鎧と魔王
「いや、違う」
即座訂正。
アゴに手を当て、俺をゴスババァを交互に見回すビリィ。
さっきからこんなんばっかり。
「ジンは嘘を付かない」
いや、全く付かないって事はないと思うが、そんな断定した言い方されると怖いな。
「ジン、この森フリは何者だ?」
略すなよ。
「俺の鎧の中身だ」
「中身?」
「今丁度その話をしていた。まぁ座れ」
ビリィはゴスババァを気にしながらも俺の前まで歩き、目の前に正座した。
確かに犬だった時はそんな感じだったけどさ。
それを見たフーカが、ハッとした顔をして、ビリィの横にちょこんと正座した。
なんでだ。
ゴスババァはその様子をニヤニヤしながら見つつ、フーカとは反対側に座った。
突っ込むのが面倒だな。
「こいつは俺が召喚された時に着ていた鎧、魔王鎧の中に封印されてた魔王本人だ。なんで鎧の中に魔王が入っていたかは説明が長くなるので省く。以上。
何か質問は?」
「はいっ!」
ビリィが勢いよく手を挙げた。
いつから挙手制になったのかよくわからんが、尻尾が激しく振られているので良しとしよう。
「ビリィ」
「はい。ジンはいつから中身がコレだって知ってたんだ?」
「公爵の家で部屋を借りた時だ。それまでは何か入ってるとは思ってたが、何が入ってるかまでは知らんかった」
「そうか、ならいい」
胸を張って満足げなワンコ。
あれ?おしまい?
「では、私から質問してもよろしいですか?」
ためらいがちに周囲を見ながらフーカが手を挙げた。
「どうぞ」
「あの、魔王さんはジン様とはどういった関係になるのでしょうか?」
どう?
「鎧?」
「儂の主人じゃの」
「それでは、なんとお呼びしたらいいのしょうか?」
「好きに呼んだらいいんじゃないか?」
「儂はもう魔王ではなし、本名は・・・未だに覚えておる者もおるようだしのぅ。おんしがさっき呼んでたにマオでよいないかの?」
「・・・適当ですね」
「魔王なのは分かった。だが何故、子供なんだ?」
ゴスババァ改め、マオをジッと見ていたビリィが話に入ってきた。まぁ、普通に思うわな。
「くふふふふふふ・・・」
「勇者の趣味という説もあるが詳しくは・・・なんだ?その含み笑い」
気持ち悪ぃな。
「ふははっ!儂がいつまでも子供だと思うなよ!」
マオはそう言うと立ち上がり、スカートの端をつかんで思いっきり剥いだ。
おぃぃ⁉︎
剥いだ服を投げ捨て、出て来たのは裸の子供・・・。
ではなく、尻のラインが見える切れ目の入った長いタイトなスカート、くびれが強調されてるピチピチの腰回り、チチを大きく張り出した谷間を見せつける胸元がバックリ開いた服。それに薄いスカーフを肩に回し、頭の横から捻れた角を生やした派手な女が現れた。
ゴスロリからキャバ嬢にジョブチェンジってどうなんだろう。
しかし、背が高いな。俺よりデカいビリィよりデカい。
いや、ピンヒール履いてるわ。その分を差し引けば俺と同じ位の身長か?
・・・しかし、なんだ。角以外は魔王っぽくないな。
「どうだ?主人殿、儂のバンキュッボンは?」
まぁ、お前の言ってたバンキュッボンがどんななのかは分かった。
けどお前さ、大きくなれる機能付いてたの?
「主人殿が再構成されてこの世界に戻された時、儂も一緒に再構成され、新たな力を得たのじゃ!」
はぁ⁉︎
兄ちゃん何してくれてんの⁉︎
「見よ!」
大気を切り裂くような気合いと共に、キャバ服が鎧に変化した。
「まだまだ!」
キャバ鎧がさらに変化し、全身鎧へと変わった。
その鎧、なんか見覚えあるな。
もしかして、俺が着てた奴と同じ物か?
「どうじゃ!」
どうって。
「もしかして、俺から切り離れられる?」
「完全には無理じゃ。主人殿からしか魔力供給を受けられんでの」
そっか、残念。
「ふぅ、本体なしでは疲れるのぅ」
カチャカチャと小さい音を立てて鎧がキャバ服に戻っていく。
まぁ確かに便利だ。それはそれでいい。ただ、さっきのキャバ服といい、安定化された以上の何かを感じる。
「お前、もしかして神兄ちゃんと会った?」
「会うたよ」
隠す気無しか!
いや、待て、だという事は?
「お前、神兄ちゃんに何か願ったか?」
「それは・・・言えんの」
何願ったんだよ⁉︎
「・・・まぁいい」
よくはないんだが。
「お前に聞いておきたい事もいくつかあるんだ」
「なんじゃ?儂のスリーサイズなら夜にでも」
「お前よ、鎧じゃなく一人の人間、この場合は魔族か?それに戻りたくはないのか?」
マオが黙った。ずっと笑ってたから真顔ってのは初めて見るな。
「さて・・・な。考えた事がないではないが、儂の一族はもう滅んでおると聞いとる。そんな中で儂一人が自由になった所でのう。それに、儂は世界を混乱に陥れた魔王じゃて、世に出たとて生きる場所もないわぇ」
そうか。
「鎧のままでいいのか?」
「むしろ、鎧として世間と触れておるくらいが丁度ええんじゃよ」
ま、三百年も封印されてた上に色々とあったしな。考える所もあるんだろうな。
「ま、お前の好きにしたらいい。召喚で一緒になった縁だしな」
「感謝するよ主人殿」
そう言ってニコリと微笑んだ。
憂いを含んだ、色々な感情を飲み込んだ笑み。そんな感じだ。
黙ってりゃいい女だなぁ。いや、いい鎧か?
