流刑地
気配の探知をビリィの指差した先の方まで伸ばす。
・・・いる。
木の上から飛び降り、ダルガ、フーカ、クグル、次いで降りてきたビリィを見た。
「どうだ?人が住んでたろ?」
「居た。何の種族か分からんが、三百に足りない位の人が住んでいた。しかも・・・火事のせいか分からんが、結構弱ってる様だった」
・・・どうしたものか。
「何だ?ジンの癖に迷ってるのか?」
癖にって、ビリィの中で俺はどうなってんだ?
「俺一人の事ならいいんだがな・・・。クグル、悪魔の森がなんで人を爛ただれさせるのか、原因は分かってるのか?」
「いやぁ分かってないからこその悪魔の森でしょ」
だよなぁ。
「助けられるものなら助けてやりたいが・・・、その為には火事を近付かずに、どうにかしなきゃいかん。現状、近付くのは危険すぎる」
軽い興味本位で動くものじゃないな。
俺一人、ちょっと見てこよう位の気持ちだったんだが・・・。
「でもさ、なんでそんな所に住んでるんだろうな。火事なんだから逃げりゃいいのに」
「そんなの決まってるだろ」
ダルガの疑問はもっともだ。それをビリィはさも当然であるかに言った。
「なんだ?それは」
「流刑地・・・.ですね」
フーカの沈鬱な声が響く。
「そう、彼らはおそらくだが・・・契約であの土地に縛られているんだよ。・・・罪人のようにな」
「流刑て・・・.それ死刑と同じじゃねえか」
「いや少し違う。悪魔の森なんて呼ばれちゃいるけど、実情を知れば非常に利用価値が高い事が分かる」
「利用価値?」
なるほど、胸糞悪いが理解した。ダルガはまだ分からんみたいだが・・・、それはこいつが純粋だからなのかもしらん。
「人体実験か」
「そういう事だね」
「どういう事だよ」
「悪魔の森に人は住めないが、魔獣も近付かない。もしこれで人が安全に住める方法が見つかれば・・・」
「んな⁉︎」
「と、いうのを建前にした、実質的な処刑だろうね。多分だけど、犯罪者とかじゃないんじゃないかな?」
「確かに、利用できたならもっと昔に利用してただろうからなぁ」
ダルガの眉間に深い皺を作って睨んでくる。
「それを、放っておくのか?」
「仲間の安全が優先だ」
気のいい奴だよ。お前は。
けど、それで死ぬかも知れない所に行かせる訳にはいかん。
「せめて、煙をどうにか出来たらな・・・」
クグルを見た。
この中で一番魔法に長けてるのはこいつだ。こいつに出来なければ、あとは手がない。
「近付けば消化は出来るけど、遠くから雨を降らせて・・・なんて事なら無理だよ」
「風向きを変えるとかは?」
「うーん、短い時間なら出来るかな?三十分位が限界だね」
煙を一時的に晴らす位は出来るか・・・。
「その間に煙が入ってこないような細工をしないとだな」
「それならば、儂がなんとかしよう」
出てきたなゴスロリババァ。
「あーれー?」
クグルが変な声をあげて首を傾げた。
「何か様子が・・・、随分と可愛い姿になってるし、魔力もなんかちょっと変わってるけど、ギルちゃんだよね?」
ギルちゃんね。
マオの本名は忘れたが、やはり知り合いだったんだな。
「その呼び方はやめい。もう、ちゃん、などと呼ばれる歳ではないわぇ」
「でも、今の姿からはピッタリだと思うよ?」
「うるさいわ。だから出てきたくなかったんじゃ・・・」
マオが深いため息をついた。
いつもなら飯時には必ず現れていたマオは、クグルが仲間になってから一度も姿を見せていなかった。
何かあるんだろうなぁとは思いつつも、マオの事は一応説明はしていたんだが・・・。
確執があったとか、そういうのじゃないならいいんだ。
「クグル、今はマオだからな」
「そ、分かった。ならマオちゃんだね」
クグルをキリッと睨んでいたマオだったが、諦めたようにため息をついた。
「わかったわぃ。好きに呼ぶがよいわ」
「えへへー」
声だけ聞くとなんかムカツクが、中猫になりかけの黒猫が言ってると何故かほのぼのするな。
「それで、どうやって煙を食い止める気だ?」
(ねぇねぇ、ご主人様)
「風の結界を張ろうと思う」
(なんだ?)
(あぁ・・・、でもコレ言っていいのかな?)
「それはどの位保てる?」
(なんだ?普段あんなにズケズケとものを言う癖に言い渋るとか珍しいな)
クグルが俺の背中を駆け上り、肩のあたりにしがみついた。
(あーうーん。多分・・・、いや、間違いないかな)
「煙が入ってくるのを防ぐだけなら丸一日は保つじゃろう」
(なんだ?言ってみな)
というか、二人と同時に話すのは頭が疲れる。
「ダルガ、 それでも危険がない訳じゃないんだ。それでも行くか?」
(あの子、魔王ギルガ・イルラじゃないよ)
なに⁉︎
「当然だろ?」
(嘘を付いている。と言いたいのか?)
