剣鬼
俺とフーカ、ビリィを囲んで立ち昇る六つの黒い何か。
これは、影か?
立ち昇る黒いソレのその全てに帯状の黒いモノが繋がっている。
地を這う黒い帯を目で追って行くと、一人の男と目があった。
年の頃は二十歳前後といった所だろうか。全身黒尽くめの男だった。
革っぽい黒い服の上から黒い胸当てと黒い手甲を付け、ズボンも黒く、足甲も黒く、腰に巻いているベルトも黒い。
髪も黒く、その髪から覗いている犬耳も黒く、腰に下げた剣の柄も鍔も鞘も黒い。
そして、眼ばかりが印象的なほど赤かった。
「よぅ兄ちゃん、随分可愛いのを二人も連れてるな?どこで見つけたんだ?」
街で見かけた友人に話しかける様な軽い口調。だが、俺を見据える眼は獲物に襲いかかろうと隙を窺う獣そのものに見える。
なんだこいつ?
「ジン様、彼の名はイルクゥラ。次代の剣鬼に一番近いと噂される冒険者です」
剣鬼?なんかまた物騒なのが出たな。
「その剣鬼候補さんが何でまた?」
「その・・・彼は強い事でも有名なのですが、それ以上に有名なのが・・・」
「なんだ?」
「人族嫌い、なのです」
なるほど。
「おいおいコソコソと話してないで、俺とも話してくれよ、なぁ?」
シャン、と金属の立てる綺麗な音と共に剣鬼候補さんが剣を抜いていた。
やっぱり抜き身まで黒いや、どんだけ黒が好きなんだこいつ。
「駆け出し銀か、その資格、どうやって手に入れたんだ?」
駆け出し?
首から下げてる俺の認識表は銀色の長四角い板だ。剣鬼候補さんを見れば首から下がってるプレートが見えた。
楕円形をした金色のプレートだった。
こいつは金級って事か、形の違いで俺を駆け出しだと分かったって事か?
「何も答えないってのは・・・そういうことなのか?」
何が⁉︎
ってか、俺そもそもどうやってコレを手に入れたか知らないんだが。
「すまんが、お前さんが何言ってるのかさっぱり分からんのだが・・・、とりあえずあんた誰よ」
「俺か?俺は金級冒険者のイルクゥラってんだ。つまりは兄ちゃんの先輩になる訳だ。先輩の話しを聞くってのは後輩の正しい姿じゃないかな?」
ヘラヘラと笑い抜き身の剣で自分の肩をトントンと叩く姿は程度の低い半端ヤンキーにしか見えない。
「イルクゥラ?」
名前に反応したのは俺の右斜め後ろに居るビリィだ。顎に手を当て、「どこかで聞いたような・・・」なんて呟いてるが、こいつは放置でいいか。
俺は金級先輩に視線を戻した。
「金級さんだがなんだか知らんが、刃物をチラつかせなきゃ話しも出来ん奴とする話しはないなぁ」
ピリッと空気が震えた。
殺気を滲ませて睨んでくる金級先輩。
けど、緊張した空気を嫌ったのかヘラっと笑う金級先輩。なにしたいんだ?こいつ。
「ははっ言うじゃないか。それで・・・その狐族の子は、芙狐族か?」
「そうだが?」
金級先輩の目が細くなった。
「贄の契約をしたのか?」
あ、不味い。
「いや、してない」
「嘘だな」
あらら、言い切られてしまった。
嘘の匂いでもするんかな?・・・いや、正確には贄の契約をしていたが今は違うってだけで嘘はついてないと思うんだが・・・、何で判断したんだ?
「戦争のドサクサに紛れて、戦闘奴隷捕まえて銀級デビューか?人族って奴は相変わらず汚ねぇな」
あぁ、それが言いたかったのねー。
誤解だと説きたいが、何を言ったところで俺の話なんか聞きそうにないなぁ。
「イル・・・クゥ?イル・・・イル・・・イルラ?いや・・・」
そして右斜め後ろがぶつくさとうるさい。
「なぁ、おい」
金級先輩が剣を突き付けてきた。
「銀級に成れたんだしよ、もういいだろ?そいつら解放しねぇか?」
なんか面倒になってきた。
「女の奴隷に戦わせて高みの見物なんてかっこ悪いだけだろ?今解放していくなら見逃してやるって言ってんだ」
ギルド前で捕まったせいかガラの悪い見物人がゾロゾロと増えてやがる。
つか、何言ってやがんだこいつ。奴隷?戦わせる?高みの見物?何好き放題言って悦に浸ってんだこのバカチンは。
「えいっ」
パァン
こっちに向けた剣を軽く払い、するっと間合いを詰めて頬を張ってやった。
思いの外、いい音がしたな。
「人と話す時は人に刃物を向けてはいけませんってお父さんに教わらなかったか?人の話はちゃんと聞きなさいってお母さんに教えてもらわなかったか?寝言は寝て言えよ小僧」
頬を張られて横を向いていた顔が、ゆっくりとこちらを向いた。
自己満足に浸ってた馬鹿面からさっぱりと表情が抜け良い顔になってる。
なんだちゃんとした顔も出来るんじゃないか。
「てめぇ」
剣を持つ手に力が入ってる。
ん?
