↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/114

水浴び

「ナルホド、ソウデアッタカ」


 すっかり目眩から回復した鷹王が目を細め、遠くを見つめている。


 生物のリズムというものは基本的には複雑だ。

 その日の体調や気分によっても変わるし、天気や気温、朝か昼か夜かによっても微妙に変化していく。

 だが何かをしようとした際、精度や練度を求めて一定のリズムを作り上げるというのはよくある話だ。


 そして完成度を高めていった為に単調になってしまうというのもまた、よくある話だ。


 鷹王の場合はその典型だろう。


 なら、そのリズムを崩せばいいのか。

 となると、またそれも違う。


 一度出来上がってしまった、身に染み付いてしまったリズムを変えるというのは生半(なまなか)な事ではない。無理に変えようとすれば元のリズムまでも狂ってしまう事になるからだ。


「要はリズムの一番最初さえ読まれなければ、相手はそれに対応出来なくなる。後はリズムを同じままにテンポだけ変えればいい」


 リズムには必ず始まりと終わりがある。

 始まりさえ掴んでしまえば後はテンポを合わせるだけで終わりまで行動を読まれてしまうが、リズムを読もうとしている相手に始まりのリズムを外させると、今度は逆に終わりまで後手に回らせられる。


「簡単に言えば、せーのっ、か、いっせーのっ、か、いっせーのーせっ、の三つくらいパターンを用意して、予備動作に気をつければいい」


 鷹王が目を閉じ、ゆっくりと頷いた。


「烏王ヲ何度追イ詰メテモ、仕留メル二至ラナカッタ理由ガ、漸(ようや)ク分カッタ」


 俺の知ってる鳶は烏(からす)によく追われているが、こっちの世界じゃ逆なんだろうか。

 ま、言うのは簡単だが、分かっていてもやるのは結構難しい。本人は納得してるしヒント位にはなったろうからそれでいいか。


「ソウイエバ、名ヲ聞イテイナカッタ。名ヲ教エテモラエルカ?」


「ジンだ」


「ジン、カ、良キ名ダ」


 目を細めてコクコクと頷いてる。

 なんかちょっと表情が読めるようになってきた気がするな。


「強キ者ジン、ヨ。ヌシニ教ワッタ話ノ代償ガ、泉ト通行ノ権利ダケデハ、余リニ安イ。ソレデハ王ノ沽券ニ関ワル」


「別に気にしなくていいんだぞ?何かが欲しくてした訳でもないんだから」


 言ってしまえば、これは俺の酔狂でしかないからな。


「ソウモユカン。トハイエ鷹デアル我ニ、人ノ望ム物ハ分カラヌ。ダガ、少シバカリ心当タリガアル。少々待ッテイテ貰エヌカナ」


 しかし聞き取りづらい。


「いいよ、待ってよう」


「アリガトウ」


 鷹王は大きく羽ばたくと瞬(またた)く間に空高く飛び上がり、森へと消えて行った。、


「よろしかったのですか?」


 飛んで行った鷹王を目で追っている俺の横でフーカが言った。


「何がだ?」


「弱点を教えて差し上げた事もそうですが、契約も結ばずに解放した事が、です」


「契約?」


「約束を守ると見せかけて、軍勢を率いて攻撃してくるかもしれません。隷属(れいぞく)させてしまえば良かったのではないかと・・・」


 なるほど、考えてなかったな。確かに俺のした事は甘いんだろうが、そういうのもしたくない。


 いかんな、これじゃただの我儘(わがまま)だ。


「そうだな。そこまで考えられなかったのは俺のミスか・・・。でも、次からはそうする。とも言えんなぁ」


「主人の嫌な事をこなすのも従者の役目です。一言命じて下されば」


「俺が出来ない事ならともかく、俺も出来るのにお前だけに嫌な仕事を押し付ける様な真似はしねぇよ。そういう事を二度と言うな」


「はい」


「とはいえ、俺の甘さが危険を招く可能性がある事もよく分かった。肝に銘じておくよ」


「ありがとうございます」


「礼を言うなら俺の方だろう。ありがとよ」


「あ、いえ、そんな」


 しどろもどろになったフーカの頭を撫でてやる。俺なんかの従者すると大変だな。


「さ、少し遅くなったが昼飯にしよう」


 収納から鍋と朴葉に包んだおにぎりを出す。


「じゃ、先に食っててくれ」


