願い
七話連続投稿
七話目
設定、失敗してた。
「がはっごふっごふっご・・・」
あれ?
苦しくないな。頭も・・・、痛くない。
えっと・・・。
あ、ビリィ!あいつなんで⁉︎
「陣三郎さん。お疲れ様でしたね」
兄ちゃん⁉︎
するってっと・・・アレ?ここどこだ?
あれ?竹林が見えるし、川もある。畳にちゃぶ台、座布団もあるが・・・、なんで屋根と壁がない?
「随分とまぁ・・・さっぱりしたなぁ・・・兄ちゃん」
何があったんだ?なんか兄ちゃん嬉しそうだし。
「えぇまぁ。中々にいいものを見せていただきました」
??
どう見ても吹っ飛ばされた感があるんだが・・・。
「まぁ、そんな事より陣三郎さん、一杯いかがですか?」
「お?おぅ」
ちゃぶ台の上には昔に俺が酒屋から貰った通い徳利と、鼠志野の汲出茶碗が置かれてた。
まさかその中につるしを入れてねぇだろうな?
兄ちゃんがデカい通い徳利から茶碗に酒を注いだ。
トコトコトコトコ
いい音だ。
この音を聞くと酒が旨くなる気がするから不思議だ。
「どうぞ」
「おぅ」
茶碗を手に持ち、香りを嗅ぐ。
ん?あれ、発泡してる?
少し濁ってるし、これって・・・。
空気と一緒にずずっと吸い、口の中で回し、飲み込んだ。
「あぁ、うまい‼︎おりがらみの生酒かぁ」
あぁ、また酒が飲めるとは思わなかったなぁ。
これはあのニジマスモドキにも合うだろうなぁ。これを姫犬に飲ませたらなんて反応するかねぇ。
姫犬?
「どうしました?」
どうしたもこうしたもねぇよ。
「なぁ、兄ちゃん」
「なんですか?」
聞きたい事がいっばいある。聞きたい事がありすぎて何から聞いていいか分からん。
が、最初に聞くべきはやっぱりあれだろうな。
「目が見えなくなってたし、耳もおかしくなってたと思うが・・・ビリィが来た。ビリィは今何してる?
・・・いや、違うな。アレは本当にビリィか?
いや・・・そうじゃない、そうビリィはどうやって俺の所まで来たんだ?」
そうだ、アレは俺の犬で間違いない。聞き違いもしてない。絶対にアレは俺のビリィだった。
「ビリィさんは、陣三郎さんの願い通りこの部屋にお連れしました・・・、と言いたい所なんですが」
なんだよ。
「あの方は陣三郎さんを追って、自分でここに辿り着いてしまいました」
「それは凄い事なのか?」
「凄いというか、想像の埒外ですね。普通、願った所でたどり着ける様な場所ではありませんから。いやはや驚きましたよ」
ウチの犬凄ぇな。
「それで陣三郎さんにもしたおもてなしをしたのですが、陣三郎さんを助けに行くと言いまして」
助けに行くって。
「閉じてしまった異世界への空間を無理やりにこじ開けてしまいました」
こじ開ける?そんな事、出来んの⁉︎
兄ちゃんが人差し指を上に向けて、クルクルと回して見せた。
「その余波で家が吹き飛んだしまいました。あっはっはっはっは」
あっはっはって。
兄ちゃんは笑うと自分の所にも置いてある茶碗に酒を注ぎ、ぐいっと煽った。
「想いの強さとは力になる、という事は知っているつもりでしたが・・・、つもりでしかありませんでしたね。ここまで成せるとは考えてもみませんでした」
どのくらい凄いのかよく分からんが・・・よほどだったんだろうな。
「それであいつはどうなったんだ?」
姫犬がビリィになってた?のか?よく分からん。
それに本来なら俺も死んでる訳だし、俺の今の状態もよく分からん。
「それなんですが・・・、あの犬耳の方とビリィさんは同じ魂を持っていると言いましょうか・・・」
なんだって?
「魂の双子、と言いましょうか・・・。これも完全に予想外だったのですが、ビリィさんの魂が犬耳の方と同化してしまいました」
同化?
