闘技
グイトに案内され、棒を立てて登った時には丁度試合が終わった所だった。
くそぅ、フィニッシュブロー見損ねた・・・。
あいつに絡まれてなきゃもうちょっと見れたのに・・・、残念でならない。
リング周辺は湧き返り、頭を抱えてうなだれ奇声を上げている奴と、諸手を挙げて叫んでいる奴に二分している。
まぁ喜んでいる奴の方が少ないのはご愛嬌だろう。
そしてどこからともなく箱を担いだ小柄な熊人達がぞろぞろと現れ、各所で仕事の準備を始めてる。
箱を持ってるのは何人か見かけてたが、ほとんどは散ってたんだな。
観戦でもしてたのかもしれない。
そして、準備を整えた請け師に人が集まり・・・と思っていたが、ほとんどの人らに動きはなく、請け師に寄る人はそれほど多くない。
「請け師って奴にすぐ人が集まるかと思ったがそうでもないんだな」
俺の横に棒を立て、一緒に見回しているグイトに聞いた。
「今、請け師に行っているのは素人かこれで帰る奴ばっかりでさぁ。まぁ強い闘士にはファンも多いですから見る前に賭ける奴も居やすが、まぁ大体は様子を見てから賭けやすからねぇ」
「見る?」
何をだ?
「まぁ見ててくだせぇ。闘技場の掃除が終われば分かりやすから」
倒された大柄な熊人が引き摺り出されるに合わせて道具を抱えた数名がリングに駆け込み、急ぎ掃除を始めていた。
駆け抜ける様に掃除をして、そのままの勢いで姿を消し、少しの間を置いて再び会場が湧いた。
「炎熊門から闘士が入りやしたね」
えんゆーもん?
赤コーナー青コーナーはないとは思ってたが、そうか、門か。
沸いている観戦者はリングから左側が多い、そっちが炎熊門でいいのかな?
左右に置かれてる観覧台の真ん中が通路になってるみたいだが、ここからじゃ見えん。
「炎熊は闘志を炎の如く燃し、纏って闘う太古の戦闘種族、炎熊族がモチーフでさぁ。反対側は地熊門と言いやして、腕が四本ある伝説上の戦闘種族、地熊族がモチーフになってやす。どっちも熊人族の間じゃ神と崇められる程に人気があるんでさ」
「なるほどねぇ」
伝説上の生き物みたいな奴に伝説上を語られるとは不思議なものだ。こいつらもそうだが、この世界の歴史ってどうなってんだろ?
「炎熊門側の闘士がリングに上がりやしたね。あぁ・・・ズェズギィだ。奴はここ最近負けなしでしてね、期待の新人ってヤツでさぁ。戦い方は苛烈と名高いグランカランでも、さらに苛烈。開幕からの猛攻で三分以内に全部の対戦者を沈めてきたっていう猛者でさぁ。
対戦者は・・・おや、カラムだ」
いつの間にやらリングの上にもう一人上がっていた。
こっちの方は人気がないなかな?歓声が上がらなかったから気づかなかった。
リングに上がった二人はそれぞれの端で身体を動かしている。
シャドーボクシングというか、空手なんかによくある演舞のが近いかな?
「カラムは・・・昔は強かったんですけどねぇ。最近はパッとしない試合が多くて、負け続きなんですよ。これは賭けが偏りそうですねぇ」
ふむ。
確かに激しくキレのあるズズなんとかって若いのに比べると、動きに精彩さが欠けていてどことなく頼りない。
ように見えなくもないが、若いのの方は激しい分、動きが雑だ。カラムって奴の方は一つ一つの動きが丁寧で隙がない。これはこれで面白い戦いになると思うんだがなぁ。
っていうかなるほどな。これを見てから賭ける訳か。
観客達がぞろぞろと動き出し、近くの請け師に集まり出してる。
・・・おや?
「それで兄さん、どっちに賭けやす?ズェズギィの勝ちで固いとは思いやすが、倒す時間にも賭けられやすんでね。早くしないと締め切られちまいやすよ」
んー・・・ん?
激しく動いてる若いのの動きに、カラムが合わせてる?
どっちも相手を見ちゃいないが・・・、偶然にしては出来すぎてる。・・・あいつ、カウンターを当てる気だな?
「兄さん、早くしねぇと」
「待てグイト。カラムって奴は昔はどんなやり方で勝ってた?それと最近の試合、どんな風に負けてるのかも教えろ」
「え?あ、へい。昔は・・・そうですね。無茶苦茶に殴りかかって自分のペースに相手を巻き込んだ後、一撃でねじ伏せる、ってな感じの試合が多かったですかねぇ?最近は、相手のペースに飲まれてそのまま倒されちまうって感じですかね?」
「反撃は?大して何も出来ずに倒されてたのか?」
「そうですね、たまにいいのを返してちゃいたんですが、前みたいに畳み掛けるような動きをしなくなったんですよねぇ。それで結局負けちまうんですよ」
ふむ。
体格はズェズなんとかの方が一回り大きいかな?力と体力の勝負になったらまず勝てないだろうが・・・、タイミングは大分合ってきてる。
それでもカウンターをとるってのは簡単じゃない。それに半端なカウンターを当てて警戒されたりしたら厳しい試合になるだろうな。これまではそれで負けてたのかな?
