罠
「それで千枚の銀貨を手に入れて」
「その銀貨千枚が、金貨千枚と宝石になった」
「賭けで・・・ですか?」
「賭けで」
フーカが借りてくれた宿の一室、俺はベッドに腰掛けてテーブルの上に盛られた金貨と宝石の一応の経緯を説明しているのだが・・・。
「俄かには信じ難い額ですね」
まぁ、俺もそう思う。
あれから残り三試合、どうせあぶく銭だと全額賭け続け、その全部を当ててしまった。
予想はしたし予見もした。勿論全てが予想通りになった訳でもないし、外した部分も結構ある。ただ結果として当たってしまっただけだったのだが・・・。
その結果、どのくらいの価値があるのかよくわからん金の山が出来上がってしまった。
一緒にいたグイトなど泡を吹いて倒れそうな勢いだった。
ついでに請け師も倒れそうになってた。最後の精算に出向いた際、青い顔で見られていたのは覚えてる。
支払う金が足りないと方々から掻き集められ、俺の前に金貨銀貨と宝石が山と積まれた訳だが・・・。
なんとなく申し訳なかったので銀貨はその場に集まっていた関係者っぽい人達にご祝儀として全部配った。
本当は銀貨を残して金貨と宝石を配りたかったのだが、グイトに止められた。
そのグイトにも銀貨を分けようとしたが、俺と同じ様に賭けていたグイトは、充分儲けましたので、といらないされた。
「それでこれはどのくらいの価値があるんだ?」
「これはクルム金貨ですから、一枚で共通銀貨で三十六枚分の価値があります。宝石ですが・・・私では真贋が分かりかねますね。本物でしたら・・・」
「金貨と合わせて銀貨十万枚、って所じゃないか?みんな本物っぽいよ」
宝石の一つ一つを手に取って見ていたビリィが関心した様に言っているが・・・、よく分からんな。
えっと十万枚?
銀貨一枚を・・・千円としたら・・・?
億⁉︎
ふぁ⁉︎
「参ったな・・・、確かに金は欲しかったんだが・・・急激にこんな増えられても・・・なぁ」
「別にいいんじゃないか?あって困るものじゃないし、何よりジンは収納を持っているから管理が難しい訳でもないだろ?」
「まぁ、確かにそうなんだがなぁ」
貧乏人の性だろうか?大金が目の前にあるというのもあるが、これによって困った人が量産されたんじゃないかと思うと気が気じゃない。
それに・・・。
「ぱっと使って、サパッとしたいところなんだがどう使えばいいのか想像がつかん」
これは貧乏人というか小市民の性だろうか?
「特に気にする必要もないだろ?金なんて気付いたら無くなってるものだよ」
ビリィさん男前!
ただ、それが王族の言葉かと思うとちょっと怖い気もする。
買い物とかどしてたんだろうか?やっぱり王宮に御用達の人が来て全部フルオーダーとか・・・、あれ?そういえば。
「そういえば水着は買ったのか?」
迎えに行った時、荷物もなくプラプラと串肉食ってたな。
なんだ?急に渋い顔になったぞ?
「私のサイズに合う、穴の空いたのがなかったんだよ」
あな?穴ってなんだ?
「三件ほど見て回ったんだが・・・、サイズが合うのはあったんだが、穴がないと痛いからなぁ」
痛い?
「あぁ、フーカに合うサイズのはあったから買っといたぞ」
「なぁあ⁉︎なんで貴女が私のサイズを知っているんですか!」
「そんなの見たら分かるだろ?」
これは女子トークというヤツなんだろうか?
会話に入って行っていいものか分からん。
「貴女に裸を見られた覚えはありませんが⁉︎」
「裸なんて見なくても分かるだろ」
ビリィはポケットから布包を取り出し、フーカに放った。
ポケットサイズなのか・・・小さいな。
アレ?そうなると俺も水着買わないとダメなんだろうか?
「買うのでしたら、自分で選んで買います!」
放られた布包を掴みながらフーカが言った。
まぁ、子供じゃなし普通はそうだよなぁ。
「いや、買わないだろ?絶対」
何を根拠にそんな、とも思ったがフーカが黙った。
何か色々と考えているようだが、返す言葉が見つからない様に見える。
チラチラと手に持った布包に視線を落とし、フーカがビリィを睨んだ。
「変な物じゃないでしょうね?」
「変?・・・あぁ、あの王族御用達の珍奇な奴か?あんなのはこの辺では売ってないだろ」
珍奇って何⁉︎スゴい気になるんだが⁉︎
「す、すみません少々取り乱しました。とりあえず後で確認してみます」
そう言ってフーカが軽く頭を下げた。
「ん、きっと気にいると思う」
ふむ、よく分からんが綺麗に収まった。のかな?
