米
右を向けば森、左を向けば山。前はややひらけた道があるばかり。
街道とは名ばかりの道に馬車の走った後と思しき車輪の後と馬の蹄の後が延々と伸びてる。
なんか思ってたのと違う。
もっとこう、田園風景とか農村とか点在してるのを想像してたんだが、ケモ耳達の都市を出てから森と山しか見てない。
キンパイさんの歯を諦めてから二時間ほどになるか、都市を出てからずっと走りっぱなしだが・・・。
いや、森と山の風景も嫌いじゃないんだが、さすがに飽きてきた。
しかし、かなり速いペースで走ってると思うのだが、一向に息が上がる気がしないこの身体が怖い。
俺のこの身体は、この世界の普通の身体能力からどの位ズレてるんだろうか?
隣を走るビリィも同じ感じに走ってるが、コイツも俺と同じくこの世界から逸脱してるはずなので参考にならない。
となると・・・と。
やや後ろ。少し遅れながらも付いてきているフーカを見た。
息も絶え絶えに、滝のような汗を掻きながらも根を上げる気配がない。
こいつも標準に据えてはいけない気がする。
さすがに限界は近いだろう。もしかしたら既に超えているかもしれないが。
走る速度を落とし、足を止めた。
「次の街までまだ結構あるぞ?」
足を止めたのが不満だったのか、まだ走り足りないのか、ビリィがそんな事を言う。
「私も、まだ・・・行けます」
肩で息をしているフーカが息も絶え絶えに言う。
とりあえず収納から水を満たしたコップを取り出し、飲み干した。
「次の街まで後どの位よ?」
「今のペースで走れば、後二時間程でしょうか」
息を整えながらフーカが答えた。
半分は走ったのか。
飲み干して空になったコップに再び水を満たし、フーカに差し出した。
「まぁ、飲め」
フーカも水筒を持ってるはずだが、もう空になってるはずだ。
フーカは少し迷った後、
「頂きます」
と、コップを受け取り、一息に飲んだ。
こいつの性格上、俺が飲んだ後でなきゃ飲まない気がしたが・・・正解だったかな?
「今日はここらで野営するか」
「いえ、まだ走れます。街まで行った方が」
「落ち着け、街まで行ったところで先立つ物がないんだ。ここら一回メシ食ってから金策の手を考えよう」
まぁ、先立つ物がないのは俺だけだが。
「ビリィ、野営は危険か?」
「街道沿いなら問題ないかな」
「じゃ、この辺に金になりそうな魔物チックなのはいるか?」
「山の中に入れば、掃いて捨てるほど」
・・・。
思ったよりデンジャーだな異世界。
未開拓地が想像より多いのかもしれない。
「じゃ、決定だ。腹も減ったしメシにしよう」
よし、メシだ。待ちに待ったコメだ。ついにコメが食えるかと思うと・・・、なんか涙が出そうだ。
道の右側、岩がいくつか見えている所に歩く。
腰ぐらいの手頃な石がゴロゴロとある。鍋とか置くのに丁度良さそうだ。ここでいいかな?
「この辺でいいか?」
「いいんじゃないか?」
「よし、それじゃメシを作るか。ビリィ、薪拾ってきて」
「はいはーい」
「ジン様」
ビリィが軽快な様子で森の中に入っていく中、フーカがそばに立ちこっちを見てた。
「どうかした・・・あぁ、すまん。フーカの荷物は俺が持ってたな」
汗で汚れたまま、というのは年頃の娘には堪えるだろう。
フーカの荷物を収納から取り出し、渡すのと一緒に濡らした手拭いと桶も渡した。
「あ、ありがとうごさいます。いや、そうではなくて」
「ん?洗濯したいなら水を張った大きな桶もだすぞ?」
「い、いえ、そうではなくて、お食事の用意であるなら、指示していただければ私が作ります」
ん?
「いや、今日は俺が作る。いいから着替えてこい」
「・・・はい」
今の間はなんだろうか?
まぁいいや、米だ米。
まず籾と器を取り出し、籾を揉む。
籾摺りなんてのは普通素手では出来ないのだが、今の俺は普通ではないので可能だ。
よく揉み、籾が外れたのを確認したら器に入れ、また次の籾を揉む。
何合炊くかな・・・。フーカが言うにはあまり犬狼族の好みには合わないって話だったが・・・まぁ、余ったら全部俺が食えばいいか。
とりあえず五合くらいやろう。
器に籾殻と玄米が溜まったら、息を吹きかけながらかき混ぜる。
こうして混ざってる籾殻だけを飛ばして玄米だけに・・・、とはなかなかならない。
唐箕があれば楽なんだがなぁ・・・。まぁ、多少なら残ってても洗った時に取れるだろ。
さて、問題はここからだ。
玄米も好きだが、やはり最初は白い米が食いたい。
だが、精米作業というのは機械がなければ非常に時間と手間が掛かる。
昔は一升瓶に玄米を入れて棒で突いたり、臼に入れて棒で突いたりしてたんだが・・・、このやり方だと丸一日はやらないと七分づきにもならない。
米が食えると分かってから精米機のないここで、どうやって精米するか考えていた。その中で一つ、妙案を思い付いてある。
機械による精米ってのは簡単に言えば網に玄米を擦り付けて表面を削ってるだけ、つまりは網もしくはそれに近い物を用意してガリガリ擦ればいいのだ。
そして、俺は網の様な物を作る力がある。
へいかもーん魔王鎧。さぁ、変形するんだ。
円筒形で、外周部を網にして、底は鉄板で・・・蓋も欲しいな。
・・・よし。出来た。愛してる。
「おい主人殿や」
「ようマオ。なんか久しぶりだな」
俺の足と手首に付いてるのに久しぶりはおかしいかな?姿を見るのは本当に久しぶりな気がするしいいか。
「儂はこれでも鎧なんじゃがなぁ」
「おぅ、多機能な鎧を持って俺は幸せだよ」
出来上がった円筒に玄米を入れて、右手の小手をスクリュー状に変形させて突っ込み、その上から蓋をする。
「ちょっと待て」
「え?」
回転!
