「それで、いつどこに向かうのかな?」
「日が暮れてからだ。都市内部にある公爵の邸宅に向かう」
あっさり言ったな。そんな簡単に入れるんか。
「ゆっくり食事を取って時間まで備えているといい」
そう言って姫犬ちゃん、背を向けてどこかに行った。
メシねぇ。
メシって言っても敵の城が近いんだから火とか大々的には使えねぇよな。煙が立ったら一発でバレるし。
となると、期待できるような食い物は出てこない気がする。
さて、この世界に来て初めてのメシである。
少なくともクソ不味そうな軍用食なんかは、心の底から避けたい。
となると自分で調達する事になる訳だが・・・、陣の横に川がある。気配を探ったがニジマスっぽいのがいるみたいだ。
米が欲しいが仕方ない。メインはそれでいこう。
次に周辺の植生を見て回る。
なんか食えそうな物は・・・、っと。
お、山椒の木がある。馴染みのある緑色の小粒、爽やかないい匂い。うん、使えそうだ。
他には・・・っと。
む、これは青紫蘇か?
少々若いがいい匂いがする。うん、使えそうだ。
薬味っていうなら行者にんにくが欲しいんだけど・・・ないな。残念。
あ、古い倒木。とすると・・・、あったあったキノコ。・・・キノコ、なんか黒くて傘がデカい。なんだろうこれは。
うん、分からんキノコはやめておこう。
後は・・・、お、真っ黒い石がある。これはもしや?
真っ黒い手のひらサイズの石を左手に取り、握りやすい適当な石を右手に持つ。
そんでもって右手の石で斜めに削るように軽く打ち付ける。
カツンッ
お、割れた。
放射状っていうのかね?貝殻を裏っ返したみたいな形に欠けた。
黒曜石だね、いや久しぶりに見たよ。
カツンッカツンッカツンッカツンッカツンッカツンッ
少々無骨だが予期せずにナイフが手に入った。ふふふ、サバイバルしてるみたいで楽しいね。
さて次は魚を獲りたい所だが、その前に火が欲しい。川魚を生ではあまり食べたくない。
でも火を起こしたら怒られそうだしなぁ。
ふと目に付いた大きな丸い石。焼き石とか煙を出さず作れないか、とか考えてたら魔法式が浮かんだ。
山椒とか紫蘇とか見ても反応しなかったのに、こういうのには反応するんだな。
万知の書の『知』って随分偏ってる気がする。
それはさておき、丸い大きな石に大きな円を石で刻んで文字を書いていく。これで魔力を注げば円の内側が熱くなるはず。
おぉ、熱くなった。魔法便利。魔法面白いなー。
さて火の代わりも手に入った事だし魚を取ろう。
暇があればのんびりと釣りがしたい所だが、腹が減った。
まぁ、魚をとるのは簡単だ。
まずは頭ぐらいの大きさの手頃な石を手に取って、川の中にある魚の隠れてそうな大きな石に目星を付ける。そして・・・。
ふんっ
ズバァンッ
・・・。
投げた石が爆発したみたいに砕け散った。
しまったよ、力が強くなってるのをまた忘れてた。
あぁあぁ・・・監視してたっぽい狐耳が慌てて走ってどっかいったよ。怒られるかな?
まぁ、いいか。
今のうちに気絶して浮いてる魚を回収しとこう。
十数匹も浮いてる中からデカイのを二匹、水面を歩いて拾う。むしろこの水面歩くのを見られずに済んで、結果オーライなのかもしらん。
さて、邪魔が入る前にちゃちゃっとやってしまおう。
拾って来たニジマスを・・・ニジマス?
大きさは五十センチ位か?模様と大きさはニジマスっぽいけど、形がなんかふっくらしてなくて、どっちかっていうとヤマメっぽい形だ。顔はマスっちゃマスなんだが・・・、まぁ食えそうだからいいか。
ささっと頭を落として三枚におろす、ちょっと黒曜石ナイフが使い難いがこれはこれで楽しい。
半身の一つは皮を剥いで腹骨を削ぎ、中骨を取ってぶつ切りにする。
ぶつ切りにした半身に山椒の実を少しと千切った大葉をバッサリ被せ、平たい石の上に置き、手頃な石で叩き潰す。
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッ
適度に潰れて混ざったら洗っておいた笹の葉に包んでちまき状にして、ホットプレートならぬホットストーンの上に。
さんが焼き、と言いたい所だが味噌がないんだよなぁ。失敗した、塩くらい貰ってくればよかった。
残ってるもう一枚の半身は、そのまま皮を下にしてホットストーンの上に。
焼けるまでの間に適当な枝を拾い、ナイフで削って箸を作る。
うん、ヂューヂューといい音といい匂いがして来た。
「おい」
「おや、遅かったね」
いつの間にやら背後に立ってる姫犬ちゃん。お爺ちゃんマジびっくり、危うく飛び上がるかと思ったよ。
「何をしている?」
「見てわからんか?」
さんがちまきをひっくり返す。
「・・・その笹にくるまってるのはなんだ?」
おや?
姫犬ちゃんの顔を見た。難しい顔をしてるが咎めに来たって感じでもない。
ちょっと意外。
「美味しい物?」
「なぜ首を傾げる」
俺は美味いと思うが、異世界人のしかも獣人さんの口に合うかはわからん。
仕方ないので山椒の実を一つ渡す。
「なんだ?これは」
山椒を知らんのか。
「山椒の実だ。匂い嗅いでみ」
姫犬ちゃん、言う通りに実を鼻に近づけた。
「いい匂いだ」
お、いいね。
「んじゃ、食えるかもな。塩くれたら馳走するぞ」
「わかった」
ラッキー、取引成立。
ザッと音を残して姫犬ちゃんが走っていった。
足速いなー。




