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追跡者

 町に近付くとギギギと重い音を立てて門が開いた。


 槍を持った衛兵が五人、門から出てきて周囲警戒している。


 俺らを迎える為、というよりはあの黒小人を警戒しての人数だろう。


 門の近くまで行くと衛兵の一人が頭を下げて来た。


「この様な時によくおいで下さいました。本来であるならばすぐさま救援に向かう所だったのですが、こちらの門は定期的に来られる大型の商団の方々以外、ほとんど利用されないので騎兵団が間に合いませんでした。申し訳ない」


 そうだったのか。

 道中に全く人に会わなかったのも、門が開く気配がなかったのも理由があったんだな。


 しかし・・・騎兵?馬かな?人族だし。


「いや、状況は分かってる。仕方のない事だ」


 適当に答えておこう。


「そう言っていただけると助かります。こんな時ですし腕の立つ冒険者の方は大歓迎です。ささっこちらへどうぞ」


 門の内側に迎え入れられ、入ると同時にゆっくりと門が閉められた。


「一応、身分の確認できる物を提示願えますか?」


 冒険者の認識票を渡す。

 ビリィやフーカも同じように他の衛兵に声を掛けられている。


「新銀・・・お若いですね」


 優しく丁寧に確認して、返してくれた。


「そちらの荷物は?」


「道中に狩ったやつだ。確認するか?」


「いえ、大丈夫です。それはそのまま冒険者ギルドに?」


「そのつもりだ」


「分かりました。ありがとうございます。ようこそイラクサの町へ」


 一歩下がり、軽く頭を下げてきた。

 もう行っていいって事だろう。


「すまないが、冒険者ギルドの場所を教えてもらえるか?」


「はい。この通りを真っ直ぐに行かれますと正面に政務塔と呼ばれる大きい建物が見えてきます。その手前、左側に冒険者ギルドがあります。大きい建物ですので見落とすことはないでしょう」


「ありがとう」


 教えてくれた衛兵の手に銀貨を差し込んだ。


「少ないがこれで酒でも飲んでくれ」


 そう言ってその場を後に、教えられた方へ進んだ。


 イラクサの町ね。


 まだ覚えやすそうな名前だ。


 そして、久しぶりの人族の町。


 ただ、ケモ耳や尻尾がないってだけ。金髪や赤、茶、緑や白っぽい髪の毛した奴がほとんどだ。


 黒い髪をした奴が全然いない。


 今ひとつ・・・同族って感じがして来ない。


 それに街並みもそうだ。


 赤黒い煉瓦っぽいので出来た建物。

 みな三階建て四階建てで統一感はあるものの、目に馴染まない。


 どこかヨーロッパの歴史ある都市に来た。

 印象としてはそんな感じだ。


 なんだかなぁ。

 異世界感が少ない分、何かお家に帰りたい感が出てしまう。


 ホームシックだろうか?


 帰れる家もないというの・・・に?


 ふと、懐かしい音が聞こえた。


 パタタ パタタ


 という、軽快に土を叩く音。


 自然と視線がそちらの方に向いた。


 う、馬だ。


 鮮やかな黒毛、その皮一枚下で強調される鍛え上げられた胸筋。しゅっとくびれた腰。そして幾筋もの鉄筋を張り巡らせたかの様な後ろ足!


 そして何より・・・角が生えてる‼︎


「ジン様?」


 さ、触りたい。撫でたい。餌やりたい。


 この世界に来て、馬を見る機会は何度かあった。あったにはあったが、ただ遠くを走る馬車を何度か眺める機会があっただけ。


 こんな近くで見るのは初めてだ。


 撫でたいが、いきなり触るのは駄目だ。マナー違反だ。


 けど、許可貰えたら、それでいいよな?うん、いいだろ。


 ただちょっと・・・好みが違うのは残念だが・・・、この際、それは置いといてもいいだろう。


「ちょっと待って下さいジン様!」


 む。


「なんだフーカ?」


 肩から腕から掴まれた。


「今、騎馬警衛の馬に触ろうとしていませんでしたか?」


「バカを言うな。いきなり触るわけないだろう」


「そ、そうですか?」


「ちゃんと許可を貰ってからだ」


「待って!駄目ですよ!」


「駄目なのか?」


「そ、そうです。邪魔をしてはいけませんし、有角馬は魔獣に近く、気性が荒いのがほとんどです。むやみによってはいけません」


「そうかぁ」


 残念だ。

 フーカに掴まれている間に、お馬さんが来た道の方に行ってしまった。

 馬に乗ってる人にちょっと睨まれた気がするが・・・、馬いいなぁ。


 馬、飼おうかな?


 ん?


 馬が不自然に進路を変えた。

 馬の前には人はなく、乗ってる人もそんな風に動かした風もない。


 何かを嫌がった?