「するってっと何か?犬耳とビリィがくっ付いて、一人の人になっちゃったと?」
「そうなりますね」
なんじゃそりゃ⁉︎
「ってなると・・・ビリィの魂は?」
「前の陣三郎さんと同じ、あちらで肉体を得てしまったので、もうこちらには戻れません」
「俺は・・・どうなったんだ?」
「陣三郎さんは器である肉体が崩壊しかけていた所でしたから、強引に連れて来てしまいました。本当はその時にビリィさんの魂のも連れてくるつもりだったのですが・・・予定外に予定外が重なってしまい、そのせいで余分な物も付いて来てしまいましたが・・・そこは仕方ないですね」
余分?
・・・。
もしかして、万知さんいる?
いるの⁉︎なんで⁇
あ、いやいい、今解説されても俺の頭がパンクする。
「どうしますか?」
「なにが?」
「今なら陣三郎さんはこちらの世界に戻れます。余分な方も輪廻の輪に入れば無害な物になるでしょう」
今のお前は有害だってよ、万知さん。まぁ、異物感は半端ないがな。
それはさておき、答えは決まってる。けどなぁ・・・。
「あっちに行くよ。俺を追って異世界にまで来たあいつを置いとけねぇからな。けど・・・俺、死にかけてるんだよなぁ」
行ってもすぐに死ぬけど、まぁ・・・仕方ないか。
「分かりました」
最後にもう一杯、飲んどくか。
トコトコトコ
いい音。
グビッ
あぁ、美味いなぁ。
「それでは、陣三郎さんの身体を再構成します」
なぬ?
「そのまま、戻っても数秒後には死んでしまうだけですからね。そんな状態で送りはしませんよ」
なんか嬉しそうだな兄ちゃん。
「もしも・・・もしももう一度!陣三郎さんに干渉出来る時が来た時の為に‼︎色々と準備しておいたのです」
お、おぅ。
「神の身でありながら、手の平から掻っ攫われるなど、なんたる屈辱!・・・なんという無力感を味わったか・・・。分かりますか⁉︎」
分かった、分かったから落ち着け神。
「私は陣三郎さんと魔法陣を調べた時の情報をそのまま持ち帰り、再構成する事で陣三郎さんの状態をより正確に把握しようと試みました。これを見てください」
兄ちゃんがどこからともなく、ばさりとデカい紙を出した。
しかし、どこから出してるだ?それ。
うん、覚えてる。
重なり合う二つの三角にそれぞれの頂点にある丸、そしてそれを囲む大きい丸。
でもなんで四枚あるんだ?
図は同じだけど文はみんな違うな。
「あの魔法陣、実は4層構造だったのです。これを作った人はかなり慎重で臆病で疑り深かったのでしょうね。表面の魔法陣で読み取れる意味と、2、3、4層を足して解読した意味では大分変わるように作られていました。神経質なまでに繊細で緻密な魔法陣でしたよ」
「これ、全部解読したのか?」
「ええ、多少時間は掛かりましたが、私に時間はあまり関係ありませんから」
具体的な時間は聞かない方がいい気がする。時間は関係ないとか言う神の言葉だ。きっと人の尺じゃない。
三ヶ月とか・・・、もしかしたら半年とか掛かってるかも・・・。
「三十年程です。文字の解読から入りましたからちょっと余計に時間が掛かってしまいました。あっはっはっは」
三十年て・・・、今お前、心を読んだ?
「あっはっはっはっは」
読めるんだな。まぁいいや、神なんだろうしその位出来てもおかしくはないわな。
「そしてこれが今、崩壊しかけている身体を安定化させる魔法陣です」
またどこからともなくデカい紙を出して広げてみせた。
ふむ、何が書いてあるのかは分かるが、何がどうなってるのかはよく分からん。ただ、コレはアレだな。
「あぁ、すまん兄ちゃん。俺にゃもう聖杯が入ってないから多分、コレじゃ身体を保てな」
「ふふふ、問題ありません。そんな事もあろうかと代わりとなる物も作ってあります」
作ってあんの⁉︎なんで!
