便利屋
ふむ。
前方に美味そうな串肉を焼く屋台を確認。
食いたい。
そして俺の手にある金は魔核のみ。
フーカは国境都市なので魔核も使えるみたいな事をは言ってたが・・・屋台でも使えるんだろうか?
・・・いや、待て?違うな。
必要な分だけ換金して使えばいい的な感じに言ってたんだな。
換金・・・換金。換金ってどこでするんだ??
その辺の適当な店で換金・・・とか出来るんかな?
欲しくもないものを買いたくもないし、手軽に換金出来る所は無いのか?
うーん。
「兄さんお困りですか?」
ん?
声の方に振り向いた。が、誰も居ない?
「兄さんこっちこっち」
声に誘われて下を向くと、身体よりも大きい四角い箱を背負った小柄な男が居た。
建物とデカい熊人族のせいで自然と上を見る癖が付いてたかもしれない。
「何か用か?」
しかし小さいな140㎝もないんじゃなかろうか。
耳は他の熊人族にも似てるが子供、という感じでもない。
同じ熊でも何種かあるのかな?
「いや、さっきからキョロキョロとしてやしたんで、何かお困りかなぁ?なんて思いやしてね」
不思議だ。
怪しげな喋り口調なのに何故か怪しさを感じない。
小柄だから?子供っぽいから?声のトーンかな?
「御宅さんは何者だい?」
「あっしですかい?あっしはなんでも屋とか呼ばれてるしがない便利屋でさぁ。道案内から人探し、換金から用立てまでコレ次第でなんでもやるのが俺の仕事でさぁ」
コレと言いながら右手の指先を下に向けて擦り合わせる仕草をしている。
どれだ?
「これか?」
魔核を一つ手渡した。
「これは・・・ボアヘッドの魔核ですかい?」
見て分かるのか。
「当たりだ」
「これであっしに何を頼みたいんでして?」
「その辺で使える金に換えられる所を知ってるか?」
「換金ですかい?でしたら、あっしがやりやしょう。いくら程入り用なので?」
「レートは?」
「兄さん若いのにしっかりしてやすねぇ。換金所とは張り合えやせんが量によっちゃあ、それなりのレートでやらせていただきやすよ」
ふむ。
他に当てがあるわけでもなし、普通にやってもいいかな。
収納から魔核三十個程を袋に詰めて引っ張り出し、小男の熊人に渡した。
「頼む」
「今、どこから出しました?」
「企業秘密」
「キギョー?まぁ、いいですが、ちょっと待ってください」
そう言って便利屋は背負っていた四角い箱を降ろし天秤と幾つかの袋を取り出した。
俺の渡した袋から一つ一つ魔核を取り出し、吟味しながら自分の取り出した袋に詰めていく。
手馴れてるな。
「全部ボアヘッドでやすね、これだけの数をよく狩りやしたねぇ。兄さん一人・・・で狩ったって訳でもないんでしょ?いいんですかい?勝手に換金しちゃって」
「まだあるから問題ない」
「兄さん見かけによらず遣り手ですか?」
「さてな」
「えっと、魔核が三十一個ですね。状態もまずまずと、これなら・・・銀貨百二十枚でどうです?」
うむ、価値がさっぱり分からん。日本円にしたら幾らくらいなんだ?
