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遺物

 おにぎりが食い尽くされ、鍋が汁だけになった頃、大軍の気配を感じた。


 おかしい。


 五合近いおにぎりがあった筈だが・・・一度に四人で五合って食えるものなのか?

 ビリィが一番食ってるのは分かるが、ひょっこり顔を出すマオも地味に食う。


 金に困っても飯には困らせたくない身としては、今後の飯計画は少し考えなきゃいかんかもしれん。


 それは後でまた考えるとして、今は鷹王か。

 大軍を引き連れて来たのはどういう訳か。フーカの心配が当たったのなら、ちと面倒だ。


 食後の白湯(さゆ)を一口含む。

 白湯も嫌いじゃないんだが、やはり食後は茶が飲みたい。

 失敗したな・・・。茶っ葉もあったんだから分けて貰えばよかった。


「ジン様」


「ん、分かってる」


 明るかった空が一瞬にして暗くなった。

 夥(おびただ)しい鳶の大群が空を埋め尽くしている。その一羽一羽が足に何か持って飛んでる。

 敵意や害意といったものは感じないが・・・なんだ?


 上空を旋回している鳶が一羽、また一羽とゆっくり降りてくる。

 その中、一際大きな鳶が滑る様に目の前に降って来た。


 鷹王だ。

 鷹王も何か大きな塊を足に持っている。

 それを俺らの目の前に置き、その横に鷹王が立った。


「待タセタナ」


「待ってはないが・・・、それはなんだ?」


 丸い土の塊に見える。魔法が掛かっている様に見えるが・・・。

 そうしている間にも鳶が次々と土の塊を置いて、再び空へと戻っていく。


 攻撃する気がないのは分かったが・・・なんなんだ?


「見テオレ」


 鷹王はそう言うと、土っぽい塊をクチバシで突いた。


 ゴスッと音がしたかと思うと、土の塊はパラパラと崩れ・・・。


 ガシャ


 なにやら金属の様な物が見えた。


「これは?」


 艶のある金属。被さった土を払い、引っ張り出したみたそれは鎧だった。

 作られたばかりの様に傷どころか汚れもなく、白銀に光り輝いてる。


「ソレハ森二侵入シテ来タ人間ドモガ、残シテ行ッタ物ヨ。何ヲ思イ森ニ入ッタハ知ラヌガ、死シテ尚(ゆえ)、呪イノ如(ごと)ク朽(く)チル事ナク有リ続ケル不滅ノ塵(ゴミ)。放ッテ置イテハ害ヲナス故(ゆえ)、集メテ封ジテイタ物ダ」


 なるほど。

 放っておいても錆びず壊れない魔法の装備。人以外に使えないなら確かにゴミだ。

 しかも周囲の魔力を吸い、鎧の修復と強化を延々とし続ける仕組みみたいだ。これなら呪いと呼ばれても仕方ない。


「マダ沢山アル。好キナダケ持ッテ行クガヨイ」


 ゆっくりと旋回しながら降りてくる鳶が、次々と置いていくのでそこら中に土塊の山が出来ている。

 って、これ全部か⁉︎ とんでもない数だな。


「フーカ」


「はい、なんでしょう」


「これは価値のあるものなのか?」


「あると言えばあり、ないと言えばない。そんな感じでしょうか」


「どういう意味だ?」


「魔法の鎧と言うものはその人の身体のみに合う様に作られたオーダーメイドの物ですので、他の人が着られる物ではありません。そして移譲する為には、所持者のみが知るパスコードが必要になります。所持者がパスコードを使い、所持者変更の契約をして、初めて他者が着られる様になるのです」


「なるほど」


 よく分からんが、このままじゃゴミだってのはよく分かった。


 しかし永久に自己修復し続ける鎧なんて便利ではあるが、はた迷惑な代物だ。

 ん? なんだ万知さん。


 ん?鎧の首の後ろ?

 あぁ、なんか宝石みたいなのが嵌(はま)ってるね。それが?


 服でいうなら後ろ襟の少し下だろうか?内側にポッコリと丸くて青い石が嵌め込まれている。

 その石を触るとパキリと音がした。


 この音は万知さんが物に魔法式を刻んだ時の音?


