攻防
七話連続投稿
四話目
迷う暇など無い。
出し惜しみ無しの全力だ。
万知さん何やってもかまわん、衝撃を全部押し返せ!まおーすまんが腕を貰うぞ。
地を踏みしめ、右腕をもって思いっ切り払う。
右の小手が唸りを上げて伸び、鞭の様にしなり、五つの赤い玉を一度に打ち払った。
一瞬音が消え、目の前に光の壁が現れた。
俺の中の気力というか、力が急速に抜けて行くのを感じる。
ズガァァン
空間が爆ぜた。
視界が白く埋まる。何も見えん。
右腕に衝撃が走る。右の肩から持っていかれそうになるほどに腕が弾けた。
引き戻した小手の手首から先がなくなっていた。
この程度で済んで良かったと言うべきなんだろうな。
よし、後はすぐそこまで来てる筈の黒甲冑に・・・
あ。
まおー、兜を寄越せ!
一瞬、気が遠のいた。
強烈な頭痛が押し寄せ、喉の奥から異物感が溢れてくる。
待て、ここで血を見せる訳にはいかん。
せり上がるフルフェイスの兜で口元を隠し、胸の奥からせり上がって来るものをぶち撒けた。
兜の中にびちゃびちゃとした音が響く。大丈夫だ。漏れなきゃごまかせる。
あっ、黒甲冑⁉︎
ガィィィィィン
金属のぶつかりあう激しい音に、思わず身を硬くした。
?
俺じゃない⁉︎
思わず振り返ると・・・姫犬⁉︎
姫犬が鉈みたいなぶ厚いナイフを持って、黒甲冑を殴り飛ばしていた。
もう一匹の黒甲冑に狼耳、柴耳、パピ耳が襲い掛かっていた。
「遅れまして申し訳ありません英雄様」
狐耳のフーカが俺の横に立っていた。
逃げても良かった状況だったろうに。俺が防がなかったらお前ら消し飛んでたんだぞ?
まぁ・・・、アレだ。ありがとう。
けど、姫犬ならともかく、こいつにありがとうは言えない。
こいつの覚悟に礼を言ってはいけない。
すまなさそうに頭を下げる狐耳の頭をポンポンと撫でた。
それより姫さんだ。
こんな閉鎖空間でわざわざ使ったんだ、自爆って事はないと思うが・・・なんだアレ?
光の壁が消えた先はポッカリと何もなくなっていた。
壁どころか床までえぐれている中に、銀色の玉?が一つやたらと異様な感じであった。
違和感が激しいがなんだ?アレ?
インヴィンシブル フォートレス?あのガウン?に付いてた魔法⁇
ただハデなだけじゃなかったのか、あのガウン。
銀色の玉がシャボン玉のようにパチンと弾けて消えた。
その中から、その部分だけが全く変わっていない、玉座の前に立つ姫さんが現れた。
やっぱり無傷か・・・。
無傷だが、鬼の形相でこっちを睨んでる。
そんな熱い視線でジッと見つめられると照れるね。背中に冷たい汗が流れるよ。
けど、さっきまでの剥き出しの殺気がなくなってる。アレを返されるとは思ってなかっただろうな。もう一回アレはできないだろ。
とはいえ、他にどんなのが仕込んであるのか分からない以上、あの杖を使われたくない。
もう一回は耐えられん。
ギリギリと締め付けられる様に頭が痛い。
ふと、右の手を見た。
深い皺がきざまれた、節くれた手はもうなかった。
これは張りのある働き盛りの手だ。二十代だな、三十は過ぎてる。本当もう時間がないな。
「フーカ、死ぬ気でついて来い」
「はい」
狐耳を置き去りにする位のつもりで駆ける。
姫さんが杖を前に突き出し、構えた。
杖に埋め込まれた石が光り出す。今度は青だ。
やらせねぇよ!
腰に挿してある黒曜石のナイフを引き抜き、杖に目がけて思いっ切り投げた。
ナイフに刻まれた文字が、淡い青色の発しながら杖に突き刺さった。
黒曜石のナイフに刻まれている魔法はマテリアルブレイク。
正直、良く切れるという以上の意味はよく分からない。
そのナイフが龍の形をした杖の首元に突き刺さり、貫通してる。
すげぇな。刺さるんだ。
杖を持つ姫さんの体勢が崩れ、杖から光が消えた。
今しかない。
地を蹴る足に力を込める。
姫さんと目が合った。
相変わらずのドブの様な腐った目。杖に刺さったナイフに驚いてる様だが、走り寄る俺を見て口元がいやらしく歪ませた。
まだ何か手を隠してる?
そう考えた瞬間、背中がゾワリとした。すげぇ嫌な感じ。
走りながら姫さんの姿に違和感がないか、どこか変わった所がないか注意して見る。
ガウンが膨らんでる?
あ、ヤバイ‼︎
「穿ち!貫け‼︎」
⁉︎
姫さんの声じゃない、フーカ⁉︎
背後から十数本の光の槍が姫さんに向かって飛んだ。
あ、あぶっ⁉︎
姫さんに当たるかという所で、膨らんだガウンから何本もの黒い槍が飛び出し、光の槍を弾いた。
そんな物を隠してたのか。フーカに感謝だ。
光の槍を弾いた節のある八本の黒い槍がうごめき、俺に槍先を向けた。
ふし?
アレは足か?蜘蛛っぽい。
足を止めずに走り続けた俺は、既に槍足の射程圏内に入っている。
頭痛は酷くなり続けている。仕切り直しはない。
姿勢を低くしてさらに加速し、突っ込んだ。
「つらぬけぇぇぇ!」
背後からフーカの光の槍が飛ぶ。
いいアシストだ狐耳。
四本の槍足が光の槍を弾くために動き、残り四本が俺の肩と太ももに向けて動いた。
大丈夫だ。
八本だと危なかったが、四本ならいける。
まおー形状変化だ!
俺は姫さんに向けて低く跳ね、手足をたたみ、身体を丸めて突っ込んだ。
それに合わせて鎧の形が変化する。
イガイガした歪な形だった鎧が平たく丸みを帯び、手足を畳んだ形に合わせて玉へと変化した。
ギギャッ
四本の爪が玉となった鎧の上を、嫌な音を立てて滑る。
上手くいった。
だがマズい、勢いが落ちた。
「英雄様‼︎」
フーカ?
フーカの声が聞こえた時、姫さんの肩口から生えた太い二本の槍が球体となった鎧を上から貫いていた。