まぁ、相場も分からんから換算しても意味ないか。
とりあえず・・・そこの屋台の串焼き肉(小)が銀貨一枚、串焼き肉(大)が銀貨二枚。
串焼き肉一本千円とするなら、銀貨百二十枚で十二万か。
いや、だから日本円に換算しても分かんねぇって。
「兄さん中々に渋りやすねぇ、分かりやした。もう少し色を付けやしょう。そうすね、あと・・・」
「いや、すまん。それでいい」
正直、腹の探り合いとか足元を見るってのはあまり好きじゃない。それに吹っかけられたとしても、それは俺が下準備もせず情報もなしに換金しようとした俺が悪いって事だ。
適正なレートの可能性もあるんだし、これでいいだろ。
「え?いいんですかい?」
「それでいい。何か不都合でもあるか?」
「いやぁ、あっしとしちゃ都合がいいと言いやしょうか、なんていいやすか・・・色を付けようってとこで引かれるとは思いやせんでしたんで」
「正直に言うとな、俺は換金所のレートというか、大体の相場も知らないんだよ。だから百二十枚が十二枚でも分からん。けどまぁなんだろうな、せせっこましいのが嫌いなんだよ」
単に面倒くさがりとも言うけどな。
「見かけによらず剛毅ですねぇ兄さん」
手馴れた手つきで背負い袋から銀貨を取り出し、数えてる風もなく、魔核の入ってた袋に詰めていく。
「はい、銀貨百二十枚でやす。確認して下さいな」
ニコリとした笑顔で手渡して来た袋を受け取る。
とてもキチンと数えたとは言い難い入れ方だったが・・・、これは試してるんだろうか?
その笑顔にどんな意味があるか分からんが乗ってやろう。
袋を手で包み隠し、シャランシャランと振る。手に完全に隠れる瞬間を狙って袋ごと銀貨を収納にしまい、すぐさま取り出す。
一瞬、袋が消えたとは見えないはずだ。
中に入っていた銀貨の数は百二十五枚。
小癪な真似を。
「確かに百二十枚受け取った」
袋に手を突っ込んで銀貨五枚を取り出す。
「ありがとさん。これで一杯やってくれ」
ニコリとして便利屋の手に銀貨を握らせた。
「へい、遠慮なくいただきやす」
便利屋は手の中の銀貨を見る事もなく、仕舞った。
何故?とか、どうして?なんて野暮な事は言わない。
この熊人は遊びを理解してる。
「あぁ、そういえば名乗り忘れてましたね。あっしぁグイトっていいやす。よくこの辺をウロついてますから、また何かあったら気軽に声かけてやって下せぇ」
「ジンだ。またなんかあったらな」
後ろ手に手を振り、路地を一つ入ってその場から立ち去る。
いやぁ、面白い奴もいるものだ。
・・・。
あ。
串焼き肉。
遊びに興がのりすぎて路地に入ってしまった。
なんかもう戻るに戻れないし・・・、仕方ない適当に食べ物屋でも探すか・・・。
周囲を見回しても、なにやら人は多いが食べ物の匂いがしない。
どちらかと言うと食欲のそそられない泥臭さというか、血生臭いというか・・・。
元の道に戻った方が早い気がしてきた。
けどもそのまま来た道を戻るのも癪だし、適当に曲がって元の通りを狙って歩くか。
適当に角を曲がり進んだ所で周囲がやたらと熱気に包まれているのに気付いた。
歩く人歩く人が妙に興奮してる。
この先に何かあるのか?
耳をそばだてれば、周囲の雑音の他に妙な騒ぎが聞こえる。
祭り?
少し気になるな。
十字路に着いた。
ここを左に曲がればたぶん元の道、右に曲がれば騒ぎの方へ。
ふむ。
小腹は減ってるし串焼き肉も食いたいが、どうしても、という訳でもない。
なんの騒ぎなのか見てからでも別にいいか。
人の流れに沿って右に曲がる。
さらに一つ道を折れた所で徐々に騒ぎ声が大きくなり、二つ折れた所で歓声が聞こえた。
道が終わり、辿り着いた騒ぎの場所には人の壁が波のように唸っていた。
歓声を上げる奴、絶叫してる奴、腕を組みジッと何かを見てる奴、殴り合いの喧嘩をしてる奴もいた。
なんだ?ここは。中央で何かしてるみたいだが、デカい熊人が壁になって何も見えん。
「兄ちゃん兄ちゃん、そっからじゃなんも見えねぇだろ。あっち行って台に乗せてもらいな」
台?
話しかけて来たデカい熊人が指差した先には、確かに階段状になっている台らしき物が見える。
立ち見の観覧席っぽくはあるが、すでに人がひしめいていて入る余地がある様には見えない。
っというかだ。
「ここは何の祭りをしてる場所なんだ?」
「何だ、兄ちゃんここが何なのかも知らずに来ちまったのか。ここは闘技場だよ。まぁ、何もないときゃただのだだっ広い空き地だがな」
闘技?