 手を離すと青い石の周りに魔法式が刻まれていた。

 刻まれた魔法式はフォンと音を鳴らして淡く光り、そして・・・。


 青い石がポロっ取れた。


 これはまた綺麗な石だね。力を感じるけどこれ何?

 魔石?

 魔核を集めて?凝縮した物が魔石。とな。


 鎧から取れた魔石を手に見ていたら、残った鎧が急にポロポロと崩れて砂の様になった。

 え?核にしていた魔石がなくなると、その鎧は死ぬ?

 死ぬと粉々になるのか・・・、よく分かんないけど、そういう事は先に言ってね。ビックリするから。


「じ、ジン様。魔法具の解体法をご存知だったのですか?」


「ん?あぁ知ってたみたいだな」


 なんでそんな驚いてるんだ?


「魔法具の解体法はその時代時代において違い、また秘匿(ひとく)され続けてきたが為(ため)に、もはや現代において使える者は一握りしか居ないとされる幻の法です。

 ・・・流石、ジン様です」


 フーカさんが目をキラキラとさせて見つめてきてる。

 すっげぇ恥ずかしい。人の手柄を横取りした気分だ。万知さんあんたとっても凄いってさ。


 えへん!じゃねぇよ!


「それでフーカ。この魔石に価値はあるのか?」


「非常に高価です。その時代や製作者などにもよりますが、高名な方の物でしたらそれこそ天井知らずでしょう」


「それ・・・戦争になったりする?」


「神話級の聖遺物でもない限り、そこまでの事にはならないかと。魔石は高価ですが現代でも各所で作られておりますので、珍しい物ではありません。

 ですが・・・」


「うん。これだけの数になると、とんでもない額になるか?」


「はい、国が買えるレベルですね」


 違う意味で戦争になるな。

 そもそもこんな大量にはいらないんだが・・・。


「解体法ヲ知ッテイルトハ、素晴ラシイ。手間デナケレバ全テ解体シテクレルカ」


 そんなに要らないから持って帰って、とも言い難い。

 俺の捨てた物じゃなくても、人が置いてった物だし、しかも迷惑を掛けてるときてる。


「仕方ない。使い道は後で考えるとして、取り敢えずみんな解体するか」


「ジーンー、これ、貰ってもいーいー?」


「ん?」


 好き勝手に土塊を開けて見ていたウチのワンコが、何か気に入った物を見つけたらしい。


 その手にしてるのは・・・指輪か?

 宝飾品とは意外だな。


「別にいいが・・・使えるのか?」


「ちょっと見てて」


 そう言ってビリィが指輪を右手の中指に嵌めた。

 そして・・・⁉︎


 指輪が形を変え、一振りの短剣に成った。なんか見た事のある感じだな。


「魔王の鎧と似たやつか?」


「この中にも何かいるみたい。我が名はティルムナ・アガトレム・アガトレア。だって」


 ⁉︎

 何?万知さんうるさいよ⁉︎

 え?何?知り合い?違う?うっさいなちょっと黙れ!


「ジン様」


「なんだ?」


「神です」


「何?」


 声震えてるぞ。


「神代に名を連ねる・・・力と戦争を司る神の名です。まさか・・・本物でしょうか?」


 それ聖遺物とかじゃなく、本物の神かもしれないって事か?


 っておい、短剣がまだ変形を続けてるが⁉︎


「おい、なんだ?ヤメろ!」


 短剣がデカく歪(いびつ)に変形を続けてる。鎌とも剣とも見えない・・・槍か?


「ヤメろって言ってんだろ!」


 止めに行くべきかと迷っていた所で、ビリィが手に持っている歪な、ビリィの身の丈よりも倍以上に大きくなった武器っぽい物を大きく振り上げ、近くにあった岩めがけて振り下ろした。


 一瞬音が消えた。


 岩が粉々に砕ける・・・、かと思った歪な大剣は岩のほんの少し手前でチリチリと火花を散らし止まっている。

 ビリィは歪な大剣を両手に持ち、岩に押し付け・・・、再び振り上げて岩に振り下ろした。


「うるさい!黙れ!」


 歪な大剣が岩に振り下ろされる度に音が消し飛び、岩の手前に火花を散る。


 なぁ、万知さん。あれは何が起こってるんだ?


 主導権争い?なんの?


 身体の?それヤバくないのか?

