勇者
大恋愛の果て、とか、悲恋の末、とかいうならまだ納得は出来た。
いや、したくもないが。
それが一方的な片思いの末の病質的な固執から、俺がこの世界に呼び出されたのかと思うと・・・もうどうしようか。
「となると元々、聖杯に入ってた魂ってのはやっぱり勇者のだったか」
「半分は合っとるの」
また半分か。なにがどう半分なのか。
「その聖杯はあやつの作った特別製での、魂から肉体まで全て封印出来るように作られとったのよ」
なに?
「って事は?この身体って・・・」
「お主の魂に引きずられて多少変わっとるが、あやつの肉体が元よ」
なんてこったい。
・・・あれ?ちょっと待てよ。
「勇者って何歳で自分を封印したんだ?」
「確か・・・八十二じゃったと記憶しておる」
俺が死んだ歳と同じかよ。なにその天文学的な確率。
いや、この場合は異世界学的な確率になるんだろうか?
「するってっと、俺が今若返ってるのって勇者の仕込みか。んじゃ一定年齢になると若返りが止まる?」
万知さんの意見とは異なるな。
「本来であるならばあの転生陣で設定された年齢から始まっておるはずだがな。無理矢理召喚陣に変えられた上に、余計な文言が嵌っておるお陰でどんな作用が働いておるのかもう分からんよ。それよりお主の中に魔書が入っておろう。もう答えはでておるのではないか?」
ですよねぇ・・・。
予測は変わらんか。
「ところで勇者の魂はどこ行ったんだ?」
「あぁ、アレか。アレなら喰われたよ」
喰われた⁉︎
「誰に⁉︎」
いや、誰にはおかしいか。人が喰った訳じゃあるまいに。
「現国王に」
人だったー。しかも子孫だったー。
「歴代の王はみなあやつの血を色濃く受け継いとったわ。皆、傲慢で疑り深く慎重だったわいのう。こういう結果になるのは必然だったじゃろうて」
「なんでまた魂を喰うなんて・・・」
「それはあやつが嘘を付いておったからよ」
「嘘?」
「正直に教えたなら絶対に使われない。そう考えたあやつは嘘の仕様書を残して置いたのよ。英雄たり得る力を込めた聖杯であるとな」
それで力(魂)だけ流れて肉体だけ残ったと?
「二十年ほど前になるかの?この国にあやつの望んだ危機が訪れたのよ。儂は鎧の中に封じ込められおったが故に、何が起こったまではわからんがの。その危機を乗り越える為にあやつの遺した英雄召喚陣が必要になると思われた。
じゃが、召喚陣を調べておった王は、その召喚陣の危険性に気付いてしまった。そこで王は、強大な力を持つ何かを生み出すよりも、その力のみ自分に使う方が合理的であるの考えたのじゃよ」
うわぁ。
「憐れ勇者。子孫の糧になったって事か」
「うんにゃ、あやつの魂なぞ毒にこそなれど、薬になる事などありゃせんわい」
何?
「言うたじゃろ。力のみを自分にと」
何?
「力のみと思うて魂ごと飲み干した王は確かに強うなった。じゃが王が力として吸収出来たのはその表面部分だけだったんじゃよ。魂は形を成さぬまま王の中に残ってしもうたという訳じゃ」
何?
「まだ分からんか」
分かんねぇよ。
「王の中に残っておった魂は消化もされぬまま外に出された。新たな命としてな」
新たな命?
・・・なっ⁉︎
「気付いたか?あやつの魂はやつの子供、王女へと流れたのじゃよ」
「じゃ、十八歳の誕生日に人が変わったようになったってのは・・・」
「たしか儂とあやつが初めて会ったのは、あやつが十八のときだったかの?」
魂にリミッターを入れてたのか。
「姫さんがドブが腐ったみたいな目をしてたのは?」
「あやつは儂を殺し、魂を鎧に封じ込めた時から狂いはじめておったよ。それでもその時はまだ正気を残しておったし、それにあやつは天才じゃった。
儂の身体を再生し、支配下に置き、かつ自らも転生する転生陣を完成させるのには長い年月を要したが、生きている間に完成させた。その時はまだ正気を残しておった」
想い人を支配下に置くように設定してる時点で正気を疑うがな。
「じゃが、あやつは疑り深いが故に、失敗したのよ」
「失敗?」
「聖杯に肉体の時を止める術は施したのじゃが、精神を眠らせる術は施さなんだのよ」
つまり・・・。
「身動きの取れぬ聖杯の中で、あやつは二百五十年近くも使われる日を待ち過ごしておったのよ」
うわぁ、そりゃ狂いもするわ。
「その果てに飲み干されてはな。流石の儂も見ておれんかったわい」
そりゃドブだって腐るわ。考えただけでゾッとする。
「しかし、多種族間同盟を完成させて平和の礎となった勇者様が、今度は戦乱の種とはねぇ」
この話は外にゃ出せねぇなぁ。
「まぁ、わしもその点だけは感謝しておるよ」
・・・ん?感謝?お前、魔王だよな。
「そういえば、ゴ・・・あんたって世界征服しようとしてたんだっけ?」
危ねぇ!
「今、何を言いかけた?」
「噛んだだけだよ」
「ふん、まぁいいわ」
あっぶねぇ‼︎
「儂が目指しておったのは世界融和よ。失敗したがな」
「洗脳実験場を作ってか?」
「儂は・・・いや、そうだな。間違ったんじゃよ」
否定はしないのな。
でもまぁ・・・そうだな、こいつは悪党じゃないし、馬鹿でも狂人でもない。
なんか色々とあったんだろうな。言葉通り、間違ったって言ってしまう様ななんかが。
はぁ、なんか疲れたな。
勇者の話も聞けた。
姫さんの状態も分かった。
俺が呼ばれた理由と状態もなんとなく分かった。
まぁ、この部分は納得出来んが。
後はもう聞く事はないかな?
「話は済んだかの?儂も久しぶりに長話をして疲れたわい。用がないなら鎧に戻るかの」
・・・鎧?
「ちょっと待て」
一つ忘れてた。
「まだ何かあるのかの?」
「俺が死んだなら、お前はどうなる」
これを聞き忘れたらいかん。
「今の儂は主人に囚われ封じられた女童にすぎんよ」
ゴスババァが何を、そんな女童がいてたまるか。
「答えになってねぇよ」
ゴスババァが諦めた様に息を吐いた。
「主であるおぬしが死ねば儂もまた死ぬじゃろうが・・・、勘違いするでないぞ」
「何をだ?」
「魔族であり魔王である儂にはとっても三百年という月日は短くなかったのじゃよ。生であれ死であれ、何らかの結末位は欲しても構わんじゃろ」
そうか、魔族ってのがなんなのかはよく分からんが、それもそうだろうな。
「んじゃ、有事の際は酷使するけど構わねぇな?」
ゴスババァが少し微笑んだ。
「無論」
笑みを残したまま姿が薄くなり、すぅっと消えていった。