影が・・・ざわめいてる?
金級先輩の影が揺れうごめき、八方へと伸びた。
「駄目です!」
と、思ったら金級先輩の背に誰かが張り付いた。
羽交い締めにしようとしているようだが、背が足りないのか手が届いていない。
「イルクゥラさん!言い争いならまだしも、ギルドの前で殺し合いなど許しません!」
金級先輩の腰のあたりから、ひょっこりと小さいのが顔を出した。
あ、兎耳だ。
兎人っ奴かな?
「あなた!ここはわたしが抑えておきますから早く逃げなさい!」
逃げる?
「なんで?」
「な、なんでって・・・あなた今の状況がわかってないのですか⁉︎ この人、今本気で力を使おうとしたんですよ! この人、人族には手加減しないんです。死んじゃいますよ⁉︎」
金級先輩の腰にしがみついてる兎耳と視線が合う様にしゃがんでみた。
子供と言えるほど背が低いが、口調だけを聞けば大人と言えなくもない。
何歳なんだろ?
「いやぁ俺もさぁ、面倒だしさっさと帰りたいんだけどさ、連れを奴隷呼ばわりされて、ハイそうですか、とは帰れんのよお嬢ちゃん」
「誰がお嬢ちゃんですか!私はこう見えても四十です!」
なんだ俺の半分しか生きてねぇじゃねぇか。
「わかったわかった。コレやるから落ち着け」
収納から人参を三本取り出して見せた。
ん?
目が点になってる。
「ばっ馬鹿にするなぁ!」
つかつかと歩み寄り、人参を持った手ごと払われた。
「あ」
赤い人参が空を舞い、地面に落ちてコロコロと転がった。
「あぁ、すまん。人参は嫌いだったか?けど、食べ物を粗末にするのは感心しな」
グシャ
ぐしゃ?
人参の一本が踏み潰されていた。
「おい、ふざけるのもいい加減にしろよテメェ」
金級先輩、いやもうキンパイでいいや。キンパイの足が人参をグリグリと、してる。
ふざけ?る?
「おい、足を退けろ。食い物を粗末にするんじゃねぇ」
「お?なんだ?やんのか?」
ダメだこいつ、言葉が通じてねぇ。
「食い物を!粗末にすんなって言っとんじゃボケェ!」
一足で間合いを詰める。
よし、ちゃんと足が地面に喰いついてる。
キンパイに詰め寄った速度をそのまま、差し込んだ足で勢いを吸収。腰に、背中に、肩にその力を流れる様に移していく。
よし、綺麗に力が腕に乗った。
そしてそのまま拳に乗せた力をキンパイの顔目掛けてぶち込んだ。
ギャィィ
金属が激しくぶつかり合う様な音。
キンパイめ、剣で受けやがった。待て、金属音?
ドゴォ
弾け飛んだキンパイがギルドの壁にぶち当たり、突き抜けていった。
殴った手を見れば黒く鈍い光を放つ小手があった。
いつの間に覆ったんだ。マオめ、余計な真似を。
俺の腕輪と足輪に・・・、今は足輪は靴の代わりに変じてもらってるが、にコンパクトに収まってる魔王鎧、その中に封じ込められている元魔王。通称マオ。元の名前は忘れた。
この鎧、身に付けているのが分からなくなるレベルで、気持ち悪いくらいに馴染むのだが、本体に元魔王が混じってるせいか時折勝手に動く。
あ、影が伸びてきた。
俺の足元まで伸びてきた3本の影が立ち上がり、トゲの様に突き刺してきた。
それを一歩下がって避ける。便利だな、この影。
「死んだぞ!テメェ!」
死んだ?
何言ってんだコイツ。頭打ったかな?