 ・・・随分と余裕だな万知さん。何か知ってる?何を知ってる?


「うるさい!私の言う方が聞けないというのなら、お前なんかいらん!」


 ビリィの中でどんな争いが繰り広げられていたのか。

 ビリィはさらに倍の大きさにまで膨れ上がった巨大な鉄塊を振り回し、勢いを付けて岩めがけて振り下ろした。


 ガシャッ


 ガラスが砕け散る様な音。さもなくば、空間が割れた様な音だろうか。


 巨大に膨れ上がった鉄塊はビリィの手元辺りでポッキリと折れ、鉄塊そのものは風に舞う塵のように散って消えた。


「ジン、これいらないから潰して」


 指から指輪を引き抜き、俺に向けて投げた。


 うわぁ、取りたくねぇ。


 しかし、こんな危なそうな物を放置も出来ない。

 取り敢えず飛んで来た指輪を掴んだ。


 幅の広い白銀に輝く指輪。表面から裏まで細かい文字がビッシリと書き込まれ、裏側に小さな透明に輝く黄色い石が埋め込まれてる。


(おい!あの娘はなんなのだ!)


「お⁉︎」


(お、とはなんだ馬鹿め。妾(めかけ)が馬鹿なら主はもっと馬鹿だな)


 なんだこいつ?


(だが貴様も強い力を持っているようだな。良い許してやる。さあ、我に力を捧げ、身を委ねよ。さすれば世界を統(す)べる王にしてやろう)


 確かにこれはいらない。

 万知さんの知り合いでしょ?なんとかして。


(我の問いに沈黙で返すとは愚物め。貴様の様な愚者にその力は過分(かぶん)。我が有効に使ってやろう。ありがたく思え)


 さっきから言ってる事変わってねぇよ。これが神だってんならロクでもねぇな。

 ん?指輪から何かが入ってきた。


(くはははは。見窄(みすぼ)らしい成りの割に、良い力を持っておるではないか。くははは、それこそ我が身体に相応しい。余すところなく使ってやろう光栄に思え!)


 いや、うるせぇよ入ってくんな。

 指先を伝い、手に腕にと何かが入って来る。気持ち悪⁉︎

 腕に力を込めて、指輪に戻しこむイメージで・・・おら!出てけ‼︎


 ちょっと戻せた。それと同時に指輪がぶくりと膨(ふく)れた。

 ビリィがやってたのはこれか。


 ちょっとやり方がよく分からなかったがコツが分かればなんとか・・・。


 ん?


(なっ⁉︎き、貴様!なんてものを内に飼っておる⁉︎)


 飼ってねぇよ!

 たぶん。


(あ、あっ、や、ヤメろ!我を誰と思っている。この世の全てを・・・、クソッおのれ!このアーガレスの亡霊がぁぁ・・・)


 反応がなくなった。

 指輪を見れば、黄色かった石が白っぽい透明な物に変わっていた。


 万知さん、さっきの奴は何よ?アーガレスの亡霊って何よ?

 あん?指輪はちゃんと使える?そんなんはどうでもいいから質問に答えな。


 ・・・。


 無視か。

 別に万知さんが何者でもいいけどよ、後でちゃんと教えろよ。

 ったく、仕方のねぇヤツだ。


「ビリィ」


 指輪を投げ返す。


「偉そうな奴はいなくなった。後は好きにすればいい」


 ビリィは指輪を受け取ると、何度か確かめるように指輪を見て、右手の薬指に嵌めた。


「ホントだ。うるさいのがいなくなってる」


 右手を振り上げ、振り降ろすと右手には短剣が握られていた。

 再び振り上げると、短剣は大きな斧になっていた。

 ビリィは大きな斧をそのまま両手で振りかぶり、岩に向けて振り下ろした。


 ズガン


 と腹に響く音と共に、岩が真っ二つに割れていた。


「ジンありがとう。大事に使うよ」


 指輪に戻ったその手をこっちに向けて、にこやかな笑顔を見せるビリィ。

 大事にするなら岩で試し斬りとかしないで欲しい。


「スマヌナ。アノ様ナ物ガ混ジッテイルトハ思ワナカッタ。シカシ、オヌシノ連レハ、随分ト剛毅ダナ。惚レ惚レスル」


 剛毅・・・なのか?アレは。

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