実情
怪訝な顔をしたディルクートが詰め寄る。
「それは、どういう意味ですか?」
「分からんか?」
「分かりません」
「さっきからずっとオレとコイツに向かって不躾に殺気を送ってくる連中がいるのが分かるか?」
「えっ!」
と声を上げてディルクートが周囲を見回すが、感じ取れなきゃ分からんだろう。
「一人二人じゃないぞ?それに殺気とまでいかなくとも嫌悪感を飛ばしてくるのも多くはないが、少なくもないぞ」
「・・・」
「殺気を飛ばしてる奴らは我慢出来んだろう。必ず寝静まった頃を狙って襲撃してくる。まぁ、俺を狙って来る分にはいいがコイツを狙ってみろ」
クグルを撫でる。
今度は気持ちよさそうな撫でられている。
「コイツは本物の悪魔だ。コイツを狙った奴らは、見るに耐えない惨たらしい死に方をする事になるぞ」
ディルクートが生唾を飲む音が聞こえた。それと同時に、抗議が聞こえた。
(殺しはしますけど、そんな事はしません。僕を何だと思ってるんですか)
(悪魔だが?)
「それに俺の仲間にまでちょっかいを出したなら・・・事によっては俺が本気で暴れるかも知らん」
「・・・ですが、みんながみんな恨んでいる訳では・・・」
「んなこたぁ分かってる。爺さんみたいにもう明日に向かって生きてる奴もいるが、みんながみんな強い訳じゃねぇんだよ。
・・・俺とコイツがこの里を壊したのも、またどうしようもねぇ事実なんだよ。故郷が無くなるって事はそんな簡単な事じゃねぇんだから、それは仕方のねぇ事なんだよ」
分かってくれたかな?
「里からさっさと出て行けば、我慢出来る。まず追って来ない。そんな体力もまだないだろうしな」
クグルから手を離し立ち上がる。
「ま、そういう訳だ。俺も仲間を来ると分かってる危険に無闇矢鱈と晒したくないからな」
周りにいる仲間を見渡した。
ビリィとフーカ特に表情に出す事なく普通にしていたが、ダルガだけはやれやれと疲れた顔をしていた。
すまんな。
「ま、待ってください!」
ん?
「報酬の支払いがまだです‼︎」
あぁ。
「出来高払いって言ったろ。依頼は失敗。それにつき、報酬はなしだ」
「いえ、成功か失敗かは、依頼した私が決めます」
バレたか。
睨まれてしまった。
「依頼に対して、受託者であるジン様は依頼に誠実に対応し、考えうる最善の行動で、最良と思える結果を出して下さいました。よって依頼は成功だと判断します。ですが・・・」
ギュッと右手に何かを握ってるのが見えた。
それは宝石か?
「今のこの里にも、僕個人にも成功の度合いに応じた報酬を支払う事ができません。ですから・・・」
ディルクートがその手の平に緑色に光る石を乗せて突き出した。
「ディルクート・オム・イスカ・ソルオートランドの名において契約する。我は受けたその恩に報いる事を誓い約束する。我が名を其に捧げ、我が身は其とあらん事を」
ディルクートの言葉が光となり、そのまま緑の石に刻まれた。
「今は何も返す事は出来ませんが、いつか必ずこの恩に報います。その時まで待っていただけませんか?」
何か物騒な言葉が多かったが・・・、なんだろうか。あまり受け取りたくない。
ディルクートの少し後ろで見ていた老エルフが俺の考えを察したのか、近付いてきた。
「ジン殿、その石は、願い石と呼ばれるエルフ族に伝わる魔力石です。自分の言葉を石に刻み、その誓いを忘れないようにする為の物。いつか必ずその恩に報いると誓っただけの物なのです。どうか受け取ってやっては頂けませんか?」
老エルフが優しい笑みを浮かべて頭を下げてきた。
「貴重な物じゃないのか?」
「いえいえ、多少貴重ではありますが、里のエルフであれば皆一つ持っている物です」
そうか、それならいいか。
ディルクートの手から緑の石を受け取った。
多少大仰だったが、簡単に言えば出世払いって事なのかな?