「さて、儂はここらでお暇しようかの、用があったら呼ぶがよい」
そう言うと、マオの身体がゴスロリの子供へと戻り、消えていった。
子供に戻るんだな。基本は子供のままなんだろうか?
ふと、二人が俺を見ているのに気付いた。なんか不思議そうに見てるが・・・なんだ?
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
姫犬ビリィが歯切れが悪い言い方するのは珍しい気がする。
「あ、はい、なんでもないです」
フーカまでなんなんだ?
「あ、そうだジン。入学への許可を貰ってきたぞ」
ビリィが思い出したように言った。
さっきも言ってたが、いくらなんでも早くない?いや、そんな簡単なものなのか?俺の立場。
「それで父がジンと話したいと言っているのだが、会ってくれないか?」
父?
あ、ああ!父って国王か‼︎そうか、すっかり忘れてた。こいつ一国の姫なんだった・・・。
俺、こいつを完全に自分の犬扱いしてるんだが・・・、さすがにマズいだろうか。
「ビリィ」
「なんだ?」
「お前、お父さんにはビリィの事は言ってあるのか?」
「あぁ、言ってあるよ」
言ってんのか。
「信じてるかどうかは怪しいけどな。まぁ大した問題じゃないんだろう」
大した問題だと思うんだが?
「なんでだ?」
「まぁ所詮は女だ、王にはなれないからな。それに娘も沢山いるし、一人二人が居なくなったって気にしやしないよ」
「沢山って兄弟何人いるんだ?」
「兄が五人、姉が三人、弟が・・・四人?に、妹が六人かな?」
え?何人⁉︎
「ティルフス様、先月に弟様が増えておりますよ」
「あぁ、そういえばそうだったかもな。城に帰ってないから忘れてたよ」
多過ぎねぇ⁉︎
え?犬なの?多産なの⁇
「あ、本当の兄弟と言うなら兄が一人だな」
「そうか」
よかった。
そうなると奥さんが沢山いるって事だな。それならありえる兄弟数か。
・・・。
いや、あれこれ考えても仕方ないか。会ってから考えよ。
「今から会うか?」
「今から?」
国王ってそんなひょいひょい会えるもんなのか?
「嫌なら明日でもいいぞ」
「いや、待たせるのは悪いだろう?都合がいいなら今会おう」
「都合?ジンは英雄だろ?都合なんてものは父に合わさせたらいいじゃないか」
こいつの中での英雄の立ち位置がよく分からん。
フーカを見たら難しい顔で首を傾げていた。全くの暴論という訳ではないのか・・・?
よく分からんから任せるか。
「分かった。それじゃ今会うよ」
「分かった。すぐに呼んでくる」
呼ぶのか⁉︎
いや、今の話の流れなら出向くというのは違うのか。まぁそもそも俺は今軟禁状態だし、むしろほいほい出ちゃいけないって意味では正しいのかな?
考えている間にビリィが来た時と同じ様に、慌ただしく出て行った。
「それでは私も所用が出来ましたので失礼致します」
フーカが正座のまま頭を下げ、立ち上がろうとしたその姿のまま、倒れた。
「フーカ⁉︎」
お前、もしかして・・・。
「ジン様、無様な私をお笑いください」
倒れたまま涙を流すフーカ。
いや、足が痺れただけで泣く事ないだろ。
「足が痺れたなら言えばいいのに。無理して正座しなくても」
「うう、駄犬に出来て私に出来ない事など・・・」
張り合うなよ。
しかし、足が痺れて動けなくなったヤツって、どうしてこう突きたくなるんだろうな。
つんつん
「あひゃぁ!じ、ジン様⁉︎」
「あぁ、すまん。つい、な」
面白そうだったもので。
「た、戯れはお許しください」
「あぁ、それはそれとしてフーカ。ビリィの従者として学校に行けるのは一人だけらしいが、お前はどうやって学校行くんだ?」
「じ、ジン様。私は族長の娘です。小さいながら所領もありますし、私も一応貴族なのです」
あぁ、そう言われればそうか。
多種族からなる巨大同盟なんだから、単純な爵位だけじゃ括れないか。
「私の父も来ておりますので、私も話しを通しておかなければなりませんね・・・」
どことなく表情が暗いな。
「フーカのお父さんにも会った方がいいか?」
「いえ!大丈夫です!」
すんごい大丈夫じゃなさそうなんだが。
足をさすり、確かめる様にしながらフーカが立ち上がった。
恥ずかしそうに顔を赤らめながら、俺に向かって頭を下げた。
「恥ずかしいえ所をお見せしました。失礼致します」
そう言うと背を向けて、そそくさと出て行った。
ビリィしろフーカにしろ、どっちも騒がしいな。
まぁ、面白くていいんだが。
さて、これからビリィの父親が来るのか。
国王ねぇ。
・・・。
どう構えたらいいのかも分かんねぇや。
ま、なるようになるだろ。