「分かった。どこまで出来るかは分からんが、出来る限りはやってみようか」
(うーん。そうとも限らない。別に魔王は襲名制じゃないんだけど、一時的に名前を受け継ぐ事もあるからね。本当に名を継いだギルガ・イルラなのかもしれない。ただ、少なくとも私の知るギルガ・イルラじゃない)
(何が言いたい?)
「それじゃ行くぞ。いつ、どう風向きが変わるとも限らんから、各自注意しろよ」
移動を開始しつつ、肩にいるクグルに注意を向ける。
(僕はご主人様の忠実なシモベとして気になった事を注進しているだけさぁ)
注進ねぇ。
(これが悪魔の囁きというヤツかな?)
(ねぇそれ、思ってる事と言ってる事、間違えてない?)
(はて?)
(まぁいいけどさ。補足すると、僕とギルガの関係をよく知りつつ、僕がよく知らない子。って事になる)
(それ、本人なんじゃないか?)
(いや、それはない。君たち人が顔や声で人を見るように、僕ら悪魔は魔力で人を見る。屍の魔王と呼ばれた死霊術師の彼女が、風の結界を張れるというだけで、もうおかしいのさ)
なるほど。
で、あるならマオはバレると分かった上で出て来たって事だな。
一緒にいる以上、いずれは分かる事と踏ん切りが付いただけかもしれないが。
(まぁ、機会があれば本人の口からちゃんと言うだろ)
(いいの?それで)
(マオにゃ色々と世話になってるし、別に悪さをしてる訳でもない。言いたくない事を無理に言わせようとは思わねぇよ)
(ふうん)
道なき森の中を、周囲を警戒しながら歩く。
相変わらず生き物の気配を全く感じないが、風向きが変わったのか少し焦げ臭い匂いが流れ始めた。
「そろそろだな」
「はいはい」
肩の上にいたクグルが、ひょいっと俺の頭の上に乗り・・・急に重くなった⁉︎
「おいっ!」
両肩に何かが重くのしかかり、頭の上から布が被さってきた。
メイド姿に戻ったクグルが肩車の形に乗っていた。
「あはは、ごめんごめん。ちょっと高度な魔法だからさ、変身が解けちゃったのよ」
ちょっと待ってね。とスカートをずらして、俺の視界が帰ってくる。
「・・・降りろよ」
「あぁ、ごめん。走りながら魔法使うと途中で途切れちゃうかも知れないからこのままでお願い。後、出来るだけ、揺らさない様に走ってくれると嬉しいなぁ」
・・・仕方ねぇ。
「分かった。準備にどの位かかる?」
「そんなにかからないからちょっと待って」
ゆっくり歩きながら距離を測る。
悪魔の森の村までもう少し、走れば二十分程でいけるか。
少しづつクグルの魔力が散っていっているのが分かる。
これはエルフの里の結界と同じ要領か。風を起こすというより、大気そのものを自分の支配下に入れて動かすという感じだろうか。
いやはや、魔力って凄いな。
俺もフーカの様に光の槍を作ったり、ホルトルの様に土を変化させてどうこうとかやってみたかったんだが・・・。
どうにも俺の身体は魔力を放出してどうこうするっていうのに向いていないらしい。
術式を使わずに魔法を行使する天然魔法使いというものは、種族や血族なんかが関係しているらしく、そもそも数が少ないらしい。
普通はビリィのように体内で魔力を燃やして筋力に変換したり、刻まれた文様に直接魔力を流したり、言葉に魔力を乗せて魔法とするものなのだそうな。
万知さんのよくやる直接魔力で文様を刻む方法も、かなり特殊であるらしいが、前に言われた秘術とかいうのとはまた違うらしい。
一度説明して貰ったのだが、違いがよく分からなかった。
ここで興味が持てなかったあたり、俺は魔法には向いてないんだろう。
「準備出来たよ」
頭の上からクグルの声が降ってきた。
「よし、それじゃいくぞ」
後ろを振り返り、ダルガ、フーカ、ビリィに呼び掛ける。
各々が頷いたのを見て、走り出した。
不思議な感じだ。
周囲の空気が走るのよりも、ほんの僅かに前に流れていっている。
前方に少しずつ濃くなる煙が薄い膜の様に押し出されていっているのが見えた。
村が近い。
盗賊だ、魔獣だと見える敵と戦うのなら気も楽だが、これから相手をするのは原因不明の病気。
柄にもなく不安になる。
何が手助けになる事が出来たらいいが・・・。
最悪、見捨てる覚悟が必要だ。
気を引き締めていかないとな。