「陣三郎さんの状況が全く分かりませんでしたからね。想定出来る可能性のある事態、その全て対処出来るように準備してありますよ」
ここに戻ってこれる可能性なんてほぼなかっただろうに凄えな。ありがたいよ。
「神にも意地がありますからね」
思った事に返答するのやめて。
「ちなみに・・・」
「ちなみに?」
「向こうの世界で不自由しないように色々と能力を足す事も出来ますよ?」
「いや、現時点で足りるどころか余ってるんだが・・・、足すってどんなの足せるんだ?」
「そうですね、性転換から神まででしょうか?」
「幅があきらかにおかしくないか⁉︎」
「まぁ、現時点で陣三郎さんの3%くらい神ですから、割合の問題ですね」
「あぁ、そういえばそんな話もあったねぇ」
「そういえば、陣三郎さんはあちらに残って何がしたいですか?」
「農家」
「即答ですか、陣三郎さんらしいと言えばらしいですが・・・、最強剣士とか・・・無敵の魔法使いとかになりたいとかはないんですか?」
「ないな」
カケラも。
「醸造職人や鍛治職人などは?」
ぐっ、それはないとは言えん。
「まぁ、そんな技術までは用意してないので、神格化のレベルを少し上げておきますね」
「そんな、お薬少し多めに出しておきますね、みたいに言うなよ」
・・・。
少しの沈黙。
神兄ちゃんの顔が、笑顔からピシリと引き締まった。
「陣三郎さん」
「なんだ?」
「本当にお疲れ様でした。色々な奇跡が重なった事もありますが、陣三郎さんがここに戻って来る事が出来たのは、偏に陣三郎さんの努力の賜物でしょう」
「馬鹿言うなよ。ただ単に運が良かっただけだろ」
「運を引き寄せるのも、また人の力ですよ」
ふむ。
「そんなもんか?」
「ええ、そんなものです」
そっか。
茶碗に残ってた酒を干して、ちゃぶ台に置いた。
「美味かった」
「陣三郎さん」
「なんだ?」
「あなたの次の人生が幸多からん事を切に願っております」
兄ちゃんがびしっと正座して座礼した。
「神様に願われちゃうまくいく気しかしないな」
俺も兄ちゃんに合わせて正座し、座礼を返した。
「さて、あまり向こうの時間を止めいていても良くないですからそろそろ」
「世話になったな、兄ちゃん。ありがとう」
「いえいえ、私も楽しい時間を過ごさせて頂きました。さ、その魔法陣の上に乗って下さい」
これかな?
後から出した魔法陣の紙の上に乗った。
兄ちゃんが聖杯が置かれていた位置に漆塗りの椀を置いた。
それが聖杯の代わりか。
「あぁ、そうだ。年齢と容姿はどうしますか?」
「歳?あぁ、今のままでいいよ」
「分かりました。後、これは餞別です。向こうで落ち着いたら使って下さい」
そう言って木の椀の中に丸い透明な石をコロンと置いた。
「分かった。ありがたく貰うよ」
兄ちゃんが魔法陣の紙の端にそっと手を触れた。
「では、陣三郎さん。お元気で」
「兄ちゃんもな」
魔法陣に青い光が走り、模様が浮かび上がる。
なんか軽くなった気がする。
ふわっと浮いた感じがした後、視界が白くて染まり、何も見えなくなった。
「契約が・・・、完全に切れました」
「そん、な」
フーカと姫犬の声が聞こえる。
あぁ、本当に戻って来たんだなぁ。
契約は、まぁそりゃ切れるか。
兄ちゃんの再構成魔法陣のお陰で、ほぼほぼ違う人間になってるだろうしなぁ。
まぁ、人か?と言われると若干怪しいが。
少しづつ、血が巡るような、力が湧き上がるような感覚がある。
けど、まだ動けないか。
「ごふっごふごふ」
口から血が溢れた。
肺に残ってたヤツかな。さっぱりした。
おわっ!
姫犬に強引に引き寄せられ、抱きしめられた。
「ジン・・・ジン・・・、やっと会えたのに・・・」
おいおい、血塗れなんだから、汚れるぞ。
しかし、ビリィにしろ姫犬にしろ、泣かれるのは堪える。
「おい、大丈夫だ生きてる」
「えっ?」
姫ビリィが身体から離れ、顔を掴まれた。
「え、ジン?本当に生きてる?」
「生きてるよ。死に損ねたと言ってもいいのかな?」
ポンポンと軽く頭を撫でて、笑ってやった。
「う、うぇ、よかったぁぁぁぁーーー」
再び抱きつかれて、泣かれた。
どっちにしても泣くのか。
仕方のないヤツだ。
「ビリィ、ありがとう。助かったよ」
「うぁぁぁぁぁ」
しかし、少し困るな。
チチの肉圧が半端ない。