 虫でもいたかな。


 ・・・何か違和感が・・・。


 とりあえず、前に向き直り、ギルドに向けて歩く事にした。


 馬・・・馬・・・。


 いや、馬はいいんだが、何故かさっきの馬の挙動が気になる。


 それに何か不思議な視線を感じるんだよなぁ。


 いやまぁ、視線はすごいいっぱい感じるんだ。

 すれ違う人とか、店で売り子をしている人とか。

 凝視してくるのもあれば、チラッチラッと窺うように、品定めでもする様子なのとか。


 それはまぁなんとはなし、分からなくはない。


 うちのメンバーって種族がバラバラだし、その上やたら大荷物だし、何かは分からんが目立つ要素は多分、沢山ある。


 ただ、その奇異や興味の視線に混じって、何かちょっと違う熱を帯びた視線をずっと感じる。


 なのに、それらしい視線の主が見当たらない。


 あの馬の一件がなかったら多分気付かなかっただろう。そのくらいにわずかな違和感。


「ビリィ」


 右斜め後ろを歩くビリィに前を向いたまま声を掛けた。


「何?」


「誰か付けてきてるか?」


「ん・・・、いや、分かんない」


 珍しく濁したな。


「何か気になる事でもあるか?」


「うーん。特に何もないと思うんだけどさ。なんかこう・・・ピリピリするんだよね。うな毛が」


 うな毛?


 前を向いたまま視線を向けると、ビリィがしきりに首の後ろを撫でていた。


 うなじの毛?


 なんかよく分からんが、ビリィも何か感じるって事でいいな。


 じゃあやっぱり、何かいるんだな。馬が嫌がって避ける、俺らを見てる何かが。


 見て分からないなら・・・試して見るか。


 右の手の手の平にピンポン玉の程の魔力球を作り出す。


 最初の頃よりだいぶ小さくなった魔力球を握り潰し、弾けさせる。


 ‼︎


 すぐに反応があった。


 三十メートル程後ろに付かず離れず付いてくる何か。


 大きさは・・・、俺より頭一つ小さい、そして人型だ。


 魔法の膜のようなもので覆っているので返って来た反応だけじゃ、中身は分からない。


 けど、その魔法が何かは万知さんが教えてくれた。


 姿を周囲に溶け込ませ、見えなくする魔法。

 トラスペア


 音を消す魔法。

 ムート


 匂いを消す魔法。

 イドゥア


 そして魔法の痕跡を隠す魔法。

 アセクゥトゥラ


 この四つの精霊魔法の複合らしい。

 なるほど、道理で違和感はあっても気付けない訳だ。


 こう聞くとかなり完成度の高い物に聞こえるが、弱点も多いそうだ。


 まず脆(もろ)い。

 物に触れるだけ、恐らくは強風に煽られるだけでも剥げるそうだ。


 そして、探知魔法からは逃れられず、魔法に敏感な人なら近寄れば察知されやすいらしい。


 少なくとも人の多い場所には向かない魔法であるみたいだ。


 さて、敵意の様なものは感じないが・・・そんな魔法を使ってまで見てくる理由は何だろう?


 本人に聞くのが一番いいか。


「ダルガ・・・は、持てないか」


 両手が塞がってる。


「ビリィ、ちょっと持ってて」


「ん?」


 足を止めてビリィに荷物を渡した。


「何?」


「野暮用」


 そう言ってダルガの巨体を盾にして一瞬、隠れてる奴の視界から外れる。


 周囲を俯瞰(ふかん)して、ルートを確認。

 一瞬でいい。初動さえバレなければ多分、簡単に捕まえられる。


 周囲の人が盾になり、視界が遮られる一瞬を計り、走った。


 一気に駆け抜け、隠れている奴の背後に回る。


 俺の動きに気付いたのか、振り向くように魔力の膜が動くがもう遅い。

 振り向く動きに合わせて、そっと魔法を撫でた。


 指先からペリペリと薄い何かが剥がれる感触と同時に、指先に沿って魔法が消えていく。


 剥がれた魔法から姿を現したのは・・・少年だった。緑色の短い髪から長く尖った耳が見えている。

 エルフ?


「な、なんで・・・」


 驚きの表情で俺を見ているエルフの少年。


「なんでと聞きたいのは俺の方だ。何故、後を付けた?」


 何か良くない物を城壁の内側に入れてしまったのかとも思ったが、そういう訳でもなさそうだ。


 エルフの少年は驚きの表情のまま唾を飲み込んだ。

 か、直ぐに気を取り戻した様子で俺を見つめ返して来た。


「後を付けたのは、その、すみません。謝ります。あの、城壁の上からずっと見てました。どうか、僕の村を助けて欲しいんです!」


 慌てて頭を下げながら弁明するように言ってきた。

 なんかまぁ、事情があるっぽいな。

農家こぼれ話 その一


農家の爺ちゃんには馬好きが多い。


今では当たり前になったトラクターなどの農業用機械だが、その普及はさほど古くない。


歩行型トラクターが普及しはじめたのが昭和二十年代。今の形に近い乗用トラクターが普及し始めたのは昭和四十年台から五十年代である。


それまで農耕馬は割とどこにでもいる農家の家族だった。(らしい)


陣三郎さんも子供の頃は、馬の世話をするのが当たり前の日常だった。

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