国境都市
街が見えた?
魔法具というゴミを処理した礼に、大きな街の近くまで送ってやろうという鷹王の申し出を快く受け取り、空の旅を満喫した所までは良かったのだが・・・。
ここはどこだ?
マトモな道を完全に無視した上、移動方法までも逸脱してしまったので、どの位進んだのかが全く分からなくなってしまった。
ビリィとフーカが言うには少なくとも、ここはもう犬狼族の国ではないらしい。
そしてそもそも、これは本当に街なのか。
遠くに見えるソレは平地に不自然にそびえ立つ丘だ。一面草が生い茂げった急勾配の斜面。草が生えてるし普通に登れそうに見える。アレも城壁の類だろうか?
そして草のない道っぽい帯がぽっかりと空いた丘の穴に繋がり、穴の前には人が立っている様に見える。門番だろうか?丘の中には人の様な気配がたくさん居る様だし、街は街なんだろう。
そもそも土地勘もない俺はともかく、こんな珍奇な都市があるならビリィなりフーカなり知ってそうなものだが、二人とも知らないという。
「まぁ、見てても仕方ない、とりあえず行くか」
俺の言葉にビリィとフーカが首を縦に振った。
折角、鷹王が送ってくれたお陰でまだ陽の高いうちに街まで着いたんだ。
前と違って金目の物もある訳だし、ゆっくり風呂に浸かってふかふかのベッドで寝たい。
とりあえず丘に向けて草原を歩く。
人はまばらだがちらほらと見える。
徒歩で移動してる連中は皆、冒険者だろうか?剣なり杖なり大きな荷物なりを持って複数人で行動してる他、時折馬車が駆けて行き穴の中に入って行く。
なんとも不思議な光景だ。というか、未だに慣れない。
車どころか舗装された道路も、電柱もないのは分かっているが、少し前まで当たり前にあった物を全く見なくなるというのは、どうしても不思議な感じがする。
徐々に丘に近付くにつれ、異様さが目立って来た。
遠目に見ては分からなかったが、かなりデカい。
多分、基準として見ていた門番が桁違いにデカいのが、目の錯覚を生んだ一番の要因だろう。
どう見ても二メートルは軽く超える身長にプロレスラーか関取かという程に肉が付いている。
そして頭からはぴょっこりと可愛い耳が覗いていた。
「あれは熊人ですね」
フーカがポツリと呟いた。
「ゆうじん・・・熊か」
「思い出しました。地をそのまませり上げた様な城壁を持ち、出入り口は大きな洞窟の様、攻めるに硬く、守るに易い要塞都市。あれは熊人族の誇る国境都市、エディハラガです」
「エディ・・・ハラガ」
名前を覚えられる気がしない。
「エディハラガか、とすると父は随分と慌てる事になるだろうな。いや、父ばかりではないな。スルムナで待ち構えていただろうイルムナ国の連中などはいつまでも来ない客を延々待ち続ける事になる」
何の話だ?
「ジン様、イルムナ国はティルニススと隣接する国、スルムナはその国境付近の一番の大きな都市です。私達の目的地であるイラルカヤ国へ行くにはまず通らなければいけない都市でもあるのです」
疑問が顔に出ていたかな?聞く前にフーカが教えてくれたが・・・。
「つまりは都市を一つすっ飛ばして来たと?」
「二つ半だな。スルムナを経由するルートならエディハラガを通る必要はないからな」
「といいますか、普通であれば一週間以上は掛かる道程を二日で来てしまった訳ですから、予測する方が無理でしょう」
「だな。王樹の森を抜けて、しかも鷹王に送ってもらうなど笑い話にも思わないだろうな」
うーむ、なにやら酷い言われような気がする。
「まぁ色々とすっ飛ばして来たのは分かったが、何で俺がそのイルムナに迎えられんだ?」
なんだ?二人が顔を見合わせてる。
「都合良く迎えるとしたら、どんな手を使ってくるでしょうね?」
「アレじゃないか?盗賊に襲われてる馬車に『偶然』居合わせて、助けたら『偶然』にも乗っていた人物が王女とかで、『どうかお礼をさせて下さい』とか言って城に連れ込んで囲い込むとかじゃないか?」
それなんて美人局だ?
「今時そんな古典的な真似はしないでしょう。やるとするなら、イルムナの第二王女は妙齢であったはずですし・・・」
お前らの言う妙齢って幾つだよ。
「そうですね。街角で待ち伏せて偶然を装ってぶつかる。なんていうのはどうでしょう?」
それで、はうー遅刻遅刻、とか言いながらパン咥えてたら完璧だな。
「それは中々に面白いな。それで持ってる荷物とかひっくり返して悲壮感を漂わせていたら、思わず手を差し伸べてしまいそうだ」
それ、どんな王女だ?
「そして、仲良くなった所で実は王女です。と儚げに言うのですね」
「それは大体の馬鹿な男は落とせそうだなぁ」
仲良いなお前ら。
ん?なんだよ。何故そんな悲しげに俺を見る。
「でもジンが相手じゃなぁ」
「そうですね。ジン様相手では、まずぶつかる所から難しそうです」
「お前ら俺をなんだと思ってんだ?」
「農民?」
「英雄?」
そこは食い違うんだな。
「おい」
ん?
声の方を見れば・・・。
「おぉぉ、デカいなぁ」
見上げた大分先に顔があった。
いつの間にか入り口の所まで来ていたらしい。
「お前が小さいんだ」
「あんたらの基準じゃそうかもな」
しかし、デカいな。背の高さもそうだが、肉厚が酷い。腕なんかビリィのケツくらいありそうだ。
「お前ら冒険者か?それにしちゃ荷物がないな」
シャツの中に仕舞ってある銀のプレートを取り出して見せる。
「荷物は」
説明しようと口を開いた所でトン、とフーカの肩が軽く触れた。
「荷物は道中、不意に魔獣に襲われてしまいまして、投げ捨てて来てしまいました」
フーカ?
