黒い邪悪な小人
「見えたな」
荷台を燃やしてから三時間程も歩いただろうか。
お日様がもう少しで真上に差しかかろうという頃、森の木々を抜けた先に町らしい壁が見えた。
この世界の町はみんな城塞都市のなんだなぁ。ただ、これは戦争の為というより、魔獣の類から身を守る為のものなんだろう。
人の身の丈を遥かに超える石積みの壁。その壁の上には弩らしい物と、衛兵らしい人影がチラチラと見える。
うーん。
人の作った建造物っぽくて良い。訳の分からない物じゃなさそうというだけで安心できる。
ただ・・・。
「門が・・・空いてないな」
遠目に見てもはっきりと閉じられているのが分かる。門衛も立っていない様だ。
「そうですね。なにかあったのでしょうか?」
「そうみるのが自然だろうな」
早朝というのなら分かるが今は真昼だ。有事でなければ閉じている理由はない。と思う。
壁自体には異変らしいものは見当たらないが、城壁の上にいる衛兵らしき人らが慌ただしく動いているのが分かる。
敵愾心の様なものは感じないが、殺気立ってる感じを受ける。
門が開かれる様子もないが・・・。
「ジン」
ビリィの声に若干の緊張が混ざっている。
どうした?とは言わない。
即座に周囲の気配を探り、城壁に近い森の方から何か近付いてくるのに気付いた。
数は・・・六。いや七・・・十四?二つ一組に重なってるな。そして速い。少なくとも森の中を走る人の速度じゃない。
何より・・・なんか気配が気持ち悪い。明らかにこっちに向けてくる意識が・・・憎悪?愉悦?何か凄まじく悪意に満ちてる。一言で言えば邪悪そのものと言っていい気配だ。
「フーカ、ビリィ、ダルガに荷物を預けろ」
言って間もなく、森から複数の影が飛び出してきた。
犬だ。いや狼か?
前に見た森林大狼と大きさは同じくらいだが、その上に子供ほどの大きさの何かを乗せている。
浅黒い肌に、毛の一本もない頭。耳は長く尖り、目は薄く長く、切り裂いた様な大きな口から牙が見えている。
手足は細く節くれ、腰に毛皮の様な物を巻いているのが見えた。
「フーカ、アレはなんだ」
「ダークキュイビットと呼ばれる魔獣です。性格は残忍で狡猾。常に集団で行動し、殺戮を好む邪悪な生き物です」
アレも魔獣か。定義が広い。
「フーカ、迎撃用意」
「はいっ!」
静かに集中し始めたフーカの盾になる様に、一歩前に出た。
森から飛び出して来た黒い小人の一団はひと塊りとなってこっちに向かって突き進んでくる。
何をする気だ?
普通、騎兵の武器の相場といえば長物だが、そういった物を持っている様子がない。
まさかそのまま飛びかかってくる気じゃないだろうな?
犬にしがみつく様に乗っている小人が、こっちまでの距離、百メートルをきったかと思った辺りで身体を起こし、何かを取り出した。
弓?
木の枝をデタラメに繋ぎ合わせたかに見える半弓を構え、こちらに向けて引き絞って来る。
素早い動きだ。しかも鞍も鐙もなしによくやる。
だが・・・。
矢がない?
矢のない弓?