「さて、今後の事はまた後で考えるとして、腹が減ったな。メシにしよう」
ベッドから降り、とりあえず金貨と宝石は収納にしまっておく。
「はい、そうですね。食事の用意は出来ているはずですし、ダイニングルームに行きましょう」
今なんて?
ダイニングとかリビングとか聞きはするが意味がよく分かんないんだよな。
俺用に充てられた寝室から出て、テーブルやらソファやらが並ぶ部屋に入る。
ここはリビングになるのか?
フーカには個別に三部屋と頼んだのだが、どうも俺の部屋は一段上のものにしたかったらしく、そうするとビリィと同じランクの部屋にするのも気が引けて・・・、となるとそれぞれの部屋が離れてしまう。それでは色々と支障が出る為、こうした寝室が二つに居間が二つある部屋にしたのだそうな。
それはまぁいいんだが、このリビングというが無駄に広いわテカテカキラキラしてるわで妙に落ち着かない。やはり無駄に広いがまだこじんまりとした寝室で相談していた訳だ。
リビングを横切り、隣の部屋に入る。
そこには丸くデカいテーブルにこれでもかと料理が乗せられ、いい匂いを放っていた。
椅子は四脚置かれていて、いつの間かマオがその一つに座っていた。
「おいっ」
マジお前いつから出て来てた。
足をパタパタと振り、キラキラとした目で料理を眺めてる姿が幼女にしか見えなくて妙にムカつく。
「心配せんでもバレる様な真似はせん故、安心せい」
これ以上になく不安だよ。
・・・はぁ、もうしょうがねぇな。椅子に座り料理を眺める。
透き通ってキレイなスープに肉汁滴る骨付き肉、ハンバーグっぽい肉、鳥の足っぽい骨付き肉・・・。
肉多いな。
それに焼き立てっぽい、いい匂いのするパン。
中央には見覚えのある果物と見覚えのない果物がこれでもかとカゴに盛られてる。
圧倒的に野菜が足りなくないか?
まぁ仕方ない。今は腹が減った。
「いただにまぁ・・・す?」
美味しそうないい匂い。
いい匂いなんだが・・・何かこう頭の奥がチリチリする。
「みんなちょっと待て。食うのやめろ」
立ち上がり、両手を広げて制止した。
パンに手を伸ばしているフーカが俺を見る。
スープをすくったスプーンを口に当てたまま、マオが止まる。
鳥の骨付き肉に噛り付き、そのまま食ってるビリィ。
「おい」
ビリィ⁉︎
「大丈夫、変なの入ってるのスープだけだから」
ぶふっとマオが噴き出した。
料理にかけない様に横を向いたのは偉いと思う。
っていうかビリィさんや、そういう事は気付いた時に言えや。
「え?なに?ちょっと飲んじゃったんじゃけど、儂死ぬの⁉︎」
え?お前って毒で死んだりするの?鎧じゃねぇの?
「眠り薬だから死なないと思うけど・・・、マオって薬が効くのか気になって」
お前、それはさすがに酷いよ。
「あっ儂、鎧じゃったわ。少なくとも毒薬は効かんな」
今、俺はお前の食ったものがどうなってるのか猛烈に気になってるよ。
いや、特にこいつに関しては気にしたら負けだな。スルーでいこう。
「とりあえずビリィ。気になるのは分かるが、そういう事はちゃんと言おうな」
両方の意味で。
「主人殿の扱いが酷い気がするんじゃが⁉︎」
自業自得だ。
「確かに少し変わった匂いがする気もしますが・・・、どうして分かったんですか?」
フーカが尋ね、誰もが料理から手を引いている中、ビリィ一人だけ黙々と肉を食い続けてる。
「私はこれでも王族だからね。毒に対する警戒心は人一倍強いんだよ」
肉のキレイに取り除かれた骨を、片手にふりふりしながら言うビリィ。
行儀悪いぞ王族。
っていうか、毒が入ってない自信があっても、毒入り料理と一緒に並んでる物を食ってるお前は凄いと思うよ。
俺も食うけどさ。
「と、のたまいたい所なんだが、ビリィになってから異常に鼻が効く様になったんだ」
森で気配が捉えにくくなった他にもあったんだな。より犬化してると思えばいいのかな?