さて、どう転ぶのか・・・。
面白いな。
「兄さんそろそろ決めないと間に合いやせんよ?」
「グイト、時間に賭けるってどうやるんだ?」
「へい、開始から一分以内、二分以内、三分以内、という感じで十分までと、十分以上に賭けられます。まぁ十分以上も掛かる試合なんて滅多にありやせんが。
後、分までピタリと当てられたらオッズの倍率が三倍になって払い戻しになりやす。今回はズェズギィで分まで当てても、賭け金の二倍にもならなさそうですがねぇ」
「よし、分かった」
収納から銀貨千枚の入った袋を取り出す。
「カラムって奴が開始三分以内で倒すのに全部突っ込め」
「へ・・・へい?いや兄さん⁉︎あっしの話し聞いてやした?」
「グイト、その金は賭けで稼いだあぶく銭だ。だったら賭けでパッと散らすのが面白いってもんだろ?」
「いや、そりゃそうかもしれませんが、散らすにしても大穴に賭ける事はないでしょうよ」
収納から銀貨を十枚ほど掴み出してグイトに渡す。
「ほれ、情報料と手間賃だ。とっとと賭けて来い」
手の中の銀貨と俺を交互に見回して渋い顔をしているグイトだが、諦めたように棒から降りて行った。
「あっしは言いやしたからね?外しても文句は言わねぇでくだせぇよ」
「言わないからとぅとと行って来い。締め切られるぞ」
こっちをチラチラと見ながら、何が文句でも言いたげにグイトは走って行った。
チョロまかすかな?
万が一当たった場合を考えたらそんな事はしないと思うが・・・。ま、そん時はそん時でまた考えるか。
しかし便利屋の言う様な、そんな単純な試合にはならないと思うんだがなぁ。
確かにあのズズなんとかって奴は強いと思う。
動きの速さ激しさもあるが、変にリズムが狂ってる所がある。アレとマトモに撃ち合ったらリズムが狂わされるのは間違いないと思うが・・・。
その変則リズムにも対応出来てるように見える。この辺はやはり経験の差かな?
まぁ、一方的な試合にはならんだろ。
外しても俺の金じゃねぇし。
おっと、そろそろ始まるかな?
という所でグイトが帰ってきた。
スルスルと器用に棒を登り、台の上に立った。
「賭けてきやしたよ。銀貨千枚キッチリ」
俺の方に腕を伸ばし、何かを差し出した。
丸まっているそれを受け取り広げて見る。
紙・・・ではないな。皮?羊皮紙というヤツだろうか。
そこには確かにカラムという字と三分、銀貨千という字が見えた。
「ごくろうさん」
「まぁ、仕事っすからね」
ズドン
と、リングの上に打ち上げられた赤い玉が破裂した。
無駄に派手だな・・・。
試合が始まった様だ。
両者とも音と同時に走り出し、二人とも顔の前で腕を組んだ状況でリング中央で真正面から激突した。
グシャッというか、ガスッというのか、なんとも言い難い肉と骨とがぶつかり合う音が響いた。
軽い交通事故を見た気分だ。首の後ろがうすら寒くなる。
開幕早々の激突はほぼ互角。少しだが、ギギがカラムを弾き飛ばした形になったのだが、先に膝を突いたのはギギだ。
おそらく激突した直後、弾かれた様に見せながら蹴りをくれてたんだろう。
一瞬、静まり返った会場は歓声という怒号でもって包まれた。
いやぁこれ、面白いなぁ。心臓にゾクゾクくる。
余裕そうだったギギは表情を鬼の様に一変させ、長く太い腕を振り回し、猛烈な打撃をカラムに叩き込む。
最初こそ撃ち合いに応じていたカラムだが、徐々に手数が減り、受けに回りながら少しづつ、ジリジリと後退している。
「それで、お前は賭けたのか?」
「えぇ、賭けやしたよ」
「何に賭けたんだ?」
何やらムスっとしてるな。なんだ?
「あっしもカラムの三分に・・・、今日の稼ぎを全部、突っ込んじまいやした」
ほぅ。
「ギギなんとかのが堅いんじゃなかったのか?」
「魔が差しちまいやした・・・」
ため息吐くなよ。
「オッズの倍率が跳ね上がってやしてね・・・。あぁもう、負けたら兄さんのせいですからね」
「ま、外したらメシ位なら奢ってやるよ」
「兄さんは自信あるんですかい?」
「いやぁ、半々かな?」
「その半々に銀貨千枚ですか・・・、あぁ真似しなきゃ良かった」
そろそろ始まって一分になるかな?
