アンネマリー
七話連続投稿
二話目
広いな。
開けられた扉の奥には幾つもの柱が並び立つ巨大な空間があった。
そして何より明るい。
上を見れば柱と柱の間に光り輝く水晶の様な物がぶら下がってる。
魔法によるものなんだろうが面白いな。どうやってエネルギーを確保してるのか少々気になる。
それはさておき、扉から真っ直ぐ先へと赤いカーペットが敷かれ、その左右には槍を持った全身甲冑が等間隔に並んでいる。先は段差になっていて二段上がったその奥に姫さんが鎮座してた。
玉座というのだろうか。
椅子の背もたれが、これでもか!っと装飾されてる。椅子だけで3m以上あるんじゃなかろうか。
ここまでデカくてハデだと、人を飾る為に椅子があるのか、椅子を飾る為に人が居るのか分からんな。
ただ、その椅子に座ってる姫さんも負けてない。
金色の髪を飾るのは、髪に負けじと輝く色とりどりの宝石っぽい物が嵌め込まれた金色の王冠。
首元にはなんか色々と輝くネックレス。
ドレスも前より豪奢な感じなんだが、その上に羽織ってる・・・マント?ケープ?・・・ガウンかな?が凄い。
姫さんの小さな身に余る程に大きいのもあるが、赤い地が見えなくなる程に線を描いて生えるファーと、ファーに埋めてある光る石の列がまた派手派手な事。
そしてトドメがその手に持つ杖。
水晶を龍の形に削り出して作った様な、姫さんの身長と同じ位の長さがある、光り輝く石そのものの杖。その龍の頭に赤青黄紫緑の宝石っぽい物がはめ込んである。
目が五つあるってことかな?
・・・。
あの杖、ヤバくないか?
え?何?
アーティファクト級って何よ?
古代の遺物?一振りするだけで地が裂け海が割れるレベル?
バカじゃねぇの?そんなのあったら英雄とか召喚する必要ねぇじゃん⁉︎
代償?・・・代償ねぇ。代償があったら出来るってだけでも十分怖いと思うけどな。
やれやれ、処刑台に上がる気分っていうのはこんな感じなのかね。
開かれた謁見の間を眺めてる俺に、黒甲冑が顎をしゃくった。
はいはい、行きますよ。
先を歩く黒甲冑の後ろをついて歩く。
さて、平常心平常心。
成るように成るだろ。
一つ目の段差の手前で黒甲冑に手で止められた。
俺を制した黒甲冑はそのまま段を上がり、姫さんにかしずき頭を下げて姫さんの横に立った。
俺はその様子を立ったまま見てた。
この場合、俺は許可が下りるまで頭を下げてるとかじゃはいのかな?
まぁいいか。
「きっとまた戻って来られると信じてました」
そう口火を切った姫さんは、俺が初めて会った時の幼気な姫さんだった。汚泥の様な目をした姫さんの姿はどこにも無い。
今見ても騙されそうになるな。
「ギュスターブ様はどこでどう過ごされていたのですか?」
真っ当な質問だな。
「姫様のおっしゃる魔族というものを探っておりましたよ。町で獣のような耳や尻尾を生やした人がおりましたが・・・アレが姫様のおっしゃる魔族でしょうかな?」
「あぁ、ご覧になられたのですね。いかにもそれが魔族です。人に近しき姿ながらも人に非る存在。人の手により正しく導かねば、すぐに堕落してしまう悪しき存在、それこそが魔族なのです」
言い切ったね。
「ふむ、儂が見聞きし会った獣人達とは随分と印象が違いますな。」
「あぁ、いけませんギュスターブ様!それこそが魔族の手なのです。常に惑わし堕落への道に誘うのです。さぁ、私の手を取って、私と共に世界に正しい道を示しましょう」
本気で危惧していると言うように、今ならまだ間に合うと優しく微笑みかけるように、姫さんが俺に右手を差し出した。
「さぁ、私に本当の名前を教えて下さいますか?」
なんだ嘘の名前を教えたのもバレてたのか。まぁ、バレるか。
俺は段を上がり、姫さんの手を取った。
「あ」
ガギンッ
あんたは、と言おうとした。
敵地において注意を怠った。慢心と言ってもいいだろう。
俺は首に衝撃を受けて弾き飛ばされていた。
まさかシワを隠すために鎧を広げていたのが命拾いに繋がるとは思わなんだ。
「魔族に汚れし者が姫様に触れるなどおこがましいわ!」
・・・。
何言ってんだ??
「い、いけません!大丈夫ですか⁉︎ギュスターブ様!」
慌てたそぶりだが、立つでもなくこちらを覗く様に見る姫さん。
俺は吹っ飛ばされた時のまま、カーペットに寝たままで姫さんを見た。
へどろの様な目をした姫さんが口の端をにんまりと吊り上げ、血の涙を流しながら品のない笑みを俺に向けていた。
・・・血?
瞬きをして、もう一度姫さんの顔を見直した。
血の涙をは・・・ない。
前にも見た薄汚い、人の心の奥底から恐怖を呼び起こす笑みだ。
目の錯覚?頭を打った・・・?
何事もなかった様にゆっくりと立ち上がる。
ふと、左手に違和感を覚えた。
差し出された姫さんの右手、それに触れた俺の左手。
魔王の鎧に包まれた俺の左手に異変はない。
が、何かが残っていた。
目に見えない何か、俺はそれを右手でそっと包んでみた。
(助けて・・・)
⁉︎
(この国を・・・、人達を・・・助けて)
これは?
(お願い・・・私を・・・殺して・・・)
不思議な違和感が薄れていき、消えた。
この声は、確かに俺が黒い靄の渦に引き込まれた時に聞いた声だ。
私を殺して・・・か。
ずっと、耐えていたんだろうか。あのへどろに蝕まれながら・・・。
いや、多分違う、今も戦っているんだ。
あの手を差し出したのはへどろの意思じゃなく、姫さん本人が俺になんとか意思を伝える為に、必死に動かしたものなんじゃないだろうか。だから、唐突に黒甲冑が攻撃してきたんじゃないのか。
もしかしたら、召喚そのものから・・・。
うん、さっぱり分からん。
が、俺のするべき事は分かった。
さて、姫さん本人には悪いがその望みは叶えてやれないな。俺もちょっと年甲斐もなく意地を張りたくなっちゃったよ。
「アンネマリー様!」
胸を張って声高らかに。
「あなた様の高潔なる意思。確かに受け取りました」
両手を広げて大仰に。
「このギュスターブ。全身全霊を持ちましてあなた様の力となりましょう」
踊る様に軽やか階段を駆け。
「しかしながらアンネマリー様。その為には一つ懸念を排除せねばなりません」
優雅に全身を投げ打つ様にかしずいた。
不思議な物でも見る様な目でへどろが俺を見てる。
失礼な奴だな。
「懸念とは?」
俺は姫さんに向かって笑って見せた。
「賊の排除」
俺は不意に立ち上がり、姫さんの両脇に立っている黒甲冑に左右の拳をぶち込んだ。
まぁとりあえず、一発は一発な。