「確かに受け取った。けど、無理はするなよ。お前が一人で背負わなきゃいけない事じゃないんだからな」
「はいっ」
うん、元気ないい返事だ。
「それじゃ行くか」
ビリィ、フーカ、ダルガにそれぞれ振り返り、歩く。
クグルは歩いている俺の背中に飛びつき、跳ね上がって肩に座った。
来た道を戻り、壊れた壁を超えて里の外に出る。
彼らのこれからを考えると少々心苦しいが、部外者の俺がやってやれる事は少ない。
彼らの生きる道だ。彼らの手で頑張るしかない。
「昼に出て来てこれからから戻るのか・・・、もう少しの辛抱だなぁ」
誰に言うでもなく、ダルガが零した。
あー、しまったな。言うのを忘れてたや。
「それなんだがな?」
「あん?」
「あの町にゃ戻らんぞ?」
「なんで⁉︎」
まぁ、驚くのも仕方ない。
「でも、ジン様。ギルド長と約束していたのでは?」
「あぁ、戻ったら酒を奢ってもらうって話な。アレは無しだ」
「理由をお伺いしても?」
「あぁ、アレだけデカい事を言って、一応は解決はしたけど、内容としちゃ微妙だし、何より説明が面倒だしなぁ」
理由としてはおかしくはないが、納得しにくい。そんな目でダルガに見られた。
「で、本心は?」
肩のクグルが口を挟んできた。
「それは建前なんでしょ?」
なんだ?意趣返しのつもりか?まぁ、建前だが、猫にドヤ顏で言われても困るな。
「本音を言えばギルド長を信用してないからだよ」
と言ってもクグルは知らんだろうが。
「ギルド長?あの筋肉ジジイ?なら・・・仕方ないねぇ」
知ってるのかよ。
「失敗しようが、成功しようが、あの手この手で抱き込みにくるだろうってのは想像に難くないんだが、結果が悪い方にあやふやだからなぁ」
「それだと何か悪いのか?」
「悪い。凄く悪い。森の管理を頼んでるエルフの里が実質、消滅する方向に動いてるからな。それだけでも以前より大変になるのは目に見えてる。
けど、事情を知ればエルフの里の消滅に一枚噛んでる俺を抱え込んで、エルフを引き抜くダシとして存分に活用しようと考えるだろ。
悪魔の事もエルフに聞けばすぐにバレるだろうしな。
俺とエルフ。両方上手く抱き込めたらギルドとしちゃこれ以上にない戦力アップだ。
そこまで知れば犯罪スレスレの脅しを掛けてでも、俺を囲い込みにくる気がするんだよなぁ。あのジジイ」
どう転んでも面倒になる予感しかしない。
「まぁそうだねぇ。あの筋肉爺さん、頭の中まで筋肉で出来ていそうでいて、中々に下衆いからね。その判断は間違ってないと思うよ」
そうか、胡散臭いぐらいにしか思ってなかったが、正しかったか。それより悪魔にここまで言われるとは、あの筋肉ジジイ何やらかしたんだろ。
「まぁ、そういう訳でクグル。今日の所はゆっくり休みたいから丁度いい休息地まで案内しろ。お前、この辺に詳しいんだろ?」
クグルは肩の上で大きく息を吐くとサッと地面に降りた。
「やれやれ、悪魔使いの荒いご主人様だ。仕方ないね、これは一つ貸しだよ?にゃ」
「馬鹿野郎。元から言えば全部お前のせいだろうが。俺としたらお前を無理やり元の場所に埋め込んで結界にしても良かったんだぞ」
「え⁉︎」
猫が驚く顔ってのは面白いものだな。
「お前が帰りたいって言うから見逃したんだ。こうやって俺に取り付くのが分かってたら、容赦なく埋めてた」
「えっと、従属契約が結ばれたからしなかったって事かにゃ?」
そわそわする猫を見てるのも面白い。
「いや、してやられたと思ったからしなかった。他意はない」
「今からでもやろうと思えば・・・」
「出来る。というか、従属させてる方が無理やり埋めるより簡単だ」
とは、万知さんの言葉だ。
何回か、本気で埋めてやろうかとも思いつつも、実際にやらなかったのは、なんのかんのと言っても面白い奴だと思ったから・・・かもしれない。
「怖いにゃぁ、神代の魔法なんて使うから只者じゃないとは思ってたけど、その若さでそこまで出来るとかおかしいにゃ。間違ってるにゃ。ご主人様選びを間違えたにゃー」
「やかましい」
「にゃーん」
尻尾を引きずりトボトボ歩く猫の後を付いて暗い夜の森の中を歩く。
しかし、暑苦しいのの次にうるさいのが増えてしまった。
これ以上はいらないと思うんだが・・・、アレだな。
もう変に物事に首を突っ込むのはやめよう。
そう心に決めた。
守れる気もしないが。




