異世界
「まず先に説明をしておきたいのだが、我々は犬狼族だ。人間族は獣人と一括りにするが、我々はあまりそう呼ばれるのは好きではない。そこは覚えておいて頂きたい」
姫犬さんはそう前置きをして語り出した。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
うん。
要約すると、この世界には多種多様な種族が存在するのだそうだ。
人間族、獣人族、魚人族、魔族、鬼族、巨人族、竜族、竜人族、亜竜族、妖精族、精霊族、木樹族、等々。
とまぁ、いっぱいいるらしい。
手を取り合っている所もあれば、他種族との関わりを絶っている所、長年敵対関係にあり泥沼化してる所あるそうな。
また、ある地域で長く敵対関係にある所でも、遠く離れた地域では、仲良く手を取り合って生きている所もあるというのだから、まぁなんか色々とあるんだろう。
実は種族の話は、俺の中にある万知の書に入っているらしく知識だけはある。ただ、相関関係とかは入っていないのか全く分からん。
万知の書、地味に不便。
まぁそれはさておき、多種多様な種が暮らすこの世界で一、二を争うレベルで仲が悪いのが人間族と魔族なのだそうだ。
もうどのくらい昔から争ってるのか分からない程、昔から小競り合いやら戦争やらを延々繰り返しているらしい。
ただ、それは人間族と魔族の間だけの話で、その他の種族は魔族と手を取り合っている所もあるのだそうだ。
で、
それに変化が起きたのが約300年前。
ある魔族の王が他種族を一つにまとめて征服すべく、かなりの数の種族を集めた洗脳実験場を作ったらしい。
表向き大きな町を装った巨大実験場をいち早く見破り、その魔王を倒したのが勇者、という訳だ。
その後、勇者はその地に新たな国を作り、後々の多種族間同盟の礎となりましたとさ。
めでたし、めでたし。
っと、ここまではよくある英雄譚的な話だが、続きがあまりよろしくない。
勇者を祖するその王家は代を重ねる度に傲慢になっていき、人間族至上主義を掲げ、他の種族を差別する様になっていったそうだ。
まぁ、魔王を倒したのは勇者だし?まぁちょっとムカツクけど?ちょっと偉そうにしてるくらい?なら許してやるか。
くらいの気持ちで生温く見ていた他の種族(この国以外の人間族を含む)だが、昨年からその横暴さが看過出来ないレベルまで、突如として跳ね上がった。
人間族以外を全て魔族と断じ、人間族こそが世界を正しく導くべき優良種である。という暴論を唱えだした。
当然、他の種族はもちろん、他の人間族も大反発。
総スカンを喰らった勇者王家だが、そんなものは、と全く意に介さず隣国の獣人の国、もとい犬狼族の国や兎族や狐族の集落など、片端から襲い、略奪し、攫い始めた。
これに多種族間同盟の国々は即刻反撃に・・・、とはすんなりいかなかった。
奪われた国民を取り戻し、ついでに勇者王家も滅ぼしてしまいたい、被害にあってる獣人族を主とする強行派と、
きっと何があったに違いないと、とりあえず話し合いの場を持ち、血を流さずに解決を図りたい人間族を主とする保守派に割れてしまった訳だ。
即時、使者を送り略奪を止めに行かせた保守派だが、勇者王家は聞く耳持たず、思った成果が上げられない。
一方、強行派は無差別な攻撃に対して着実に防衛ラインを築き、保守派を無視して反撃の機会を窺っている。
このまま膠着状態が続いたなら今まで築き上げてきた信頼関係が崩壊、同盟もうやむやになり、最悪、戦乱の世に成りかねない。という状況にまでなってしまった。
ここで遂に保守派も折れ、戦争に・・・、という所で勇者王家に名を連ねる有力貴族とコンタクトが取れるようになった。
この貴族というのが先代の王の弟の血筋の人で、人間族優良種説や周辺国への侵略行為に、真っ先に反対した人らしい。
まぁ、反対したが故に勾留されてたんだが、獣人族側の抵抗の激しさ堪り兼ね、条件付きで保釈、戦線へと送り出され・・・。
と、いう事らしい。
んで、その貴族との情報のやり取りをスムーズに行う為に設けられた陣がここ、って事のようだ。
・・・。
姫犬さん、ちょっと話し過ぎぢゃない?
