聖杯
七話連続投稿
五話目
王城に向かうほんの少し前、鎧の機能確認で試した事が五つある。
一つ目は手足の伸縮。
腕輪足輪にまで縮むんだから、逆に伸ばす事も出来るんじゃないか?と考えた。
結果は両手なら3m、片手なら6m。さらに細く伸ばす事で10mまで伸ばす事が出来た。
二つ目は鎧の形状変化。
どこまで変えられるのか試してみたかった。
黒甲冑と同じ形になってみたり、丸、三角、四角、果ては壁と同じ形になる事も出来た。ただし、質量に限界がある事と、色は変えられないので擬態は難しい事も分かった。
まぁ、それでも十分に鎧の枠を超えている。
三つ目は部分鎧化。
腕輪足輪になるのだから、手甲や脛当てのみで使えないかと考えた。
結果は鎧になる場合よりも強度が上がり、擬似的な剣を作る事も出来た。
万能感が半端ない。
四つ目は切り飛ばし。
簡単に言えばロケットパンチとか、指先だけ飛ばすとか出来ないかと考えた。
これはさすがに出来なかった。
五つ目が瞬間的な脱着と自動運転。
いざという時に鎧をこっそりと脱ぎ、囮として使えないかと考えた。
結果は半分可能といった所。
一瞬で脱ぐ事は出来たが、着るには一度、腕輪足輪に戻さないと付け難かった。一瞬で着るというのは無理だった。
囮となる事も、ほんの少しなら歩く事が出来たが、激しい運動などは不可能だった。
まぁ、こんな多機能な上にゴスババァまで付いてくるんだから、破格の性能と言ってもいいだろう。
っていうか完全に鎧というには逸脱し過ぎている。
球体なって四本の槍足をやり過ごしたが、想像以上の衝撃と減速感に焦った。
激しくなり続ける頭痛が考える力を奪っていく。
もうこれ以上は無理だ。
もう一歩の距離を、俺は鎧を踏み台にして、鎧を脱ぎ捨てて跳ねた。
フーカの声がした気がしたが、何を言っているのか分からない。
ズガッ
これか、フーカが叫んでいたのは。
俺の身体から離れてはいるが、鎧に何が起こっているのかは分かる。
人の足ほどもある太い槍が鎧を貫いてる。
足が十本ある蜘蛛?
よく分からんし、もうどうでもいいか。
姫さんの襟首を捕まえた。
これで事はなるはず。
俺は右手から自分の中にあるものを取り出し、姫さんの顔の前に突き出した。
「ごぶふっ」
これなーんだ?
と言いたかったが、口の中に溢れてきた血に邪魔された。
この作戦が決まった時から言おうと決めてたのに・・・、締まらんなぁ。
ま、いいさ。
万知さん、後は頼む。
聖杯に刻まれた文字が光り輝き、どんどんと強くなり、その光は俺と姫さんを包み込んだ。
聖杯。
それは勇者が勇者の為の作った魔法具。
勇者が子孫に使ってもらう為、自身と魔王を転生させる為に作った、勇者の身体と魂を保存する器。
普通、封印の魔法具を使う場合、使用する者と対象者の二人居なければ成立しないらしい。
封印という難易度の高い術は、細かくコントロールする者が居なければ、かなりガバガバな封印になってしまうからなのだそうだ。
つまりは、手や足が封印されずに残ったり、また逆に周囲の物を巻き込んでまとめて封印してしまったり。
そこで勇者は聖杯に細かい設定を刻み、自分のみを封印する、自身専用の聖杯を作った。
まぁ、この聖杯に選ばれた俺は、魂的にかなり近しい存在という事になる。
納得し難いが。
そして空になった聖杯は、有効範囲2m以内に魂と肉体があれば再び勇者を封印出来る魔法具として使える。
というのが万知さんの出した答えだった。
この解決法は俺にとってかなり都合のいいものだった。
何せ俺という存在が肉体と魂の二分割されるという、死とはまた別な結末を出してくれるからだ。
これによってフーカとの契約があやふやな物になり、うやむやになる。
と、これも万知さんが太鼓判を押してくれた。
ただ、それにより俺がどうなるか、というのは万知さんでも分からないらしいが、まぁそれは些細な事だろう。
これで万事解決。
となるはずなのだが、一つだけ疑問が残った。
姫さんの中に勇者の魂が入っているのは間違いないと思うのだが、あの蜘蛛の足みたいなのは何なのか。
あぁ、クソ。
頭痛ぇ。
ゆっくりと光が晴れた。
なんだよ。身体が無くなっても頭が痛いままかよ。胸もなんか気持ち悪ぃし、めんどくせぇな。
「げふっごふっごふっ」
咳に混じって血が出た。
ちょっと待て。身体が残ってんじゃねぇか⁉︎
姫さんは?聖杯は⁉︎
くそ、身体があるのは分かるが感覚が鈍い。動かねぇ。
聖杯は・・・、聖杯はまだ右手にあった。姫さんは・・・倒れてる。
聖杯になんかドス黒い魂が入ってるな。おい、万知さん、聖杯って魂と肉体を強制的に封じる物じゃなかったんか?
え?
入ってる?どこに?
・・・・・・。
あぁ、ちぃっっっっちゃいのがなんかいるね。
何これ?
マダニ?
あぁ、魔ダニね。あの魔ダニか。
いや、知らねぇけどさ、あの太い槍がなんだったのか分かった気がするよ。
「おい」
なんか聞こえた。
視界が今ひとつはっきりしないが、そこにいるのは姫犬だな。
「よし、まだ生きてるな。名前を教えろ。契約すればまだ助かるだろ」
あぁ、ごめん。言ってなかったけど名前教えても契約出来ないから。
え?出来る?かもしれない?
どゆこと?
「おい、早くしろ!このまま死ねばあの女狐も道連れにするんだろ!」
あ、そうだ。
身体が残ってるんだったら契約がうやむやにならない。
マズい、なんとかしないと・・・。
ぇ?なに?
「誰が女狐ですか。それと・・・契約が・・・切れつつあります」
なに?
お前、フーカか?切れるって・・・。
ぇ?聖杯が抜けても魂が変質するから契約が?うやむやに?
そうか、んじゃいいか。
「なに・・・。いや、なんでもいい!早く名前を言え‼︎」
無理。
口を開いても血しか出ねぇよ。
なんか身体からパキパキ音してるし、間に合わんよ。
?
姫犬の動きがピタリと止まった。
よく見えないが・・・上を見てる?
「は、はやく、なまえ・・・おしえて・・・」
あぁぁ、泣かせちゃったか。
すまんな。もう目も見えないんだよ。頭が痛いのももう分からなくなってきた。
「ジン!」
⁉︎
なに⁉︎
「ジン!また先に死んじゃうの?ジン‼︎」
また?え?お前、まさかビリィ⁇
え?なんで?ちょ、ちょっと待って。
もう見えない、お前本当にビリィ⁇
「ごぶっ」
なんとか口を開いたけど、出たのは血だけだった。
いかん、真っ白だ。
何も見えん。何か言ってるのは分かるが、もう何も聞こえねぇ。
待て、待ってくれ。俺はあいつに言わなきゃいけない事があるんだ。
頼む。