ずがががががががががごがごがががががが
おおおおお、網目から糠が出てくる成功だ!
「待てというておろうが!」
小手を変形させながら回転させるのが少し難しいが出来ない事はない。
「聞けぃ!」
「なんだどうした?今忙しいんだが・・・」
蓋を取って玄米を確認してみる。
思ったより精米が進んでたか、七分位か?少し熱を持ってるがいい具合だろう。
「主人殿や、儂は鎧として鎧らしく使われる事を所望するぞ」
「却下だ」
「なんじゃと!」
糠が散ってしまったな・・・糠を集めて糠床も作りたいが・・・、米一俵からとれる糠なんてたかがしれてる。次から糠も集める機構を考えるにしても、糠漬けが食える様になるのはしばらく先だなぁ。
「マオ、一言言っておくぞ」
次は洗米だ。米を鍋に移して水を注ぎ、砥ぐ。
「俺が米を食うのを邪魔するヤツは全て敵だ」
「なっ!」
米を押し込むように丁寧に洗い、水を捨てる。
ふむ、もう一回かな?
「何が主人殿をそうまでさせるのじゃ、米とはそれ程の物かや?」
「まぁ、俺にとってはそうだ。っていうかなマオ」
「なんじゃ?」
洗い終えた米に水を張る。
水の量は・・・こんなものか。底の丸い鍋だから分かりづらいが、大丈夫だろ。
「姿形が変わろうが、どれほど力を持とうが、俺は農家のジジィだ、それはどこまでいっても変わらん」
鍋に蓋をして岩の上に置く。
そんでもって岩に魔法式を刻み、魔力を流すだけで熱を持つホットストーンの完成だ。
ゴトゴト
接地面が少ないから安定しないな。削るか。
右手の小手を曲がった剣の形に変えて・・・と、よし。
鍋の底の形に合うように岩を切る。
ん、上手くいった。
「嘆くなら主人にした奴が農民だった己が身を嘆くがいい。悪いとは思うが、俺は俺のやり方でしかやれん」
鍋の底に合わせて切った窪みにセット。よし、あとは米に水を吸わせた後、炊くだけで完成だ。はー楽しみだー。
「随分な言い様じゃのぅ」
「お前が便利すぎるんだから仕方ない」
後ろを振り返りマオを見た。
ゴスロリ幼女が岩に腰掛け、ふくれっ面でこっちを見ていた。
「分かっておるわぇ。じゃが、ただ便利に使われると言うのも面白うない。対価を所望するぞ?」
「酒でいいか?」
まぁ、払えるものなんて酒しかないが。
「酒のぅ。悪くはないが、酒ばかりというのもどうじゃろうなぁ?」
ふむ。足元見て来たかゴスババァ。だが、それは悪手だぞ?
「そうか、酒じゃダメか・・・。まだ色々とあったんだが・・・、残念だ」
「なんじゃと!あの他にもまだ酒を隠してあったか!」
「俺がいつ、一種類しか持ってないと言った」
「ぐぬぬ」
ぐぬぬって言う奴、初めて見たわ。
「前に飲んだアレより美味いのじゃろうな?」
「バカを言うな。どれよりどれが美味いなんてのは、ただの好みだ。俺の持ってる酒は全部美味い」
「何種類あるんじゃ?」
「今になって教えると思うか?」
下手に足元を見ようとしなきゃ教えても良かったのに。
「分かった。じゃが毎回、違う種類の酒を所望するぞ」
「断る。俺は飲みたい酒を飲みたい時に飲む。その相伴にあずかる権利ならやろう」
「ぬぅ、儂の意見を多少で構わんから入れてくれんか?」
「ま、その位ならいいぞ」
見た目幼女と酒の交渉してるってのは不思議な気分だ。
「分かった。それで手を打とう」
「よし、交渉成立だな」
「今日は飲むんじゃろ?」
「場所が場所だから多くは飲まねぇけどな。ちゃんと使った分は飲ませてやるから安心しろ」
「今の言葉、しかと聞いたぞ」
「はいはい。さて、他のおかずも作らねぇとな」
さて、何作るかな・・・。
「のぅ主人殿」
「なんだ?」
「儂もその米というのを食ってみたいんじゃが・・・」
「おぅ食え食え。ちなみに飲ませた酒も元は米だ」
「なんとな?あの小さい粒々がのぅ」
「品種というか、種類が違うがな」
「ふむ、なんとも不思議な話じゃ」
それは俺も思う。麹も酵母も偉大だ。
さて、それよりおかずだ。
肉・・・肉、塩漬け肉・・・ローストビーフとか作れないかな?
ローストビーフったらオーブンか・・・ダッチオーブン・・・。
マオと目が合った。
「なんじゃ、何か良からぬ事を企らんでおらんか?」
「いや、そんな事はないさ」
いや、本当に。