「台がダメならあっちの棒に登りな、賭けてぇならそこらの箱背負ってる連中に声掛けりゃいい」
棒?
指差した先を振り向けば、確かに棒が乱立してる。
棒の先には人がしがみついたり、棒に足を絡ませて器用に立っていたり、思い思いの体勢で観覧してるようだ。
棒て。
まぁ、ごちゃごちゃになってる台よりはマシか。
「ありがとさん」
教えてくれた熊人の手に銀貨を一枚差し込んで、棒の林に向けて歩く。
棒の間隔はバラバラ、地面に突き刺してその上に登ってるみたいだが・・・よく倒れないな。
棒を使って観覧してるのは、さっき見た便利屋みたいな小柄な熊人族と、あれは猫人か?
棒の上に片足でしゃがみ、尻尾を絡ませて器用にバランスを取ってる。
しかし誰も彼も棒の上を苦にしてる様子もなく、時折立ち上がりエキサイトしてる。
これだけでも見世物として面白い。
さて、出来るかどうかは別にしてもやってみたい。
見た感じ空いてる棒はなさそうだが・・・これ、どこかで借りるのかな?
「兄さん兄さん」
おや?聞き覚えのある声だ。
振り向いて下を見ると便利屋の熊人が居た。名前は・・・グイトだったか?
「さっきぶりか?何でここに?」
「あっしの仕事は便利屋ですぜ?お祭りごとに迷子は付き物でさぁ。道案内を頼まれる事もありやすって。それより兄さんはここの賭け試合が本命だったんですかい?換金してから賭場に入るとか、兄さん中々に通ですねぇ」
カッコつけたが為に串肉を食い損ねただけとは言い難い、変な誤解を生んでる。
「いやいや、散歩してたら騒がしかったんで寄ってみただけなんだが・・・、ここは賭場なのか?」
そういえば、さっきのデカい熊人か賭けがどうとか言ってたな。
「へい、熊人格闘技グランカランの野良試合はそのまま賭場になるのが通例でさぁ。ここの興行師はあまりいい話は聞きやせんが・・・まぁ素人さんや冒険者さんにゃ手は出さんでしょう」
この世界、全体的に物騒な気がする。
「グランカランってのは何だ?」
「へい、グランカランは腕力自慢の熊人族が拳を武器に魔獣を叩きのめしたのが始まりでして、拳と脚のみを使った戦闘術でさぁ。今では色んな流派が起ち上がってやして、あちこちで優劣を競ってるんでさぁ」
ふむ、面白そうだ。
「ところで、あの棒はどこで貸してる?」
「棒ですかい?棒は・・・ほらあそこの小屋で借りれるんですが、兄さん使えるんですかい?」
「まぁ、なんとかなるだろ」
「一度でも倒したら没収ですし、借り賃も返って来やせんが、自信があるならいいと思いやすよ」
棒を借りるのに金取られるのか、座席料みたいなものなんだろうけど、ちょっとだけ納得いかん。
「それで、賭けはどこでするんだ?」
「その辺にあっしみたいな箱を背負ってるヤツがいるでしょう?あいつらは請け師って言いやして、賭けの受付から払い戻しまでやってるんでさ」
ふむ、なんか不思議なシステムだ。
「倍率とかあるのか?」
「ありますよ。戦績やら人気やらを考慮して組み合わせの時に決められていやす。後は勝敗以外にも倒す時間にも賭けられやすよ」
気が向いたらやってみるか。
「分かった、ありがとう。助かったよ」
銀貨五枚を取り出し、グイトの手の上に置いた。
「へい、ありがとうございやす」
銀貨を手にニコリと笑うグイト。言葉と動きはおっさんを思わせる感じなんだが、ニコリと笑う姿に妙に和む。これは小動物を見るのに似た何かなんだろうか?
それじゃ早速、棒をもらいに行くか。