まぁいい。向こうの出方をこれ以上に待つ必要はないだろう。
「撃て」
俺の号令と共にフーカが光の槍を打ち出すのと、黒い小人が弓を弾いたのは、ほぼ同時だった。
ビュロロロロロロロ
なんだ⁉︎
先頭の三匹が打ち出した何かが異音を鳴らして飛んでくる。
それとすれ違いに弧を描いて三筋の光が反転しようとした三匹の小人と二匹の狼を撃ち抜いた。
貫通した光の槍の垣間から残りの四匹が弾を撃ってきた。
時間差で飛んでくる異音の弾と音の鳴らない弾。
その両方共がフーカを狙い飛んでくる。
まぁ、当たらないけどな。
素手で両方の弾を真下に叩き落とす。
うん。
威力も精度も申し分ない。鏑矢の様に異音を鳴らす弾に至っては、音を鳴らしている為か小刻みに揺れている分、叩きにくかった。
時間差で撃ってきた小人らがギャアギャアと喚きながら反転して引き返そうとしている。
何を言ってるのかは分からんが、生かしておかない方がいいだろうな。
「フー・・・」
フーカに命じようとして、やめた。
いつの間にかに走り出していたビリィが反転した黒い小人に迫っているのが見えた。
速い。
まるで一陣の風の様に追いすがり、一瞬で二組の小人と狼の首を刈り取った。
残る二匹は再び弓に弾を番えビリィを狙うが・・・⁉︎
走るビリィが突如跳ね上がり、空中を駆けながら小人に肉薄。空を舞う様に小人の首を刎ねた。
ウチのビリィさんはいつからお空を走れる様になったんだろう。
・・・深く考えるのはやめるか。
きっと無意味だ。
とりあえずはもう大丈夫かな?
森の奥からこちらを伺っている気配はあるが、仕掛けてくる気は無い様だ。
周囲を警戒しつつ、撃ち落とした弾を拾う。
思ったより埋まってるな。
土をほじくり返して取り出した弾の片方は削られてまん丸く加工してあった。大きさもほぼ均一に揃えられてる。
もう片方の異音の弾はミミズがのたくったような深い溝が彫ってあった。こっちも大きさが揃えられてる。
面白い事をする。
前に会った猪頭とは違う、明らかな知性を感じる。
攻撃の仕方もそうだ。
その辺にいる獣とは明らかに一線を画す、訓練と兵法があった。
「フーカ、ダークキュイビットとは、武器を加工して統一出来る程に知能の高い魔獣なのか?」
「申し訳ありません。石を飛ばす弓を使えるというのは初めて知りました」
とすると、
「アレをまとめ上げて知恵を付けさせている奴がいる。って事か」
ちょっと面倒な事になっているのかもしれない。
思案していると小人の死骸の所で何かしていたビリィが帰ってきた。
手には弓と袋を持っている。
「ジン!ジン!見て見て!」
袋を突き出してきた。
「ほらっこれ!かなり作りが雑だけどだけどこれに石が入ってるの」
袋を受け取り、触ってみる。
何の皮かは分からないが、固くて形が歪で縫い目が雑だ。
入っているのは丸く加工された石が数個。
石の弾を入れるだけだし、多少歪でも別に不具合はないだろう。
「ほらっこれはもっと面白いよ!」
こいつ興奮するとビリィ寄りになるな。
次に出されたのが弓。
枝を雑に組み合わせて縛り上げ、無理やり紐を張った様に見える。
張られている紐は二本。紐の真ん中には石を嵌める為の凹みのある皮が付いている。
試しに石を嵌めて引き絞ってみた。
メリメリメリメリと弓が激しく軋むが壊れるって感じじゃない。
バンッ
と音を立てて石が飛んでいく。
少し狙いがズレた。
が、難しいものじゃない。少し練習すれば直ぐに使えそうだ。
「それ、やっぱり弾弓か、久しぶりに見たな」
そうつぶやく様に言ったのはダルガだ。
「お前、コレ知ってんのか?」
「ん?あ、あぁ。知ってるよ。子供の時によく狩りに使ってた」
「割と一般的な物なのか?」
「どうだろ?昔にうちに来た行商人が置いてった物だけど、弓より簡単だし、弾もその辺の石ころでいいから町じゃ結構流行ったんだよ」
俺から弾弓を受け取ったダルガが確かめる様に引いた。
「うん。思ったより頑丈だし、バランスもそんなに悪くない。良いものだよ。コレ」
お前、事の重大さが分かってねぇだろ。
武器を作れる知恵を持った魔獣が森から出て襲って来てるって事だぞ。
「まぁ、これで門が閉まってる理由は分かったが・・・結構厄介な事になってるっぽいなぁ」
未だ門は閉じたままだ。
とりあえず町に行くか。どうするかは皮を売っぱらってから考えよう。