「それで、眠り薬って言ったか?それに間違いはないか?」
確かにスープの匂いから何か嫌な感じがするな。
「これはスルークって花の身から取れる汁を煮詰めた上に何か混ぜ物をした物だよ。スルークの煮汁自体は普通に薬として使うものだから手に入れるのは難しくないと思うけど・・・、混ざってるのはピラスカの血かな?さすがに匂いだけじゃ分からないな」
「どちらも特徴のある匂いのするものではないのに・・・」
フーカが呆れてる。
つか、唯一の野菜分だったのに食えないとか腹立つな。
「何が凄いと言うなら、知識もなく気付いたジンが凄いと思うけどね」
しかし、誰が何の為に?
今、この部屋を伺っている奴はいないが・・・。あっ、そうだ。
膝を張り両手を胸の前で合わせて、手の平に魔力を込める。
手と手の間に溜まった魔力に万知さんが魔法式を刻み、球体となって膨らみ手を押しのける。
「ジン、それなんだ?」
「実験中の新魔法」
握り拳ほどまで大きくなり、固くなれば完成だ。
これを両手に力を込め、潰す。
音もなく、パチンと弾けた感触だけが手に残った。
「お?」
「い、今何が⁉︎」
「なんじゃ?魔力がうるさいぞ?」
反応は三者三様。
一番反応が薄いのはビリィか。フーカは何かが起こったのは分かったみたいだが、何があったかまでは分からない様だ。マオは顔をしかめてまとわりつく何かを手を持って払ってる。
「室内でやると分かる奴には分かるか。要調整だな」
「ジン様、今のは?」
「今のは固めた魔力を弾いて散らし、乱反射させる事によって周囲に魔法が隠されてないか調べる魔法だ」
これは王城に軟禁されてた時にあまりに暇で、万知さんに何か新しい魔法でも考えないか?と相談された事から考え出した魔法だ。
最終的には誰にも気付かれず、どんな魔法が設置してあるのか瞬時に判別できる様になるのが目標なんだが・・・。
今はまだデータも検証も足りず完成には程遠いらしい。ただ難しい分、万知さんはやりがいを感じてる様だった。
要は提案だけして、後は丸投げしてるだけなんだがな。
「随分とまた面白い魔法を考えるものじゃのう。それで何か分かったかぇ?」
「何も仕掛けられてない事が分かったよ」
「収穫なしかぇ」
「いや、そんな事はない。睡眠薬なんて仕掛けるなら、仕掛けた奴はそれをちゃんと食ったか、はたまたバレたか気になるのハズだ。それを監視もしてないとなるなら、急遽そうしなければならない何かがあったと見るべきだろう」
順当に考えるなら理由はあの金しかないだろうが・・・、それにしては早すぎる。
「ビリィ、これを仕掛けた奴を匂いで見つけたり出来るか?」
「無理だな。元々そんな匂いの強いものじゃないし、水で洗われたらもう辿れない。現物を持ち歩いてもいない限り不可能だよ」
そっちから探るのは無理か。
「理由はやはりお金でしょうか?ですが、ジン様は収納にしまわれていたはずですから、ここの方には知りようもないですよね?」
「偶然狙われたっするにはタイミングが良すぎるから、賭けの元締め・・・便利屋は興行師って言ってたか。そいつの差し金と見るのが妥当なんだが・・・。ビリィ、ここに来るまでに後をつけられたりしたかな?」
「ない」
断言できるとはスゴいな。
「それでどうするのじゃ主人殿。見えない敵と闇雲に戦うよりなら、とっととこの都市から出た方が賢明と思うがのぅ」
ニヤニヤと笑いながら言うなや。ムカつくな。
「今、尻尾巻いて逃げても追われる未来しか見えんな。それにせっかくゆっくりと休めると思った所を邪魔されたのにも腹が立つ」
「では、どうするんじゃ?」
「罠を張って相手の出方を見るのも手だろう。薬を入れた奴を見つけて辿っていくのもアリだが・・・。ここは打って出ようと思う」
「当てはあるのか?」
どことなく楽しそうな声音で聞いて来るビリィ。見ればフーカもウキウキしている様に見える。
揃いも揃って戦闘狂ばっかりか⁉︎
「賭けの金が目当てならもう一人狙われる奴がいる。そいつを探す」
「そんな簡単に探せるのですか?」
それはもっともな疑問だが。
「熊人族の町で、たった一人の熊人の気配を探すのは結構骨が折れるんだが・・・、そいつはその中でも少し変わった気配をしてるから、多分すぐ見つかる」
一応また世話になるかも知れないと気配は覚えておいていたんだが、こんな形で探す事になるとは思ってなかった。
「ジンの探知能力は規格外過ぎるな。追われる奴が気の毒になるよ」
そんな楽しそうに言われると、そっちの方が怖いんだが。
「さ、今は腹拵えだ。食ったら行動開始するぞ」
「はいっ」
「しょうがないのぅ」
「ごちそうさまでした」
早いよ。