柴耳さんと狼耳さんが渋い顔してるよ。
しかし、アレだな。
なんていうか勇者王家がグダグダすぎる。
戦乱を撒き散らしたいだけにしか見えない。
本当に何がしたいんだろう。
俺の情報もダダ漏れ状態だし、滅亡以前に組織として終わってないか?
そりゃあの甲冑も愚痴りたくなるわなぁ。
「どう思う?」
話に熱くなったのか、いつの間にやら柴耳を横に押しやり、座っている姫犬さんが言った。
どうって・・・。
「どうも何も分からんが、俺を召喚した姫さんは・・・ありゃ人間やめてたな。人の皮を被った何かだった。ただ・・・まぁ、一回しか会ってないからよくわからんが、年頃の娘の目をする時もあった。むしろあっちの姫さんの情報はないのか?」
情勢の情報も確かに欲しいが一番欲しいのは、あの姫さんの情報なんだが・・・。
姫犬さんが眉根に皺を寄せた。
険しくも見える顔なのに、なんか微笑ましく見えるのは俺が犬に姿を重ねてるせいかね?
「彼女は・・・アンネマリーは、十八の誕生日を境に人が変わったと聞いている」
ん?知り合い?
「アンネマリーの身辺は常に近衛に護られており、どういった状況にあるのか掴めてない。あと、近衛を連れる様になった頃から、王と王子の姿が見えなくなったという話だ」
近衛ってあの黒甲冑の事かな?あれが黒幕?うーん。
「人間族優良種説を唱えたのって王様なんだよな?」
「そうだ」
発端は王、でも今は居ない?姿を隠してるだけ?いや、それはないか・・・ってすると、現在に命令を出してるのは姫さん?
「姫さんがおかしくなった頃の様子って知ってるか?」
姫犬さんが首を振った。
「残念ながら我々は詳しい話を知らないんだ」
「ふむ」
ってすると情報元の、その貴族さんに直で聞くしかないか・・・。会わせてはくれないよなぁ、探すっても容姿どころか、どこにいるのかも知らないしな。流石に探せねぇ。
「会いたいか?」
なに?
「そのアンネマリーの事を知っている貴族に会って話がしたいか?」
「そりゃあな」
何を考えてる?
「条件がある。それを飲んでくれたなら機会を設けよう」
「言ってみな」
「名前を教えてください」
やっぱりか。
「断る」
恐らくフルネームじゃなきゃ効果はないと思うが、どっちかの名前だけで効果が出ないとも言い切れない。
それにあの契約文じゃ召喚した本人にしか効果は発揮しないだろう。と、なればリスクしかない。
「契約出来たのなら、あなたは死の危険から回避されるのだろう?私ならばあなたの自由を保障してやれる。生きたくはないのか?」
やはり勘違いしてたか。
さてどうするか、正直に話すべきか・・・。
「いや、すまない。今日に会って話をしただけの人に全てを預けるというのは難しいものがあるだろうな。性急だった済まない」
頭を下げられても困るがな。
まぁ、信用してない訳じゃないんだが・・・。
「けど、名前を教えなきゃ俺はここから出してもらえんのだろう?」
「そうだな、だが、あなたがここにいる間に我々が全てを解決したならば、その限りではないだろう」
なに?