ジリジリと後退させ続けられているカラムはロープを背に攻撃を一身に受けている。
「あぁ、やっぱり押し込まれてる・・・、なんで手ぇ出さねぇんだよ!」
ふむ。
少し分が悪いかな。
まだ決定打は貰ってない。軽い攻撃は貰ってるが、強打は全部躱すか、受けても肩だ。
だが受け流してるならともかく、食らい過ぎだな。これはもたないかな?
あ、カラムの頭が跳ね上がった。
「っあぁぁぁぁ!」
グイトの叫びがうるさい。
ガードを上手くすり抜けて下から頭を撃ち抜いた、良い打撃だが・・・、アレ、ダメージ入ってないな?
身をよじってロープ側から脱し、再び距離を取ろうとしているが、ギギが追いすがる。
カラムは小出しに打撃を返して突き放そうとするが、多少喰らってもギギは怯まない。
変だ。
上半身はフラフラしているが、足に笑ってる感じがない。しっかりしてる。
あの頭を撃ち抜かれたのは演技か?
「っあぁぁ・・・」
今度は横に頭を撃ち抜かれたが、今度のはハッキリ見えた。
あのカラムとかいうヤツ、額で拳を受けて、攻撃を受け流したよ。すげぇな!
とすると、今まで喰らってた打撃もほとんどは受け流してた?いや、そこで上手くはないか。
フィニッシュブローと思った打撃を二発も受けて、全然倒れる気配のない相手にギギは驚いてる様だ。
いや、受け流されてるんだから手応えは全然薄いはずだ。
どちらかと言ったら薄気味悪く感じてる。だろうか?
けれども猛烈な打撃の手は緩めない。
でも息は上がってるし、速度は落ちてる。
「グイト、ようく見てろ。面白いもんが見れるぞ」
「負ける瞬間ですか?」
「もっと面白いもんだよ」
グイトに向けて笑ってやった。
疲れもあり、ギギの動きから変則的なリズムが減った。そして、少しづつ規則性を持った反撃と、当たる自分の攻撃にギギのリズムが狂わされ・・・。
あんまりやるとバレるぞ?
いっちにぃの、さん、はいっ行けぇ!
ギギの打ち下ろし気味に振り下ろされた拳をかいくぐる様に躱し、全体重を乗せたカラムの右の拳がギギの頬に刺さった。
ややフック気味に入った拳はギギの顔面を撃ち抜き、勢いそのままリングに叩き落とした。
「見事!」
もっとドロドロとした展開からの逆転劇を予想したが、蓋を開けてみれば全部カラムの計算通りに見えるな。
リングに打ち付けられたギギは完全に気を持ってかれたな。ピクリともしねぇや。
ドォーンドォーンドォーン
赤い玉が連続で打ち上げられ、激しい音を響かせた。
「はぇ?」
グイトの気の抜けた声と同時に、会場が割れんばかりの怒号に包まれた。
ギギに大枚突っ込んだ連中の叫びかな?
それに負けじと勝者に送る賞賛の声が怒号を押し返し、会場を埋め尽くした。
「あぁぁぁぁぁぁ⁉︎今、勝ったのカラムですよね?ね!じ、じかん、時間は・・・」
「少し落ち着け」
「に、二分?三分!三分前ですよ兄さん⁉︎」
どこ見てんだ?
見ている先には棒を借りた小屋があった。その屋根の上に棒が十本あり、その内の二本が倒れていた。
アレ、時計の代わりだったのか。
「に、兄さん、換金して帰りやしょう。ここが引き際です。そうに決まってやす!」
引き際て。
「試合ってあと幾つあるんだ?」
「あと・・・三試合ですかね」
どこか見て言ってるけど、今度はどこ見て言ってんのかわからねぇや。
「じゃ、後三回賭けたら帰るか」
「にぃさぁぁぁん」
「稼いだ分だけ突っ込むから怖くなるんだよ。最初からなかった金を賭けてりゃ思えば怖くねぇんだ」
「そうは言いましてもね?・・・っていうか兄さん」
「なんだ?」
「何で三分でカラムが倒すって思ったんです?」
「そりゃ・・・カウンター狙ってたのが分かったからな」
「どうしてです?」
「そんなん見てりゃ分かるさ。それにギギってヤツ。あいつが三分内に全部倒して来たって言ってたからな。もしかして体力が無いのを連打でごまかしてたんじゃないかと思ったのよ」
ただ単にペース配分が出来ないだけかもしれないが。まぁ、どっちにしても同じだけどな。
「根拠があったんですねぇ」
「根拠のねぇ賭けなんかしたってつまらねぇだろ」
闇雲に賭けて当たったとして、何が面白いのか。
「兄さん・・・歳の割に練れてますねぇ」
うるせぇやい。
「さ、次が来たぞ、次はどんなだ?」
「はぁ、膨れ上がった大金をまた突っ込むかと思うと血を吐きそうですよ」
「意外に肝の小さいヤツだな。人の金だ、細かいことなんか気にすんなよ」
「兄さんはそんなに神経が太いから冒険者やってるんですねぇ。納得しました」
おら農民なんだがなぁ。
まぁいいさ。