「その割に汚れてもないし、悲壮感もないな」
「荷物は大したものはありませんでしたし、それ以上の収穫もありましたから」
「ほう?見せてもらっても構わないかな?」
フーカの顔を見る。
じっと俺の顔を見ていた。
焦る様子もなく、何か言いたげでもない。
そして自然な様子のまま、ゆっくりと頭を下げた。
どういう意味だ?
荷物は収納に入ってる。じゃダメだったんだろうな。同じように魔法で隠してるとかもダメ。
つまりこれは入国管理みたいなもんか?収納みたいに中身を証明出来ない物はマズいと考える所か。
となると、ポケットサイズで高価な物を出せという事かな。
とすると・・・。
ポケットに手を突っ込み、そこから取り出すフリをして収納から小ぶりな魔石を二個、適当に引っ張り出した。
「これでいいか?」
「それは、魔石⁉︎どこで見つけた?」
「言うと思うか?」
すぐにポケットにしまう。
俺の勝手なイメージだが、冒険者というヤツがおいそれと容易く金になりそうな情報を漏らすとは思えない。回答としてはこれが一番正しいと思うが・・・。そもそも入手方法が突飛すぎて説明も出来ないが。
「それもそうだな。魔石を拾うとは余程、運がいいと見える」
「それには同感だな」
色んな意味で。
「時間を取らせたな。入っていいぞ」
「おう、ありがとさん」
焦ったー。
何事もなかった風に穴・・・洞窟、いやトンネルか。に入る。
ふむ。トンネル内に明かりはなく、緩くカーブになっていて入り口からは奥が見えないようになっているから、視界が一瞬暗闇に持っていかれる。
しかも、暗さに慣れた頃にはカーブを抜け、今度は出口の明かりに視界を取られる。
そしてトンネルの中にも関わらず感じる視線。トンネルの壁の向こうから感じる人の気配。
フーカが要塞と言っていたが、少し納得出来た。
この三十メートル程のトンネルの中に仕掛けが盛りだくさんだ。
怪しいと思われたらそれこそ、文字通りの袋のネズミにされる気がする。
怖や怖や。
ゆっくりと歩き、外の明るさに目を馴染ませ、街の中に入る。
真っ先に目に映ったのは赤茶けた世界だった。
赤茶けた地面には草の一本もなく、地面がそのまませり出して形作った様な、地面と同じ赤茶色の建物。角のない丸みを帯びた建物は上へ上へと高く伸び上がる様に建っている。
犬狼の国の森城も驚いたが、これもまた劣らず凄い。
だけれども、慣れないと赤い色が目に痛い。
「申し訳ありませんでした」
振り向けばフーカか頭を下げていた。
なんかあったっけか?
「ジン様の収納魔法は現代におきましては未だに到達し得ない未知の魔法。その事を失念しておりました」
あぁ、その事か。忘れてたわ。
「頭を上げろフーカ。一番ぼんやりとしていたのは俺だ。それを機転をきかせて回避したのはお前の腕だ。誇れよお前はいい従者だ」
「あ、ありがとうございます」
「ま、とりあえずここに突っ立ってたら往来の邪魔になる。歩きながら話そうか」
「はい」
とりあえず、大きな道を選んで足を進める。
外からじゃ分からなかったが随分と賑やかだ。デカい熊人が多くて視界が狭いのは難点だが、それ以上に気になるものが沢山ある。なんて楽しそうな街だ。心が踊る。
「とりあえず、換金かな?フーカ、魔核とウサギの換金を頼んでもいいか?」
「それなのですがジン様」
「どうした?」
「この国の通貨に全て換金してしまいますと、国から国を旅する上で色々と不都合が生じます」
あー、為替相場ってヤツかな?
「ここは国境都市ですので周辺国の通貨は普通に使えますが、これより内に入りますと使えない都市も増えますから」
「それで?」
「国から国を渡り歩く商人や冒険者は、価値の変動し難い貴金属や魔核、魔石にして持ち歩く事が多いのです」
貴金属や魔核?
「ってすると、無理に魔核を全部換金する必要はない?」
「はい」
なるほど。必要不可欠なものだからこそ、換算しやすい価値ある物って事なのかな?
「それじゃウサギの皮と角の換金と、宿の手配を頼もうか。あと魔核も渡して置くから必要に応じて好きに使え」
収納から皮と角、小さめの袋に小分けに移した魔核を取り出して渡す。
「宿のグレードはどうしましょう?」
「飯が美味そうな所で頼む。後ちゃんと部屋は三部屋取ってな」
「承知しました。それで待ち合わせはどうしましょう?」
「あぁ、日暮れ頃になったら俺の方で勝手に見つける。ビリィはどうする?」
「私は買い物に行きたい」
付いてくるかと思ったが、何か急ぎで欲しい物でもあるんかな?
ビリィにも小分けにした魔核の袋を渡しておく。
「何か入り用か?」
「私には水着を買うという使命がある」
「そうか・・・」
最早何も言うまい。
「ジン様はどうされるのですか?」
「その辺を散策してる」
「分かりました。お気を付けて」
「おぅ、お前もな。それじゃ解散!」
フーカとビリィを見送った後、適当に歩く。
はー、ようやくの念願叶って異世界の街の探索だ。
うほぅ、心が踊るぜ!