「血を流してか?」
「これは戦争だ、仕方がない」
確かに戦争となってしまえば仕方ないのかもしれない。
けど、まだ戦争の一歩手前の状態だ。踏みとどまれるギリギリのラインだろう。
「そうだな、仕方がないかもしれん。が、戦争は何も生まん。後悔する事になるぞ」
「分かっている。けれども、もう待てないのだよ」
だろうねぇ。
「俺なら回避出来るって言ったら、どうするね」
怖っ!
姫犬ちゃん顔が怖いよ。
「なにを言っている?」
「俺は部外者だ。どっちかって言ったら勇者王家の派閥の人間だ。俺が勇者王家を滅ぼしたなら、勇者王家の自滅で話が終わる」
あとはその貴族が内々に治ればいい。
「その際、貴方はどうなる?」
「魔法陣を調べるさ、もしかしたら何か方法が分かるかもしれん」
ほぼ確実に生きてないと思うがな。ま、生きてたらだね。
「それでも高いリスクを負う必要は無いのではないか?言ってしまえばあなたも被害者だろう?」
まぁね。
「そうさな。だがな、俺は既に人とは言い難い程の力を持ってしまってる。それで戦いもせず他人を戦わせてのうのうとは生きれねぇよ」
俺も一応、当事者だしな。
「貴方は、自分はただ畑を作っていただけのお爺さんだと言った。例え力があろうとも、戦士でも兵士でもない者が戦場に立つなどあってはならない。貴方には命を賭けるべき理由がない」
なかなか言うね。
「農家のジジイだから戦場を知らんとは限らんけどな。まぁ、アレだ。正直に言おう。俺はあんたに戦場に出て欲しくないと思ってる」
「何故?」
険しい顔するな姫犬ちゃん。そういえば、うちの犬が本当に怒った顔って見た事なかったなぁ。
「俺は戦争も戦場も知ってる。ただまぁ、それだけで言ってる訳でもねぇ。俺が、少しの未練を残して死んだって言ったの覚えてるか?」
姫犬ちゃんが頷いた。
「先に言っておくが怒るなよ。
俺は犬を飼ってた。ジジイになり掛けの時に飼い始めた犬なんだが・・・、犬には、お前が死ぬまではちゃんと生きていてやる。一生一緒にいるから安心しろって言った事がある。多分あいつは今も、俺が帰ってくるのをジッと待ってる。
・・・お前さんは俺の犬に似てるんだよ。どうにも話してて姿を重ねちまう。犬と一緒にされんのは不快かもしれねぇが、・・・俺は罪滅ぼしがしたいだけなのかもしれねぇがな。あんまり辛い思いはして欲しくねぇのさ」
姫犬ちゃんはジッと俺の顔を見つめながら話を聞いてた。
「わかりました」
何をだ?なんか企んでないか?
「貴方にフレデリク公爵と会わせましょう」
名前を漏らしやがった、絶対に何か企んでるわ。
「そのかわり、その貴方がアンネマリーに会う時は私も一緒に行きます」
「あんたが行ったら話がややこしくなるぞ」
それこそ、一国の姫に死なれでもしたら元の木阿弥になっちまう。
「いえ、それを見届ける者がいた方が事後が淀みなく進むでしょう」
「あんたである必要はないだろ。それこそ、その公爵に兵士の」
「私に!他人に戦場を預けて戦いもせず、のうのうと生きろと!言うのですか?」
言うじゃないか。
「お前さんの戦場なのかい?」
「私の戦場です。私はアンネマリーに会って話をする為にここに来たのですから」
あらあら、まぁまぁ、やっちまった。
「俺があっちの姫さんを殺す事になるかもしれねぇんだが、それはいいのか?」
「やむをえない場合もあるでしょう。その時は苦しむ事のないよう、お願いします」
やれやれ、覚悟もあるのか、参ったわ。
「分かった。約束する」
「よろしくお願いします」
にっこり微笑む姫犬ちゃんだが・・・、なんか駄目だな。どうも俺はこの姫犬耳娘に弱いらしい。