「ジン様は?」


「俺か?俺は水浴びしてから食うわ」


 いい加減、泥だらけから解放されたい。


「では、お背中をお流しします」


 なに⁉︎


「いらん」


「ジン、水浴びするの?じゃ、一緒に浴びる!」


「やめて」


 急に犬っぽいテンションになるのホントやめて。


「それでは一緒にお食事をされるという約束を守れません」


「五分で終わる。っていうか、それなら少し待ってろよ」


「ジン!私と水浴びするのが嫌だっていうのか!」


「嫌だよ⁉︎」


「私はジンと水浴びがしたい!」


「やかましい!」


 ティルフスの方の人格はどこ行った!まぁ元の性格がどんなだったのよく知らんけども、でも流石にこんなんではなかったと思う。


「ジン様」


「なんだ?」


「犬狼族の一部の種族では若い男女で一緒に水浴びをして親睦を深めるという風習があります。ティルフス様がおっしゃっているのはそういう事ではないかと」


 なん・・・だと?


「裸でか?」


「水着着用です」


 だよな、よかった。


「ビリィ、お前水着持ってきてるのか?」


「いや?持ってないよ」


「じゃダメだろ」


 よかった。


「いや、前々から思ってたんだけどもな」


「なんだよ」


「水着と下着って同じじゃないか?」


「ちげぇよ!」


「違います!」


 言いたい事は分かるが、お前はそれ言っちゃダメだよ。


「じゃ私にどうしろというのだ!」


「水着買えばいいんじゃないか?」


「むぅ」


 睨んでもダメ。

 今回は諦めろ。


「んじゃ、俺はさっと泥を落としてくるから、先に食ってるなり待ってるなり好きにするように」


「はーい」


「はい」


 はぁ、どっと疲れた。


 しかし、こんな所の水浴びに一緒に来て、本当にどうするつもりなんだろう。


 鷹王との戦闘に巻き込まれた結果、水の湧き出る小さな川だった場所は水溜りの点在する泥だらけの地に様変(さまが)わりしている。


 綺麗な水がある所は湧き出している岩の付近だけ、しかもかなり冷たい。本当に浴びるだけしか出来ないのだが・・・。


 手早く衣服を脱ぎ捨て、泥を洗い流し泥だらけになった衣服も手早く洗う。


 うほぅ、冷てー。


 俺の衣服はこれ一着しかないので、本当なら洗ってしまうと大変なのだが、俺には収納がある。


 この収納、どういう原理か不明なのだが、それぞれの部屋ごとに自由に時間の流れを設定できるようになっている。

 完全に停止させる事は無理だったが、限りなく遅したり、逆に早く進める事も出来た。先ほど出した鍋もおにぎりも昨日作ったものだがまだ暖かいままだ。


 そしてこの収納に入れる際、入れる物をバラバラに収めたり、一緒にして出す事もできる。

 コップに水を入れて取り出す事が出来るのも同じ理屈だ。


 この機能を利用すると、洗ったばかりのビチャビチャの服も一度収納に入れるだけで、水と服に分離。簡単に乾いた服を取り出せる。

 しかも身体のどこからでも仕舞えるし、取り出せるので、身体に付いた水滴も収納にしまえば拭く必要もなく、着るという行動をしなくても、その形に取り出せば一瞬で服を着る事も出来る。


 本当に俺、人間やめてるな。


 ビリィとフーカの所に戻るとビリィは既に食べていた。中身のなくなった朴葉の包みが二つ既に足元に落とし、三つ目のおにぎりを頬張っている。


 食うのホント早いな。


「見てたけど、どうやったんだ?凄い早かったけど」


 見てるなよ。


「ま、色々だよ。フーカも先に食べてて良かったんだぞ?」


「いえ、一緒に食事をされるという約束でしたし、頑(かたく)なに守ろうと思います」


 それは嫌がらせかな?


「さ、あいつらが戻ってくる前に食おうか」


「はい」


 鍋を腕によそい、追加のおにぎりを出す。

 おにぎりは足りそうだが、鍋が空になりそうだ。


 今晩はどうなるかな・・・。町まで行けるかまた野宿か。

 っていうか現在地がよくわからん。後で鷹王に聞くか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。